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19.姫様(?)のお忍び汽車旅行(前編)

《間もなく、3番ホームより、各駅停車・オルティガ行きの列車が発車いたします。 安全のため、動いている列車には、白線の内側まで下がり、近づかないでください》


ピィーーーーーーーーーーーッ


駅のホームに設置してあるスピーカーから発車アナウンスが流れ、車掌が笛を吹き緑の旗を振ったのを確認すると、俺はアンクル・パフの汽笛を鳴らして駅を出発した。


ポッポォーーーーーーーーッ!



俺は今、クラウド駅から少量のラッシュ駅当ての貨物輸送と各駅停車のオルティガ駅行き旅客列車のクエストを受け、ラッシュ駅を出発したところだ。

ゲーム内時刻は夜3時、夜明けまで2時間ちょっとある。

アンクル・パフのスピードだと、始発のクラウドから終点のオルティガまでは通しで1時間弱程はかかる

 だがそれでも、現実世界で言えば夜の遅い時間でも、クラウドから行けば最初の大都市であるオルティガへ行く乗客の人数は多かった。

実際、クラウドとサニーヒルズから夜の内にラッシュに移動するお客さんが降りた後、前の駅からオルティガへ行く人達にラッシュ駅から乗って行く人達を加えただけでかなりの数が乗車した。 俺の想像を遥かに超えた数の乗客は小さな客車の中に入り切らず、ラッシュ駅で貨物輸送の役目を終えた無蓋貨車にも乗り込み、あと少し増えれば最後尾に繋いだ車掌車にも入るかもしれない。

ちなみに車掌車には当然車掌が乗っている他、クラウド駅から道中の駅に配達するよう頼まれたココアの粉末が入った袋とコーヒー豆の袋がそこそこな数ある為、追加で乗客を乗せられるスペースはあまりない


そんなワケで客車どころか無蓋貨車にも乗客を沢山乗せて、俺の列車は夜の本線を走り抜けていた。

機関車の前に付けたライトは前方の景色と2本のレールを照らし、夜の冷えた空気が窯の炎で熱せられた装甲に当たり、清涼感を感じる。



・・・と、思っていた、その時!

カッ! と、突然俺の列車を覆うように光に照らされた。 まるでサーチライトだ。

俺は不審に思い辺りを見回す。 空を見ても、星々が煌めき欠けた月が優しい光を地上に降ろしているが

この不審な光の光源らしきものは見えない。 左右に広がる森もただ漆黒の闇を映すだけ。

そして後ろを見ると、列車の遥か遠く後方、闇へと続く線路の先に、小さな光の点が見えた。

その光の点を見つけた、その直後!


パァーーーーッ!!パパパパパーーーーーーーッ!!パパァーーーーーーーッ!!!


突如、けたたましい警笛の音が真後ろから響く。

そして、車輪の下から自分の列車とは違う、線路の振動を感じ取ると俺は謎の光と音の正体を理解する。


「まずいな・・・高速列車に後ろに着かれたか・・・!」


俺の使っている機関車「アンクル・パフ」はこのゲーム世界ではかなりの旧式だが扱い安い為、アップデート直後や運転初心者は皆これを使用しており、高速で走る列車はNPCしか運用していなかった。

だが時間が経って、運転技術や資金に余裕の出来た者は大体皆更に高い性能の機関車に乗り換えていった。

俺が今でもこの旧式(アンクル・パフ)を使っているのは保存鉄道ボランティア職員の癖みたいなモノ

 そのため俺のすぐ後続に速い列車が来ると、駅に停まっている時は駅員から報告が来るので退避線で通過するのを待つ、本線上を走っている時に追いつかれた時は自主的に本線から分岐している退避線に入って待機している。 プレイヤー所有の高速列車は日に日に増えているので俺も対処には慣れている。


・・・だが、今回の相手は、はっきり言ってかなり危険だ。


パパパーーーーーッ!!パパパパーーーーーーーッ!!パァーーーーーーーーーーーーーーッ!!!


先程からずっと、邪魔だ邪魔だと言わんばかりにこちらに警笛を鳴らし続けている。

安全のため相手にスピードを落として徐行するようにと、長い汽笛を3回鳴らす。


ポーーーーッ、ポーーーーッ、ポーーーーッ。


しかし、効果はなく相手の高速列車はしつこい程警笛を鳴らしながら近づいてくる。

最初見た時は小さな点だった光が豆粒くらいに大きくなってきた。


俺は衝突を回避するため窯に石炭を入れ、出来る限り機関車の速度を上げる。

鳴り止まない警笛の音と迫ってくる光の玉に乗っている乗客たちも不安を感じていた。


「ひどい音ね・・・何があったのかしら」

「後ろから別の車両が来ているぞ!」

「ま、まさか衝突してくるんじゃないか!?」

「おおーーい!スピードを落とすんだーー!ぶつかっちまうぞお!!」


衝突の不安に駆られた乗客達は客車の窓から、あるいは無蓋貨車の縁から身を乗り出し、赤い色の帽子やハンカチを後ろにいる列車に振ってスピードを落とすように促す。

運転室(ここ)からは見えないが、ピーッ!という笛の音も聞こえるので最後尾で車掌も赤旗を振っているのだと思う。

だが、そんな親切で罪のない乗客たちを威嚇するように・・・!


