11.古い路線でバター作り (後編)
前回のあらすじ
アバター名 J-7こと森本鉄夫はクラウド駅にて、女性プレイヤー フランドールの依頼でケーキの材料集めに出発しようとしていた。 するとそこへ、アーサーと名乗るプレイヤーが突如現れた。
「・・・だ、誰だ、あんた?」
俺は突如として現れた銀色の鎧のプレイヤーに困惑の色を浮かべた。
ふと、横を見ると機関車の隣、5番ホームに別の機関車が停まっていた。 タンク機関車のようだが、テンダー機関車のアンクル・パフの機関車部分よりも|(というよりも、アンクル・パフ自体が鉄道史最初期のテンダー機関車なので車体が小さく、それよりも新しい型の他のテンダー機関車の方がかなり大きい)大きな印象を受けた。 車体は全身が銀色に塗られ、目の前の銀色のプレイヤーが所有している物だというのがハッキリと分かった。
その銀色のプレイヤーは言葉を続けた。
「フフフ、ならば教えてあげましょう! 私こそが、その佇まいは蝶の如く優雅に、その素早さは空を駆ける流星の如く一瞬、その力は軍隊100人にも及ぶ! どんなクエストも探索も輸送も華麗にこなす、そう! 『白銀のアーサー』とは、私のことだ!」
アーサーと改めて名乗った男性プレイヤーは芝居がかった口調で説明した。
が、それを聞いた俺とレイニーとフランドールは、ただ沈黙するしかなかった。
ピー!
という列車の出発の合図の笛の音が沈黙を破ると、俺はレイニーに聞いてみた。 アーサーなんて名前、今まで聞いたことないからな、クエストの受付でいつも多くのプレイヤーと話してるレイニーならなにか知ってるかもしれない。
「なあ、知ってる?アイツのこと」
「ん~、誰だっけねぇ?そんな人いたかな?」
なんとよく覚えてなかったらしい、輸送クエストをメインでやってる者は俺が見えている範囲では少ないと思うが、駅には多い日でホームに列車がすし詰め状態になる日もある|(ちなみにクラウド駅の場合1ホームの長さは10両編成の機関車が入る位の広さがある。それが6ホーム分ーーーホームがない線路を含めて7ホーム分ーーーある。)、それでも駅に長く入り浸っているのは半数くらいで、レイニーが彼のことを覚えていないのは、おそらく彼は輸送より他のクエストの方を多く行っているので印象が薄いのだろう。
レイニーの言葉にアーサーはガクッとした。
「うぅ・・・いやそんな事は、確かに探索や討伐の方に力を入れてはいるが、輸送での実績がないわけではないよ、例えば・・・」
とアーサーが説明しようとすると、3番ホームで列車の発車を見送った駅員が会話に加わった。
「ああ、そいつのことなら知ってるぞ。 この前貨物列車の列に突っ込んだマヌケだろ」
駅員によると、NPCが運行している貨物列車がこの駅の操車場から出ようとした時にそのアーサーの機関車が貨車の列に横から突っ込んで事故になったらしい。 しかも復旧するまでの間、貨物列車の後に出発する予定だった他の列車も出られなくなり、運行ダイヤに乱れが生じたらしい。
「グゥッ!?・・・あれは不幸な事故だった・・・し、しかし私の実績は汚点だけではない、例えば!」
アーサーは名誉挽回のために実績を話そうとするが、不幸にも駅員に言葉を遮られる。
「今度はなんだ?俺が乗ったトロッコにバックで突っ込んだことか、それとも客車連結し忘れて出発したことか?もしくは汽笛が壊れて鳴り止まなくなった状態で駅に入ってきやがったことか?」
駅員に実績と言う名の失態の数々を言われ、アーサーの顔はどんどん苦しいものになってきた。
「・・・ま、まあそれはさておき・・・」
「あっ、流しやがった」
アーサーは駅員の話を流してこちらに向き直り、困惑の表情を浮かべているフランドールに話しかけた。
「お嬢さん、お困りのようですね、話は全て聞かせてもらいました。 その依頼、このアーサーが引き受けましょう」
「ええ・・・?ですが・・・」
「ご心配なく!列車の準備は出来ています。これが私の愛馬|『シルバーサラブレット』です!この機関車はまさに(中略)無事に任務を果たしてみせましょう!」
困惑した表情が更に困り顔になっているフランドールを置いてきぼりにして、自分の銀色の機関車の説明をしだすアーサー。 っていうかこのクエストもう俺が受けてるんだけどな、伝えておくか、無駄だとは思うが。
「あのな、君な。 そういう問題じゃなくて、このクエストは俺が・・・」
「フフフ、私の操縦の腕が心配なのかね?私の操縦は(略)それを見ていてくれたまえ!」
やっぱり無駄だったな、コイツビックリするくらい人の話聞かねぇな・・・
クエストをやる気満々なアーサーを見かねて、レイニーも口を出す。
「ちょっと待ちな、このクエストは元々J-7が受けてたモンだよ!あんた人の仕事を横取りする気かい!」
「いい、レイニー。相手するだけ無駄だ」
俺はレイニーを制止した。
「でも!」
「このクエストは俺とアイツで受けたことにすればいい、そうしないと面倒なことになりそうだからな」
個人から依頼されるクエストは基本的には早い者勝ちだ、だがそうした理由で度々トラブルも起きている
レイニーはそれを何度か見て知っていたので俺の提案を承諾した。
「・・・それじゃあもう一度確認ね、依頼は卵、牛乳、小麦粉、生クリームの調達、報酬は提出額の半分ずつ、時間は今日の夜3時まで、良いわね?」
レイニーが最終確認をすると、俺は頷き機関車に乗り込んだ。 アーサーの方は既に話聞かずに勝手に出発していた。
