19.姫様(?)のお忍び汽車旅行 (後始末~やっと到着)
襲撃して来た敵を撃退出来たのは良かったが、大変なのはここからだった。
何故ならサニーヒルズの近くでドンパチした上、爆発まで起こしたのでその影響がないわけはなかったからだ。
そこで俺は列車をその場に停車させ、後始末を始めた。
とはいえ自分達では専門的な処理は行えないためまず、チャットを開いて衛兵隊に連絡を入れる、内容は姫様の事を報告しようとしたが、本人がお忍びなので騒ぎを大きくしたくないと言ったので、チーム仲間からの助言で『犯罪グループの襲撃に会い、それを撃破したため事後処理を頼みたい』と報告することにした。
衛兵隊への報告が終わると俺は周囲を見渡す。
撃破した敵装甲列車の大小のパーツが爆発の衝撃であちこちに飛散しており、炎上している物もある。
地面には爆発痕がひしゃげた鉄の塊になりなおも燃えている装甲列車を中心に円形に黒く焼け焦げていた
線路も黒焦げになっており、どのような状態かは分からなかった。
俺は負傷した車掌に回復薬を渡すとチームメンバーと一緒に作業にかかる。
爆発痕の両端にバリケードを設置し、前方後方にも二線の線路の間に赤旗と赤信号が付いたポールを立てる (ちなみにこれらの備品は機関車の運転室内にある小さなアイテムBOXの中にしまってある、この装備はアンクル・パフだけでなく全ての機関車に標準装備されている)。
爆発痕の外の線路の上に落ちている部品に関してはブラッドが言うには、
「敵性の破壊した機械のパーツは素材アイテムとして回収出来るが、今回の場合衛兵隊が調査する可能性があるから、邪魔にならない所に最小限にどかして置くだけで良い」
とのことなので、二次被害が出ないよう線路の端に移動させておいた。
かなり大きめの重たいパーツはその場にいるチームメンバーと動ける護衛兵たち皆で力を合わして持ち上げる。
周辺が片付くと俺は改めて列車の状態を確認する。
客車と車掌車はかなり攻撃にさらされたのかかなり損傷していた、窓ガラスはほとんど割られ、所々弾痕も残っている。
だが、一番深刻なのは機関車の方だった。
アンクル・パフは炭水車は無事だったが、機関車部分はそうとも言えなかった。
敵装甲列車が爆発した際、ほぼ真横にいた為飛んで来たパーツーーーおそらくかなり大きめの物が車体にぶつかり、現在は車体が斜めに傾いてしまっていた。
おまけにやはり銃弾を長時間同じ個所に浴び続けていた所為か、ボイラーの付け根から、シュー・・・という蒸気が漏れる音が聞こえた。
これではまともに走る事は出来ない為、クレーン車にレッカーしてもらう必要があるだろう。
やがて、サニーヒルズの村人達が騒ぎを聞きつけたのか野次馬となって現場に現れた。
それから間もない内に空から衛兵隊のエンブレムを付けた大型の飛行船が現場のほぼ真上に降りてきて、低空で滞空すると隊員たちが魔法を使ってゆっくりしかし迅速に降下すると、様子を見に来た村人達を調査の邪魔にならない所まで誘導する。
村人達の誘導が完了した頃、今度はクラウド側から列車が汽笛を鳴らしてやって来た。
ウィー!ウィー!
