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22. VSマザーウルフ

チーム会議から早3日後、ついに賞金首モンスターとの戦闘日がやって来た。

俺はゲームにログインすると、メンバーとの集合場所の冒険者ギルドへ向かった。

ゲーム内の時刻は丁度夜明けの時間で、東側に広がる海原の水平線からは、太陽が昇り始めていた。

集合場所に着くと、すでに何人かメンバーたちも来ていて、それから間もなくして攻撃に参加する全てのメンバーが揃い、戦いに出発しようとした時トラブルが発生した。

というのも、メンバーが揃った丁度その時ギルドの職員がチームリーダー・ブラッドに緊急の任務を伝えに来たからだ。

その内容は、簡単に言うと「人質救出」で、山賊に誘拐された市民を助け出すという内容だった。

山賊の位置はすでに特定し戦力も把握しそれが簡単なものだったため、ブラッドは急遽その任務にベテラン一人と新人メンバーで構成した研修部隊を送ることにした。

その部隊員は、ベテラン隊長にレンジャー_666を指名し、隊員にローズマリー、クラッシュ、ヘイゼルと新人メンバーの機械人男性と魔族女性が入り、この編成で人質救出任務に向かうことにし、残ったメンバーは予定通りマザーウルフの討伐作戦に向かう事となった。


そして、現在地点・クラウドの森


「ターゲットが根城にしている地域に着いたな。いいか皆ここからは敵の本拠だ、どこから襲って来ても不思議じゃない。不意を突かれないように周囲を警戒しておけよ」


森に入ってすぐにブラッドが皆に注意を促した。


「は、はい、分かりました!・・・それにしても薄暗い森ですね、もう少し日が照ってからでもよかったのでは?」


アルトの言う通り、日の出から少し時間が経ったとはいえ森の中は、ある程度整備された街道や一般人の素材採取用の横道はともかく、そこから一歩外れた微かに人の往来の痕跡が残るのみの現在は使用されていない小道や道なき木々の茂みの中に入ると、生い茂った樹木の木の葉が大地へと降り注ぐ日光を遮り日陰となって薄暗くなっていた。


「そうだな、だがターゲットが居座っている深部エリアは、昼間でも木漏れ日が差し込まず、その地域に生息している光る植物や毒沼の光で辛うじて視界が見えるレベルの暗さだ、今の内に目を慣らしておいた方が良い」

「分かりました、気をつけます」

「ええと、私からも質問が・・・深部エリアまではどれくらいかかりますか?


ブラッドがアルトの疑問に答えると、次はサクラが質問する。


「そう遠くはない、途中で何者にも出くわさなければ数分で到着出来る。だが、交戦が多すぎて進軍に手間取ると危険だ。時間が経ち過ぎて夜になってしまうと、深部エリアの暗さは今以上になる。夜の深部エリアは灯りがないと足元も確認出来ない程の暗さだ。そこでは完全に狼たち(ヤツら)の独壇場だ、だから昼の時間帯の内に勝負をつける必要がある」

「わ、分かりました!それでどのように進めば・・・」

「そんなん問題ナシナシ☆ 接敵を避けて出会った敵は速攻瞬殺!深追いせずにズンズン進めばあっという間に到着にゃ!」


木の枝を猫のように飛び移りながらキャット☆アイが進軍計画を説明した。

初めて出会った時のように狭い地形でも素早く移動出来、高速で敵の首を狩れる彼女のような者がいれば、全体の進軍速度に影響はなくとも、スムーズに目標地点へと進めるだろう。


「あたしからも良い?ボスエネミーと戦闘に入った時の戦法なんかを確認したいんだけど」


そう言ったのは俺たちと同時期にチームに入った人間族女性プレイヤー『カンナ』だ。

前衛系プレイヤーで、

足にはサンダルを履き、

手足には包帯型のバンテージを巻き、

牛角を模したカチューシャを頭に着け、

その豊満なバストを谷間の位置にあるリング型留め具が付いたベルトで強引に締めて歪ませ、

腰部は局部をV字のギリギリラインで隠しつつも、大きく丸く、少し動くたびプヨプヨムチムチと弾むグラマラスな尻肉とその谷間を惜しげもなく外界にさらしたベルトパンツ

を装備している通り防御力は低いが、両手に片手で扱うにはやや大型の片手斧を2つ装備し、肉弾戦と物理攻撃によるゴリ押しをメインにしたバーサーカー的戦闘を得意としている。