パパパパパアアアァァァァァァッ!!!パァーーーーパァーーーーパアアアァァァーーーーッ!!!


後方の高速列車はなおも警笛を鳴らし続け、接近し続けている。


ふと、前方を見るとライトが遠くの方に分岐点があるのを映した、退避線だ!

ポイントの手前の線路の横には切り替えレバーがあるのも見える。

レバーは手前側に倒れていて、線路が本線側に切り替わっている、つまりレバーを奥側に倒せば退避線に入れるという事だ。

それが分かると俺は、機関室の屋根に上がった。

少々荒っぽいが、列車の速度を落として手動で切り替えている暇はないため固定銃座を使って銃弾でレバーを倒す方法を取った。

銃座を固定し同時発射モードに切り替えると、俺はポイントのレバーを狙った。

頭部に着けたゴーグルの効果で夜でも暗視ゴーグルのようにレバーの位置を捕らえることが出来る。


狙いをつけ・・・発射!


ドン!


二つの銃口から放たれた銃弾はポイントレバーに向かって行き・・・そして!


カチューン!


レバーの上部に命中し、手前から奥に倒れて、カン!というレールが切り替わる音が聞こえた。

だが喜んでばかりもいられない。

後ろからは高速列車が警笛を連呼し、こちらに後10メートルの所まで迫り、光の玉は不気味な火の玉のように揺れていた。

俺は屋根の上から乗客たちに大声で言う。


「退避線に突っ込みます!衝撃に備えてください!」


乗客たちはそれを聞くを客車の中に入って窓を閉め、無蓋貨車の中に身を屈めた。

機関車(アンクル・パフ)がポイントレバーの近くに来ると俺はそこに降りた。

列車が退避線に入った後、高速列車が侵入するのを防ぐためポイントを切り替えるためだ。

退避線にまずアンクル・パフ、炭水車、客車、無蓋貨車、そして最後尾の車掌車が入ったのを確認してポイントを本線に切り替えた、その次の瞬間!




パァァァァァアアアアアアアアアァァァァ・・・・・・!!!!

ゴォォオオオォォ(ビュン!)ゴォォオオオォォ(ビュン!)ゴォォオオオォォ(ビュン!)ゴォォ…

ゴトゴトンゴトゴトンゴトゴトンゴトゴトンゴトゴトンゴトゴトンゴトゴトンゴトゴトンゴトゴトン…




高速列車がまるでスピードを落とす事なく、俺のすぐ脇を猛スピードで駆けて行った!

凄まじい音と一緒に強い衝撃波を受けて思わずよろける、だがそれでも今度は自分の機関車を止めるため俺は走る。

衝撃波によろめきながら走ってアンクル・パフの運転室に追いつくとすぐさま急ブレーキを掛ける。


ギギギギギイイイイイィィィィィ!!!


金属と金属のこすれ合う金切り音を立てて速度が落ち、そして!


ガシャーン!


正面の障害物にぶつかり、前方に強く押し出される衝撃を受けて列車は停止した。


その後、俺は被害状況を確認した。

俺と車掌を含む乗客・乗員は全員が無事、互いの無事を喜んだり、高速列車の態度を非難する者もいる。

アンクル・パフは金属製の車止めに衝突したが、損傷も脱線もなかった。

奇跡的に無事に済んだが、俺はあの高速列車の運転手に強い不信感を持っていた。


(あんなやり方ばかりしていたら、いつか事故を起こすぞ・・・)

俺はそう思った。



それから後、車掌が車掌車で作ったココア (配達する分とは別)をスキルで生み出したコップに入れて皆に配った。

一息ついた後、再び列車はオルティガへ出発し、到着する頃には日が昇って朝になっていた。


駅に到着し乗客を降ろすと、俺はアンクル・パフの燃料を補給に向かう。

クラウド駅からオルティガ駅まではクラウド~ラッシュ間よりもかなり長い距離なので水と黒魔昌は底を尽きかけていた。

給水塔とホッパーのある退避線に機関車を停めると、車掌が道中で起きた事を駅長に報告するため駅長室に向かって行った。


車掌が帰って来るのと、水と黒魔昌の補給が終わるまで、機関車の窯で焼いたトーストと目玉焼きを食べながらくつろいでいると・・・


「これ、そこの機械人」


声を掛けられたのでホームの方を見ると、そこには一人の人間の女の子とおじいさんが立っていた。

女の子が俺に向かって言う。


「わらわをそなたの汽車に乗せ、クラウドまで連れて行くがよい!」

次回に続きます。

オープニングが予想より長くなってしまったので、姫様の登場シーンが短くなってしまいました(笑)

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