その一つはゴモドラ残党が使用した物より大きく、大砲や機銃を戦艦のように沢山付けた衛兵隊の装甲列車で、現場の丁度クラウド側へ一番飛ばされた機械の残骸の近くで停車した。
ホホホホンク、ホホホホンク。
その横からもう一つ、下り線を逆走する形で現れたのは、深緑にライトグリーンで警戒模様を付けた、前にレイニーが乗っていたのと同じ型の保線車両だ (15-2話参照)。
だが、こちらの機関車が立ち往生している所は迂回出来る分岐点がなかった為、作業員が仮設の分岐点と線路を設置して迂回出来るようにし、設置が終わると保線車両はその後ろに修理機材や資材を積んだ貨車を数台牽いてそこを通って行く (作業の間、紛らわしいのでチーム客車は消しておいた)。
保線車両が通るとその後ろから、オレンジに黄色と黒の警戒色を付けた保線車両が現れ、それにはレイニーが乗っていた。
多分、さっきの色が一般機でこのカラーの車両がレイニー専用なのだろう。
ふぁん、ふぁん。
レイニーの保線車両が警笛を鳴らして停車すると、レイニーは車両前面の手すりに手を掛け、片足をステップに掛けた状態から地面に降りた。
俺はレイニーに車両の状態を見せた。
「・・・これは、ひどいね」
「一番深刻なのはアンクル・パフだ、見ての通り車体が傾いて蒸気も漏れてる。 俺の修理スキルだけでは直せないだろう」
「それなら、クラウドにある修理工場であたしが直すよ。 丁度新品の純正パーツが一式揃ってるから、前と同じ見た目に出来るしね」
「そうか、ああ修理するなら煙突はそのままにしてくれ、あれはあれで個性的で気に入ってるからな」
「分かった、煙突はそのままね」
「それで、修理にどれくらい時間がかかる?機関車に加えて車両も修理しないといけないし・・・」
「うーん・・・一日かな?」
「一日!?速いな」
「まあそれは言い過ぎかもしれないけど、客車と車掌車は片側が壊れているだけだからあんたが次にログインする頃には全部完璧に直して見せるよ それに・・・」
「それに?」
レイニーは一拍置いて再び話した。
「それに、最近はね、プレイヤーの大半は修理に時間がかかるとその車両を捨てて新しい車両を買う人が多いんだ。 でもあんたは、この機関車を大事にしてくれてる、旧式でも性能が悪くても、元の工場がパーツの生産を停止しても、それでも愛着を持ってくれている。 あたしは、それが自分の事のように嬉しく思うんだ。 だから、あたしはJ-7の車両は集中して修理したいって思うんだ!」
レイニーのその言葉を聞くと、俺は胸に温かいものがあるように感じた。
「ところでレイニー、レッカーを頼みたいんだが」
アンクル・パフは自走出来る状態ではない為、蒸気を落として窯の火を消すと俺はレイニーに言った。
「でも、これ異常車両に負担はかけられないよ。 収納してお客さんをあたしの機関車に乗せた方が良いと思うけど」
「それはそうだし、そうしたいのは山々なんだが・・・実際見て貰った方が早いかもしれん」
俺はレイニーと一緒に客車に入る、車内ではオルティガ姫がイライラしながら待っていた。
「いつまでもたもたしておる!さっさと出発せんか!」
「ああー・・・こういうことかー、それなら仕方ないね」
レイニーは面識があったらしく姫の姿を見ると納得してくれた。
レイニーの保線車両ーーーリペアラー・スコーピオンはサニーヒルズにある小型のターンテーブルで向きを変えてアンクル・パフの前に着き、後ろ側に付いたクレーンのフックを連結器に固定して準備が整った。
ふぁん、ふぁん。
リペアラー・スコーピオンが警笛を鳴らして合図を送る。
アンクル・パフは既に蒸気がなくなっていた為、俺は緑の旗を振って応えた。
こうして俺達はレッカーされている列車に乗りながらクラウドへ向かった。
リペアラー・スコーピオンは小型の魔導式の割に馬力と速度が高く、動力が止まっている機関車と重さのある3両の車両を牽いていても、アンクル・パフよりも速い速度で走行していた。
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そして数分後、隊列はクラウド駅に到着した。
俺は傾いたアンクル・パフの運転室から炭水車を通って客車の中に入る。
「お客様、クラウドに到着しました」
「やっと着いたか、阿呆共のおかげで随分遅くなってしまったのう」
到着を告げられると姫様は疲れと安堵の表情でため息をつくと座席から立ち上がる、護衛兵達もそれに合わせて半数が外に出て警戒し、半数が姫の近くで護衛に入った。
そうした中で俺はある事に気付く。
「そういえば、おじいさんはどうしましたか? 先程から姿が見えませんが・・・」
「ああジジィか、さっきの戦闘で流れ弾に当たって負傷してしもうてのう、今はわらわの回復魔法で傷を癒して安静にしておる」