「ン、そうだな。それじゃあ今の内に説明しておこう。

ターゲットと接敵することになる深部エリアは、さっきも言った通り薄暗く視界が悪く、地面は四方に張り廻った太い木の根や毒沼で足場も悪い。当然そんな不安定な地形では戦いにくいし不利だ。

だが幸いにも深部エリアには地面が平らで木々が生えていない為日光が照りつけて明るい円形広場状の地形が点々と存在している。そこに敵を誘い出して戦うのが一番安全で確実だ。

今回俺たち(ベテラン)二人はサポートに徹してお前たち(ルーキー)が主力だ。

心配するな、お前たちの編成は前衛2人・後方支援2人・回復役1人とバランスが取れているし、なにより今日までの戦いの経験があれば十分に勝てる相手だ。頑張れよ」

『はい!分かりました!』


ブラッドの激励に部隊の新人メンバー全員が応じた。

俺も自分の役割を果たさないとな。


「うふふ☆頼もしいにゃ~」

「ああ、そうだな。・・・ところで、さっきからJ-7の姿が見えないがどこにいる」

「ええっ!?そんな!?」

「ど、どこかではぐれてしまったんでしょうか?!」

「大丈夫にゃ~、森に入ってから姿は見えないけど気配は感じるからすぐ近くにいるにゃ」

「俺はここだ、大丈夫ちゃんとついて来てるよ」


パーティメンバーには俺の姿が視認出来ないらしく、キョロキョロし始めたので声を出して自分の位置を知らせた。


「そこにいたのか。いつもの白いボディならこの森の中で目立つと思ったんだが、何故その装備を?」

「ウチのチームの職人たちに作っていただいたんだよ」


俺はこの森に入った時から、白い金属の装甲の上にギリースーツを装備していた。

このギリースーツはフード付きロングコート型になっており、装備の上から装着出来、尚且つ身体の動きが阻害しにくくなっていた。

何故、このような装備を着けているかというと、俺は前から迷彩装備の必要を感じていたし、今回のような地形では必ず必要になると判断したからだ。

実際FPSでは迷彩はとても重要で、あるとないとでは、被弾率も被発見率も格段に違った。

まあ、MMOでも同じかは分からないが。


「でも、あまり意味がないのでは?回復の時に居場所が分からなくなりそうですし・・・」

「いや、中々有効な戦術だと思うぞ。説明しよう」


ブラッドがこのゲームにおける迷彩の有用性の説明を始めた。

ステータスパラメーターの項目に、『迷彩(カモフラージュ)隠密(ステルス)率 (%)』というものがある。

ゲーム初期からあるステータスで、サービス開始当初はどういう数値なのか把握されていなかったが、攻略サイトのプレイヤーが検証した所、これは自分の存在を相手から認識しにくくする効果があることが判明した。

数値は-100%~+100%まであり、-に近ければ自分が目立っている事を示し、+に近ければ自分が透明人間・忍者である事を示している。

この数値は常に一定ではなく、自分が今いる場所・装備・使用スキルによって増減し続けているらしい。

そして、このステータスが戦闘にもたらす効果はとても大きく、自分が周囲の景色に溶け込んでいればいる程ターゲットにされなくなり、非戦闘状態で近づいても感知されなくなり、攻撃を与えても戦闘状態になりにくくなるという、モンスターの攻撃の矛先が重要な要素になっているMMOではとても重要な数値だったのだ。


にゃ・・・にゃんだってーーーーーッ!?!?


