6.車体状態確認~運転試験~初めての輸送
機関車を俺の丁度目の前に停車すると、レイニーが運転室から颯爽と降りてきた。
「これがあんたの乗る機関車だよ、さっそく乗ってみて!」
と、機関車に搭乗する事を俺にすすめた。
俺は乗る前に機関車の状態を確認することにした。
まずは大まかな所から確認、運転室の後ろは壁がなく、そのかわり石炭のような黒い石が満載された車両、炭水車が連結されているというその形から|「テンダー式機関車」という分類であることが分かる。
次に細かい部分を確認しよう、機関車の車体全体を見ると、清掃はされているようだが、所々錆びついており、塗装も剥がれている箇所がある。 しかし車体のメインの部分であるボイラーはちゃんと整備がされており、蒸気漏れの心配はないだろう。 ボイラーの上に付いている汽笛と蒸気を溜めるドームは金色に磨かれ輝いている。 煙突は何故か蓋がついたストーブの物のような形をしており、やはり説明文の通り代わりのパーツを使って修理したのだろう。 車輪は今はホームの陰に隠れて見えないが、駅の中に入ってくるときにチラッと見た感じだと2軸4輪だろう。 炭水車はよく見ると無蓋車|(屋根がない貨車)を改造しただけの物であり、水を入れる所がなかった。 だが、機関車の方をよく見ると、汽笛とドームの間に蓋のようなものが付いており、そこから水を入れるのだろう。
俺が車体の確認をしていると、レイニーが、
「大丈夫だよ!整備はあたしがバッチリ仕上げたからね!」
と胸を張って言った。
俺はその言葉を聞くと、車体確認を終え、機関室の中へ入った。
機関室の中はそれほど暗くはなかった。 停車したときに火も落としたようでかなり静かだ。
機関室の中も確認してみよう。 やはりゲームなので全体的に細かい部分は省略されているが、ブレーキや機関車が進むために必要な装置は俺が知っている通りの位置にあった、天井にも汽笛を鳴らすためのロープが付けられている。
しかし、ひとつ見慣れないものがあった。 それは石炭をくべる窯の上、そこになにやら小さなランタンのようなものが付いている。 そのガラスのケースの中で小さな火が燃えていた。
レイニーが説明する。
「それは|『火種』っていう装置だよ。 蒸気機関車を動かすのに必要なものなんだ。 そのケースを台座から外して、窯の中へ放り込めば火が灯るよ」
そう説明を受け、火種のケースを台座から取り外そうとすると、プシュッ、という炭酸飲料のような音を出して簡単に取れた。 そしてそのまま窯の戸を開け、中に放り込む。
すると・・・
ゴウッ!
あっという間に窯の中で炎が燃え盛った!
俺はそれに驚いたが、すぐに慣れた手つきで窯にショベルで石炭を入れる。 すぐに蒸気が生成され、煙突から白い煙がモクモクと上がった。
「かなり手際がいいね!それならもう路線を走ってもいい位だけど、まずは運転試験を受けなくちゃね。 この駅の操車場に運転を訓練する場所があるんだ、今からそこに案内するよ!」
そういうとレイニーは俺のいる機関室に乗り込んだ。 俺は自然な動作で機関車をゆっくり前進させた。
そして汽笛のロープを2回引く。
ポッポー!
とお馴染みの汽笛の音が駅の中にこだました。
機関車をゆっくり走らせて操車場の奥にある機関車運転訓練場まで到着した、が・・・
「・・・この惨状は一体」
俺は唖然としてそう言った。
機関室から降りたレイニーも、その光景を見て頭を抱えている。
訓練場には他のプレイヤー達の機関車、俺と同じアンクルパフが|(煙突の形状は違うがそれ以外はほぼ同じ)沢山いた。 だが、そのほとんどが何かしらのトラブルを起こしていた。
あるものは他のプレイヤーの機関車と正面衝突して口論をしており、あるものは止めてあった貨車に乗り上げて身動きが取れない状態になったり、どういうわけか線路から大きく脱線し、地面に車輪の跡を残してそのまま溝の中へ転落しているものまであった。
とにかく訓練場内のいたるところで車両が脱線しており、まさしく惨状といえる状態だった。
レイニーは、ため息をつくとあらためて言った。
「・・・ここが訓練場だよ、ここで運転試験をするつもりなんだけど・・・する?」
「・・・やるしかないだろ」
俺は即答すると、レイニーは試験の内容を伝えた、この訓練場を無事に1周出来ればクリアとなるそうだ。 レイニーの「気をつけて行くんだよ!」という声を背中に俺は試験を開始した。
現実世界での機関車運転に慣れている俺はいつものように機関車を走らせた。 赤信号では停止して青信号になってから進む、分岐点ではポイントを切り替え、前から来る車両との衝突を防いだ、踏切や交差点では左右を見て、安全を確認してから発車する、カーブや凸凹した線路ではスピードを落とし徐行して脱線を防いだ。
俺は普通に運転していたが、周りのプレイヤー達からはかなり滑らかな動きに見えた。レイニーも関心した様子で見ている。
あっという間に訓練場を1周して戻ってきた俺にレイニーは拍手で迎えた。
「すごいじゃないか!初めてであそこまで出来る人はそうそういないよ!よし、運転試験は合格だよ!