「それは、お気の毒に・・・では担架をご用意します、暫しお待ちください」
俺は客車を下りるとレイニーにその事を伝え、すぐに駅員が担架車を押してくる。
担架に爺さんが乗せられ、車掌もまだ傷が癒えてなかった為、担架を呼んで乗せられた。
こうして見ると、やはりこのゲームではプレイヤーに比べNPCは傷の治りが遅いように感じられる。
そうして負傷者の救護を行っていると、ホームに冒険者ギルド・ギルドマスターのサクマが現れた。
「よぉ、お揃いのようだな」
「あ、ギルドマスター、お疲れ様です」
「お父さん、どうしてここに?」
「父親の俺が娘のお前に会いに来た、ってわけじゃねェが、俺への客人を迎えに来た所だ」
「お父さんのお客さんって、もしかしてあの子?」
レイニーは『客人』という言葉を察して、すぐ目線で姫様を指した。
「そう、あいつだ。まあここに着くまでにひと悶着あったようだがな」
ギルド長はそう言うと列車を下りた姫様に声をかける。
「おい、一つ話しておく事がある、ここじゃなんだから一旦駅員の宿舎の方に来い。 J-7、お前も来い、一応伝えとかねェとな」
ギルド長に呼ばれて俺と姫様たちは駅員宿舎の一室に入れられた。
「久しぶりじゃのう、ギルド本部長」
「よお、オルティガの娘。 あの野郎が大事な娘一人にここまでお使いに行かせるとは考え辛ェが、なんの用だ?」
「お使いではない! わらわは父上の名代としてここに来たのじゃ」
「ほお、まあその用事の方は本部に帰ってから聞いてやるから、そこのそいつに自己紹介してやれ」
ギルド長に促されると、姫様は俺に向かって自己紹介をした。
「わらわの名は、オルティガ国第三代国王の娘であり第三王女の『マチルダ・ミディア・オルティガ』じゃ!」
「へえ、そうだったんですか。(役職だけ知ってる)」
「・・・なんじゃ、反応の薄い奴じゃのう、もっと敬わんか。 それでおぬしは何奴じゃ?」
オルティガ姫に言われて俺も自己紹介しようとしたが、ギルド長が代わりに伝えてくれた。
「こいつはJ-7だ。 一応俺の所に登録してある冒険者で、今は鉄道ギルド所属みたいなモンだ。そしてコイツが俺の言っていた『腕の立つ運転手』でもある」
「なに!?こやつがか?」
「そうだ、お前の親父に頼まれてギルドでお前の護衛する奴とここまで乗る車両を運転する奴を集めていた時にな、王族乗せて来るのに生半可なヤツじゃダメだと思ってやらせようとしたんだが、結局その日までにギルドに来なかったから断念した」
「そんなことがあったんですか?」 俺はギルド長に質問した。
「ああ、お前はモンスターの素材の納品にしか来ねぇから、まあタイミングが合わなかったとしか言えねぇな」
「俺以外にも腕がいい人はいたはずでしょう?」
「うちの娘が寄越した鉄道で働いてる奴らのデータの中で総合的に上手いのがお前ぐらいしかいなかったからな」
「なぜ娘さんに伝えなかったんです?」
「こういう王族がらみに関わらず国全体にとって重要な任務は基本的にギルドの限られた奴にしか知らされねぇし、メンバーの選出も俺がやってギルド内の放送で内容言わずに呼び出す形を取ってる。 むやみに機密を外に持ち出してアイツが危険にさらされるのは嫌だからな」
「確かに・・・」
「ところでメンバーで思い出したが、姫様よ、うちが派遣した護衛の冒険者はどうした?姿が見えねぇようだが」
「ああ、それなら確かなんかスカートの中覗いて姫様に処刑されたとか・・・」
「そこの機械人の言った通り、その不敬者どもはわらわの手で始末したのじゃ」
「やっぱりな、いや実のところあいつらに護衛の依頼した時に幼女に欲情しているようなキモチわりぃセリフ吐いてたから心配だったが・・・」
「わらわは幼女ではないわ、たわけ!」 幼女と言われて見た目幼女にしか見えないオルティガ姫は反射的にキレた。
「ああ、そうだなお姫様。 まあ何はともあれ姫様が偶然コイツの車両に乗って、そのJ-7が偶然腕の良いチームのBBに所属していた事で結果的に無事にここまで来れて良かったってとこだな。姫様は今日は色々あって疲れただろ、数日は休んでから用事を聞く事にしようぜ。 J-7もしっかり羽根を伸ばしておけよ、それじゃ解散!」
ギルド長の言葉を合図に皆椅子から立ち上がりそれぞれの休む所へ向かってゆく。
「お、そうじゃ」
オルティガ姫は何かを思い出し、立ち止まると振り返って俺の所までくると、小包を手渡した。
「わらわをここに連れてくるまでの駄賃じゃ、取っておけ」
俺は袋を受け取り中の金額を確認すると、そこには王族らしく10万ゴールドがポンッと入っていた。
過分に過ぎると言おうとしたが、姫様と護衛はすでにそこにいなかった為、お言葉に甘えて貰っておくことにした。
俺は今いる部屋から自分の部屋に移動すると、ベッドに横になり、ログアウトした。