俺は列車から客車を切り離し、無蓋貨車と有蓋貨車の2両だけを連結してサニーヒルズへと出発した。
「バター?この村にはないな」「生クリームならあるぞ」「バターを作る機械をオルティガの工場に発注しているんだが、もう3年も経つのにまだ来ないんだ」
サニーヒルズ駅に着くと俺は駅長に話して村の農家から指定の物資を受け取った|(店売りの品を買ってくる個人クエストでは、商品の購入代金も手数料に含まれているのでそれで購入している)。 俺は村人達からバターがないか訪ねたが、この辺りでは売ってないとのことだ。 バターが売られているのはオルティガか、その先の大きな街でしか売られてないらしい。 依頼者があの時、バターと言いかけてやめたのはそういう理由があったのか。
村人達から、何故バターの事を聞いたのか理由を訪ねられると、依頼者のケーキ屋のことを話した。
「そのケーキ屋なら知ってるよ、普通の店より安いから週1で買いに行くんだ」
俺は毎日、列車でこの村の乗客や特産品を街まで運んでいたので、村人達から信頼を得ていた。 村人達はそんな村の発展を手伝ってくれる機関士と行きつけのケーキ屋のためにアイデアを出しあった。
それは一人の老人の話だった。
その白くて長い髭を生やした老人は俺の着ていた機関士の制服を懐かしそうに見ていた。
「フム、おぬしは機関車の運転手のようじゃな。 懐かしいのう、ワシも昔は現役で汽車を動かしていたんじゃが、足のケガで引退せずをえんかったわい」
俺と村人達は老人にバターについて聞いてみた。
「フム、バターか・・・、それならこんな話を知っておるかのう」
老人は話を始めた。
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むかーし、むかし。
ワシがまだ現役で汽車を動かしておったときの話じゃ。
その年は戦争が起きて、少なからずとも物資が不足しておった。
特にパンなどの料理に使われる、バターは連日品薄状態でのう。
バターを自動で作る機械の発想や原材料はあったのじゃが、
その機械や部品を作るための鉄は、みーんな国と軍が兵器を作るために使ってしまってのう。
それで皆、手作業でバターを作っておったのじゃが、当然供給が追いつかなんだ。
そんなある日、ワシは列車で運んどる最中に生クリームがバターになる方法を考えておった。
バターの作り方は分かるか?
容器に入れた生クリームを振り続けることで、塊になるのじゃ。
そしてワシはその方法を見つけ出した。
ここからラッシュに行くまでの間に古い路線があってのう、
そこは線路が凸凹で、そこを走ると汽車や貨車の車体が大きく揺れた。
そこを通っても別段、駅に早く行けるわけではないが、
ワシはその路線を通ったときの「揺れ」でバターを作ることを思いついたんじゃ。
そしてそれは見事に的中した。
凸凹の線路で揺らされた生クリームは、入っておった容器の中身丸々バターに変わっておった。
それを店にある駅まで運んでいくと、皆たいそう大喜びしておった。
それからバターの品薄が解消されるまで、ワシはそこの路線でバター作りを続けておったわけじゃ。
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老人の話が終わると俺は老人に訪ねた。
「その路線はまだ残っていますか?」
「さあのう・・・それも大昔の話じゃったからのう、じゃが、行くつもりなら場所を教えよう」
老人がそういうと、マップに目的地のマークが現れた。 位置はサニーヒルズを出発してすぐの所だ。
「お話、ありがとうございます。さっそくそこに行ってみます」
「ウム、気をつけてな」
俺が老人に礼を言って駅に向かうと村人達が「頑張れよー」と声援を送った。
駅員に手伝ってもらい有蓋貨車から生クリームを半分くらい降ろし、無蓋貨車に揺れても倒れない程度の隙間を開けて入れた。
「こんなモンか?しかし、これだと容器がかなり揺れるぞ」
「大丈夫だ、それが狙いだ」
駅員の疑問にそう答えると、残りの食材が入った有蓋貨車を退避線に入れてもらい、マップのマークまで向かった。
マップの場所まで行くと、線路に古い分岐点が見えた。 分岐した線路は森の中に続いている。
俺はポイントを切り替えると森の中へ列車を進めたーーーもちろん他の列車が間違って入って来ないようにポイントは元に戻した。
古い路線に入ると早くも列車がグラグラ揺れ始めた。 俺は列車が脱線しないよう、速度を落として進んだ。 貨車に積まれた生クリームの容器は揺れて容器どうしがカンカン音を立ててぶつかっている。
やがて線路が森から出て、揺れも収まった。 俺が容器の中を確認するとまだ生クリームのままだった。
やはり1回通っただけではバターにはならないか。 俺は再びバックで路線の中に入っていった。
路線で揺られる事1時間、乗り物酔いはしないけど、生身なら気持ち悪くなってたかもな。
容器の中を確認すると、なんと中身が全てバターに変わっていた。
「よし成功だ!」
バターが完成したことに喜びながら、俺は時間を確認した。
時刻は昼の4時45分、夕方となっていた。 この時間なら十分間に合うな。
俺は路線から出て村の退避線に預けていた貨車を連結すると、夕日の中、クラウド駅に向かって帰って行った。
「も・・・もう・・・駄目だ・・・」ガクッ
ズルッ! ドムッ! カーン!
