8.VSウルフ
※残酷な描写あり
ウォオオオオーーーーン・・・!
ガルルゥ、グルゥ、ガウッ!
カン!カン!キン!ガキン!
狼の遠吠え、獣の唸り声、そして激しい剣劇の音が森の奥から聞こえてきた。
その音の中に・・・
ウワアァァー!ヒィーーーッ!ギャアアアア!
という人の悲鳴が混ざり、それからすぐに、ガサガサガサ、と草の茂みをかき分けて走ってくる音が段々大きくなり、二つの人影が草むらから飛び出した!
それは先ほどのチンピラPTのうちの二人だった。
「クソッ!なんでこんなところにあんなバケモノが!?」
「知るか!街まで逃げちまえばこっちのもんだ!」
そのチンピラ二人は俺の事には目もくれず、何か喚き散らしながら森の出口の方へ逃げて行った。
俺は何か異常な気配を感じ、すぐにその場から退却した。 すると後ろの方から人間のものとは違う、こちらに向かって走ってくる足音と荒々しい獣の息遣いが聞こえてきた。
俺は全速力で森の出口に向かって走った。 途中、他のプレイヤーに出会うとそれをよけて走りながら、
「逃げろ!何かが異常だ、逃げるんだ!」と声をかけたが、多分伝わってないだろう。 そのことは、後ろから聞こえてくる獣の唸り声とそのプレイヤーの悲鳴で理解できた。
必死に走り続け、ついに出口までたどり着き、森から脱出した。
平原に出るとさっきの二人組の後ろ姿が見え、その後ろにはクラウドの街の防壁が見えた。
振り切る事が出来たか? 俺は走りながら後ろを振り返った。
だが、その追跡者は対象が縄張りから出たにも関わらずしぶとく追い続け、木々の陰から飛び出しその姿を現した。
灰色の毛深い毛皮と犬に似た四足のその獣は間違いなく狼型モンスターの|『ウルフ』である事が分かった。 森から飛び出した3匹のウルフは、内1匹は平原にいた他のプレイヤーPTに襲い掛かり、あとの2匹はそのまままっすぐこちらに迫ってきた。
俺は追いつかれないように走り続け、ようやく門までついたが、そこではチンピラ二人組が門を守っている衛兵NPCに止められていた。
「なにやってんだ!そこをどけ!街に入れろ!」 チンピラが衛兵に怒鳴る。
「いや、駄目だ!モンスターに追われている者を街に入れるわけにはいかない。我々も協力するからここでモンスターを撃退しよう」 衛兵の一人が冷静に対応し、共闘してモンスターを倒すことを提案するが
「どけって言ってるのが分からねぇのか!?テメェ、NPCの分際で調子に乗りやがって!どかねぇとぶっ殺すぞ!」もう一人のチンピラが怒りだし、衛兵にナイフを向けた。 これに対し衛兵は、
「ほう、我々に剣を向けるのか、お前達の方こそ覚悟はできてるだろうな?」と剣を鞘から抜いて構え、一触即発の空気になった。
馬鹿なチンピラ共だ、NPCの協力を受け入れてモンスターと戦った方がまだ活路があったろうに。
と思っていると、俺の左右を追ってきたウルフが通り過ぎた。 2匹の狼は俺に目もくれず、無防備な背中をさらしているチンピラ二人に狙いを定め、その首筋に牙を立てた。
チンピラは声にならない断末魔の叫びを上げ地面に倒れ、それをウルフが餌を食べるように噛み付き、やがて死亡判定が出て身体が消えていった。
仕留めた獲物が虚空に消えると、ウルフ達は今度は後ろにいた俺に狙いを定めた。 こうなったら戦うしかない。 背中に背負った固定銃座を素早く設置して戦闘の準備を完了する。
「ここで仕留めるぞ、援護頼む!」 俺は近くにいた衛兵NPCに声をかける。
「分かりました、援護します!」 「了解した、任せな!」
門を守っていた衛兵二人はさっきのチンピラに対する険悪な雰囲気から一転、友好的に俺の呼びかけに応じ、戦列に加わった。 そしてウルフの先制攻撃で戦いが始まった。
2匹のウルフは最初、俺の方へ向かってきたが、衛兵が挑発系のスキルを使い注意を向けて引きはがしてくれた。 隙を見せたウルフ1匹の背中に銃弾を集中して浴びせ撃破し、もう1匹に攻撃を仕掛けると再び俺の方へ向かってきた。 俺は向かってきたウルフを銃を使わず足で蹴り飛ばし、飛ばされた先にいた衛兵がすかさずそれを仕留めた。
よし、2匹とも仕留めることが出来た、と思ったその時!
ワオオオォーーーーン!