おいキャット☆アイ勝手にナレーションに割り込むな。


「だから後方支援タイプのJ-7が迷彩を施すことは、戦術的に非常に有効だ」

「俺が思いつきでやったことだが、そう言ってもらえると嬉しい。だが、今回の相手は獣だ、視覚だけ隠蔽しても効果は薄いだろう。そう思って「これ」を用意しておいた」


俺はアイテムパックの中から、スプレー缶を取り出した。


「ん、それは・・・香水か?」

「察しが良いな。これはただの香水じゃない、草木の森の匂いを模したフレグランスで、これをかければ嗅覚の鋭い動物でも探知されにくくなるはずだ。これはチームの職人に作って貰ったものだ」


そう言うと俺はその香水を自分に振りかけた。

発注した通りの泥混じりの雑草や乾いた木の幹、葉っぱの匂いが鼻を通り、そして自然に違和感無くなじんだ。

このアイテムは相手モンスターが獣であることから、嗅覚対策としてチームBBの錬金術師『ソフィーア』に依頼して作って貰った物だ。

この品質は非常に良い物だ。


「で、第三者から見て効果はどの程度だ?」

「ん~・・・匂いが消えて、気配が薄くなったカンジ、かにゃ?」

「こっちから見るとほとんど透明人間に見えるな、これは良いかもしれん。よし、俺とキャット☆アイ、後方支援役の二人にもかけてくれ」


そうして、その香水を4人にもかけることになった。


「うわw本当に草にゃwww」

「でも、あまり悪い匂いじゃありませんね」

「よし、それからパーティ登録設定もここでやっておくか。メンバーの一人が視認しにくいと連携も難しいからな」


パーティ登録設定は、一緒に行動するプレイヤーを視認しやすくするオプション設定だ。

だがこのゲームはパーティの上限がないうえパーティに登録しても周りから見え易くする程度な為、設定せずに行動するプレイヤーも多い。

だが、今回のようにパーティメンバーが視認し辛い状態の場合には便利な機能である。


パーティ設定が済むと、俺たちは再び森の奥へと進軍して行った。

だが、進み始めて2~3分経った頃、突然・・・


シャキィーーン! ズバッ! ギャウンッ!

ブウオォォン! ガキイイィィン!! キャオォンッ・・・!


明らかに自然の音ではない戦闘の音が聞こえた為、部隊は一時停止しブラッドを先頭に、キャット☆アイを後方に警戒配置し、音の聞こえた方向へゆっくりと近づく。

全員武器を構えーーー俺の武器は即応性がない為、小石か蹴りを放てる体勢を取りーーー茂みをかき分けると・・・


そこは森の中で開けた地形になっていた。

日が照って低い芝生が生い茂り、所々に切り株や地面の色が見えた。

だが、一番目を引いたのは、その平地のあちこちに散らばる狼の死体だった。

既に息絶えており、死亡判定が出ていながらまだ消えていないという事は、この個体が他と群れを組んでいるーーープレイヤーたちがパーティを組むのと同じように、敵のモンスターやNPC犯罪者達もパーティを組む事があるーーー事と、これが真新しいものである事を示している。

そして、それらの死体の製造元らしきプレイヤー達が目の前で戦っていた、が、すぐに決着が付いたようだ。

そして、彼らの姿は俺にとっては見覚えのある姿だった。


「あれは・・・バロンとジルか」

「にゃ?彼らを知ってるのにゃ?」

「以前助けて貰ったことがある、キャット☆アイ達は知っているのか?」

「ああ、実力のあるプレイヤーやチームは名前が知れ渡っているからな、知名度があればNPCから優先して仕事を回して貰えるが、同時に厄介事も来たりするが・・・まあそのへんはまた話そう、彼らに合流するぞ」