「きゃああああ!だ、大丈夫ですか!?」
「ちょっとあんた、大丈夫かい!?」
駅に戻ると何やら1番ホームの辺りから騒がしい音が聞こえた。 よく見ると、アーサーが生クリームの入った金属製の容器に押し潰されていた。 それをフランドールが心配そうに見ており、レイニーと数名の駅員が救助していた。
俺は列車を1番ホームへ、アーサーの列車が停まっている後ろに停めた。
「どうした、何があった?」
俺の問いかけに、倒れた容器をアーサーからどかして立てたレイニーが答えた。
「あ、おかえり! 実はフランドールがバターも必要だって言ってね、そしたらそこに倒れてる奴が突然生クリーム缶を持ち上げてね、さっきまで振ってたんだけど結果はこのざまさね」
気絶して泡を吹いてるアーサーを見ながらレイニーが説明した。
するとフランドールも俺に気づき、頭を下げた。
「ごめんなさい! あなた方を騙すつもりではなかったのですが、でも負担をかけさせたくなくて・・・!本当はバターも在庫がなくて、それで・・・」
「知ってたよ」
謝ってくるフランドールを俺は優しく制した。
「え?知ってたんですか!?」
フランドールは驚いた様子だ。
「いや知ってたもなにもお前さんここに依頼する前に小声で言ってたんだろうが「バターが」って言ってたじゃねぇか」
「ああ、そういえば言ってたね、でも依頼内容にそれがなかったからずっと変だと思ってたんだよ」
俺と一緒にいたレイニーもやはりそれを聞いていたようだ。
「うう・・・本当にすみません・・・」
フランドールは恥ずかしそうにうつむいた。
「だがまあ、そう悲観することもない、無蓋貨車に積んでる容器の中身見てみろ」
そう言われるとフランドールは頭に疑問符を浮かべながら容器を開けてみた、すると・・・
「あ、あれ!?これ、バター!?」
「おお!ホントだ!これどうやって作ったんだい?」
二人の女性は驚いて俺に聞いた。 俺は廃線で貨車を揺らして作った事を話した。
「ともかくこれでケーキが作れる、よな?」
「はい!本当に、本当にありがとうございます!このお礼は必ずいたしますので!」
「それじゃ、ここにある材料全部、店に運ぼうか!」
俺達は駅員数名にも手伝ってもらい、貨車に積まれたケーキの材料を次々と、フランドールのケーキ屋まで運んでいった。
フランドールのケーキ屋、『マドモアゼル』に材料を届けるとフランドールは早速ケーキ作りを開始した。 そして夜の3時、彼女の友達たちがケーキ屋に来店する。
そして店内の席に座り、ゲストに俺とレイニーと駅員たち、ついでにまだ気絶したままのアーサーも運び入れて、女子会がスタートした。
フランドールが作ったケーキの彼女の友人たちの感想は、今時のギャル語で何を言っているのか分からないが、多分「とても美味しくて、テンションが上がる」という意味だろう。
そして俺達にもケーキが渡された。 それは俺が乗っているアンクル・パフを模した大きなケーキだった。 その出来栄えに歓声が上がる。 特にレイニーは大喜びだ、駅員によると、彼女はケーキの中でもロールケーキが特に好きらしい。
そうして、バターをめぐったその日の夜は更けていった。
作中に出て来たワードの補足:フランドール (プレイヤー)
最近友達と一緒にSoFOを始めた初心者プレイヤー。 戦いが苦手なため生産者プレイヤーとしてプレイする道を選び、ケーキ屋をオープンするに至っている。 他人に頼みごとをするのが苦手。
ちなみに彼女の友人たちは全員前衛職で回復役がほとんどいない。
マドモアゼル (プレイヤー店舗)
フランドールが経営してるケーキ屋。 SoFO世界では、ケーキは貴族・王族の食べ物なので、安い値段で買えて美味しい彼女のケーキはプレイヤーのみならず、NPCにも人気が高い。
ちなみに、すぐ隣にオグラヤベーカリーがあるが、扱っている商品が違うので売り上げに影響はない。