狼の遠吠えが辺りに響き渡り、そして森の方から更に数匹のウルフが飛び出してきた。
どうやら先程他のPTに襲い掛かったウルフが仲間を呼んだようだ。 俺はすぐさま銃口を森の方へ向け、こちらにまっすぐ向かってくる狼の群れに照準を合わせ、機銃のトリガーを引いた。
だが、いくらレベルが上がっていても初期装備の銃ではダメージが入りにくい、向かってくる5匹の群れのうち、3匹は倒したが2匹は接近を許してしまった。
近づいてきたウルフの1匹は固定された銃座をジャンプで飛び越えると俺の身体に飛びついてきた!
狼は相手が金属で出来ていてもおかまいなしに首筋に牙を立てようとする、この光景はかなり怖い。
両腕は獣の前足で抑えつけられ動けない、衛兵達は向かってきたもう1匹の対処に追われこちらの救援はすぐには無理だろう。 俺はなんとか抵抗しようとし、その長い頭でウルフに頭突きをした。 ウルフは少しひるんだが、すぐにまた牙を立てようとしてくる。 俺が今度は足でウルフを蹴り飛ばそうとしたその時!
「うおおおおおおおりゃああああああ!!|『シールドチャージ』!!」
猛々しい女性の声と共に巨大な金属の塊のようなものが、俺の上にいたウルフを遠くへ弾き飛ばした!
そして倒れている俺に手を差し出し、起き上がるのを手伝った。
「あんた大丈夫?怪我はない?」
俺を助けてくれた女性はそう尋ねた。 その女性は全身を重装甲の赤い鎧で包み、その手には身の丈程もある巨大な盾が握られていた。
俺は女性に大事ないと伝えると周囲を索敵した。 右前方方向に先程弾き飛ばされたウルフが横たわっていた、だがまだ体力が残っているのか起き上がってこちらに向かおうとしていた。 俺はさっきの礼だと言わんばかりにそのウルフに銃弾を浴びせて倒した。
俺は門の方を見ると、青い軽装鎧を着て、片手剣を装備した青年がウルフと戦闘し、そして倒していた。
青い鎧の青年はモンスターを倒すと俺と赤い鎧の女性と合流した。
「よかった、無事みたいだね。ここは危険だ早く街の中へ!」
青年はそう俺に言うが、俺は既に敵の気配を察知していた。
「少し遅かったみたいだな、新手だ!」
森から更にウルフが数匹現れる。
「ここは僕達に任せて。ジル、気を引き締めて行こう!」
「よっしゃあ!バロン、蹴散らすわよ!」
『ジル』と呼ばれた女性は、|『バロン』と呼ばれた青年と共に向かってくる狼の群れに突っ込んでいった。 俺は、二人を撃たないように|(このゲームには誤射の概念はないが)援護した。 だがそうしなくても、二人は実際強かった。 みるみるうちに敵の数が減っていく。
「いくぞ、|『シャイニングソード』!」
バロンがスキルを使い群れの最後の一匹に攻撃する、まばゆい光と共に繰り出される斬撃にウルフがひるむと、
「うらあああ!|『シールドアッパー』!」
ジルが大盾を豪快に叩きつけ敵を空中へ突き上げる。
今だ、このタイミング!
俺はそれに照準を合わせるとトリガーを引き、空中にいるウルフをハチの巣にし、撃破した。
その後、残った敵を掃討し、事態は終息した。
戦闘終了後、俺は二人のプレイヤーと改めて自己紹介をした。
バロンとジルは初期のころからSoFOをしている中堅プレイヤーで、いつも通り探索に向かおうとしたら、門の外が騒がしいのに気づき外に出ると俺がウルフに襲われているところに出くわしたらしい。
そして会話をしていく中で俺の武器の話題になった、尋ねるとやはり不遇武器で使っている者は少ないらしい。
「だが俺はこの武器を変えねぇぞ、せいぜい扱いを極めてやる」
俺がそう言うと、ジルは「まあそういうのも面白いわね」と笑った。
去り際に二人は俺とフレンドになってくれることを話した。
「いいのか、俺は今日はフィールドワークだが、普段は列車動かしてるだけだぞ」
「いいよ、もしかしたらこの先また会えるかもしれないからね」
「それにわたしたちが遠く行くときは特別料金で乗せて貰えたらそれでいいしね」
二人にそう言われ、俺はフレンド登録を了承した。
そして二人と別れ、俺は街に戻るとクエストカウンターや店でドロップアイテムを納品し、駅舎の自分の部屋に戻りログアウトした。
作中に出て来たワードの補足:NPC衛兵
大きな街や城下町にはもちろん、小さな村にも駐在しているゲーム内の警察機構。
街の治安維持と犯罪摘発を目的としており、NPCだけでなくプレイヤーもその対象となり、犯罪者の状態だと街に入れなくなり、入っても衛兵に逮捕され、ペナルティーを受ける。
衛兵と敵対していなければ施設の場所を教えたり、門の近くなどで戦闘が始まると加勢したりしてくれる