ブラッドの判断で俺たちの部隊はバロンとジルと合流してこの先進むことになった。

実力あるプレイヤーと行動することで、より早く深部に到達出来るからだ。


「相変わらず見事な腕前だな、バロン、ジル」

「君は・・・バウンティ・バスター_チームリーダーのブラッドだね、久しぶり」

「オッス、ジル~。相変わらずのゴリラぶりだにゃ~☆」

「・・・あんたそれ褒めてないでしょ、ブッ飛ばすわよ?」

「俺も久しぶりだな、バロンにジル」

「J-7!君、バウンティ・バスターに入ったのかい?」

「ああ、色々あってな」

「ところでバロン、お前達何故ここにいる?お前達の実力ならマザーウルフなんて雑魚だろう」

「それなんだけどね・・・マザーウルフ討伐に初めて向かう初心者パーティの護衛をすることになったんだけど、今の群れを片付けている間に先に行かれてしまってね・・・」

「全く・・・自身満々なのか勇敢な子たちだよアレは」

「苦労してるな、俺たちも丁度新人共を連れて研修会だ。深部エリアに着くまで俺たちと一緒に行くか?」

「もちろん、共に行こう。ジルもそれでいいね?」

「ああ!二人より大勢の方が早く着くしね」


こうして俺たちは、強力な助っ人を加え、奥へと進んで行った。

それにつれて、モンスターの群れが次々襲って来たが、俺たちは力を合わせ、切り刻み、殴りつけ、小石と蹴りを見舞って、魔法を放ち、撃退していった。


その道中・・・

進行方向奥からの戦闘音が大きく多くなっている頃、ブラッド達が何か話をしているのが聞こえた。


「・・・で、だ。お前らがただ新人育成の為だけにここに来たとは思えん。・・・出たのか?『アレ』が」

「・・・やっぱり、気づいてたんだね。お察しの通り、厄介な奴が出現したとギルドから報告を受けているよ」

「やはりか。いつもより襲撃の頻度が多いと聞いて、もしやと思っていたが」

「・・・あの、一体なんの話をしているんですか?」


ブラッド達の話が気になったのか、アルトが質問を切り出した。


「ああ、そうだな。お前らにも今の内に言っておくか。 今回のマザーウルフみたいな賞金首クラスのモンスターが出現した際に、そいつよりも更に強いモンスターが出現することもある。そういった奴が出てきた時には必ず予兆となる現象が発生する、例えば村や町に集団襲撃を仕掛けたり普段は現れない所に出現したりな。そうして出現したその地域のモンスターの平均レベルより飛びぬけた強さを持った個体を公式では『オーバードモンスター』と呼んでいる」

「そいつがこの辺りに出現したんですか・・・」

「そうらしい。そして今のお前(ルーキー)達では、戦闘力でも戦術でも奴に勝つ事は難しいだろう。

今回の奴の行動範囲は目標エリアの更に奥だが、もしターゲットよりもそいつに先に出会ったら、俺たちが食い止めるからその隙に逃げろ、いいな」


そして遂に、ターゲットのいる深部エリアに到着した。

ブラッドの言った通りそこは非常に薄暗く、地面は凸凹して足場が悪かった。

全員の傷と疲労を癒し、光を頼りに足場に注意しつつ、主戦場となる広場へ向かっていた・・・

その時である!


ガルルルルウウゥォグググオオオオォォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!


薄暗い森の奥から、巨大な猛獣の唸り声が俺たちのいる所まで響き渡った!

俺たちは神経を緊張させると武器を構え、警戒しながら光を頼りに拓けた場所へと向かう。

広場まで数十メートルまで近づいたその時!


ガザガザガザガザガザガザ!

「はァッ・・・はァッ・・・!グウッ!」


数人のプレイヤー達が茂みの中から息も絶え絶えと言った様子で出て来る。

どうやらバロン達が行動を共にしていた者たちのようだ。

そのすぐ後ろから・・・


タタタッ タタタッ タタタッ タタタッ タタタッ タタタッ タタタッ タタタッ


人間のものではない、獣独特の足踏みのリズムが聞こえる。

その中に・・・


ドドドッ! ドドドッ! ドドドッ! ドドドッ! ドドドッ! ドドドッ! ドドドッ!


まるで鉄球をぬかるんだ地面に叩きつけているような重たい音が混じっている。

俺たちが急ぎ足で戦闘エリアに入ると同時に、ブラッドたちが相手より先制して仕掛ける為に飛び出した

 それと同時に足音の主も俺たちの前に姿を現した。


全身を黒みがかった灰色一色で覆った毛皮をした巨大な狼が跳躍して、目の前に着地した。


マザーウルフ・・・・・・今回の討伐対象である。


俺たちの目の前に現れたマザーウルフはもう一匹おり、その個体はバロンとジルが気を引き付け、彼らを獲物と定め追撃するために随伴の狼と共に森の中へ消えていった。

そして俺たちと対峙する、一匹のマザーウルフとその護衛のウルフ達。

試合の開始を告げるゴングのように、マザーウルフは遠吠えを叫ぶ。


ガオオオオオオオオオオォォォォォォオオオオオオ!!!!!!!

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