それじゃあ次が最後の試験だよ、準備はいいかい?」
次が最後か、もちろん俺はそのまま試験に挑んだ。
場所を少し移動して、最後の試験が開始された。
「最後の試験は輸送試験だよ!黒魔晶を向こうの街まで運んで帰ってくれば合格だよ」
アンクルパフの後ろには1台の貨車が連結されていた。 荷台には炭水車に積んでいるのと同じ黒い鉱石が積まれていた、これを次の街まで運べばいいようだ。
「あんたなら絶対に出来るよ!頑張ってね!」
レイニーが激励の言葉を言うと俺は
ポッポー!
と、汽笛を鳴らすと操車場を出発した。
レイニーが手を振って見送るのをこちらも手を振り返しながら・・・・・・その直後、彼女の後ろから胸を掴んできた他のプレイヤーに対し、持っていたレンチをプレイヤーの頭にクリーンヒットさせる光景を見送りながら・・・
クラウドから次の街まではかなり順調に進んだ。 俺もいつもとは長距離の路線を風を感じながら楽しんだ。
そして、目的地の街、|『ラッシュ』の駅に到着した。 6番ホームに停車すると、そこには輸送の依頼主の紳士とガタイの良い労働者数名|(全員NPC)が待っていた。
「ふむ、定刻通りだな。 ご苦労、これが報酬だ」
そういうとその紳士は俺に報酬金を渡し、控えていた労働者に指示を出した。 あっという間に貨車から黒魔晶を全て降ろし、荷車に載せて駅を出て行った。
俺はそれを見届けると一旦貨車を外し、操車場内の転車台|(手動)で車体を方向転換し、置いておいた空の貨車を連結して帰る支度をした。
と、そこへ、先ほどとは違う口ひげを生やした紳士NPCが話かけてきた。
「おーい君、すまないが乗せていってくれないか?クラウドの方へ行く予定があったのだが、列車に乗り遅れてしまってね。」
突然の仕事だが、俺は冷静に対処した。
「そうなのですか、しかし今は客車を連結してませんし、貨車に乗っても先ほど黒魔晶を運んだので服が煤だらけになりますが・・・」
「構わないさそれでも、急ぎの用事でね、すぐにいかねばならないんだ。 それにちゃんと運賃は支払うよ」
そういうと紳士は貨車に乗り込んだ。 俺はそれを見ると汽笛を
ポッポー!
と鳴らし、すぐに出発した。
行きのときよりも少し速度を上げたので、すぐにクラウドの駅へ帰ってきた。
「いやぁ、おかげで助かったよ。少し多いが運賃だ、とってくれたまえ」
そういうと紳士は俺に|(多分相場より高い金額)を俺に渡すと一礼して駅を出て行った。
そこへレイニーがやってきた。
「おかえり!速かったね、仕事はうまくいったみたいだね。 それに困っていたお客さんも助けてあげたみたいだし、もうこれは文句なしで合格だよ!おめでとう!」
そういうと、試験の合格とクエストの完了を表すメッセージが表示された。
それから俺はレイニーから黒魔晶と水の補給方法と機関車の整備方法を教わると、
「それから、あんたに見てほしいものがあるんだ」
と言って、車庫の入り口まで案内された。
シャッターが開いて中へ入るとそこはかなり広いガレージになっていた。
「ここが、あんたの部屋兼車両ガレージだよ、好きに使ってね」
ガレージの横には確かに人が生活できるスペースがあり、ベッドで寝れば宿屋と同じように体力を回復できるそうだ。
「あとはいろんな種類の仕事が出来るように新しい車両もあげる、確認してみて」
と言われたのでメニューを開いて新しい車両を確認する。
車両名:無蓋貨車
種類:貨物
重量:1
説明:
屋根がついていない貨物車。 風雨にさらされても影響のないものを運ぶのに向いている。
積載可能貨物:
黒魔晶、石材、木材、牧草 など
車両名:有蓋貨車
種類:貨物
重量:1
説明:
屋根がついた貨物車。 濡れてはいけないものを運ぶのに向いている。 また、貴重品の輸送にも使われる。
積載可能貨物:
食料、紙類、金塊 など
車両名:古い客車
種類:客車
重量:1
説明:
人を乗せて運ぶ車両。 旧式だが、内部は掃除されている。
確認を終えると、今度は服を渡してきた。
「これはうちの鉄道の制服だよ、機関車を運転するときはこの服に着替えてね」
俺は制服を受け取るとアイテムパックの中へしまった。 これは戦闘よりも機関車に乗るときに装備しよう。
それから彼女は、締めくくりにこう言った。
「これであんたはあたし達の家族だよ、これからもよろしくね!それじゃ!」
そう言って彼女は部屋から出て行った。
よし、ログイン初日はこんなものだろう。
部屋に残った俺は、備え付けのベッドに横になると、ログアウトして明日の仕事の為に眠りについた。
開始から6話目でようやく1日目終了、展開が遅いな|(笑)
作中に出て来たワードの補足:黒魔晶
正式名称|『黒化魔法結晶』 様々な属性の魔法結晶から急激に属性が消失し、黒く変色したもの。
とても燃えやすく、魔法の生成や、魔法結晶を用いた機械のパーツとしては利用できないが、燃料としては優秀なので、蒸気機関車や暖炉の燃料として使われている。




