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11.古い路線でバター作り (前編)

俺は今日も機関車に乗ってクラウド~ラッシュ間を乗客や荷物を乗せて走っていた。 だが、いつも定刻通りに走れるわけではない。 俺自身は細心の注意を払って安全運転を心がけているので今のところ車両の事故やトラブルは起こしていない。 しかし、他のプレイヤーの事故などに遭遇して列車が遅れてしまうことが度々あった。

ふと、前を見ると、向こうに貨車の背中が見えた。 その貨車は最初見えた時は遠くて小さかったが、列車が進むにつれて段々大きく、そして機関車からの距離が近くなってきたため、俺は衝突を避けるために機関車のスピードを落とした、そして前方の列車と触れるか触れないか位の距離を保って並走した。

俺はそこで、その貨車を牽いている車両の正体が分かった。 それは手漕ぎトロッコのアーム・ストロンガーであった。 アーム・ストロンガーは黒魔晶を満載した無蓋貨車を繋引しており、その運転手の筋肉隆々の人間の男性プレイヤーが汗を滝のように流し、レバーをキコキコと動かしていた。

(あんな動力の無い車両、使う人いたのか)

俺はそんなことを思いながらも、その前をノロノロ走る列車を押したり、汽笛を鳴らすことはしなかった。 他のプレイヤーの車両に追突したり、勝手に押すのはマナー違反だし、汽笛を鳴らして急かすのもあまりしたくはなかったからだ。

結局その奇妙な車列はラッシュ駅の手前まで続いた。 駅が見えてくる頃にトロッコの運転手が後ろを振り向き、そしてギョッとした顔になる。 そりゃそうだ、自分の真後ろに蒸気機関車がピッタリくっついていたら誰でも驚く。 その運転手と目が合った俺は挨拶替わりに汽笛を


ポッポ♪


と鳴らした。

するとその男は血相を変え、さっきとは比べ物にならない程のスピードを出して駅の中に滑り込んでいった。 その光景に苦笑いしながらも、場内信号が赤になっていたので一時停車し、青になってから駅の中に進んだ。

この程度のトラブルはまだかわいいもので、それ以外には脱線した他の車両の復旧を手伝ったり、モンスターの群れに襲われている列車と遭遇することもあった。 それでも大事に至る事はなく、無事に切り抜けることが出来た。


別の日、その日は特に大きな問題も起こらず、時間通りに運行して、クラウドの駅に戻ってきた。

「やあ、J-7!今日も時間通りだね、ご苦労さん!」

列車が4番ホームに着くとレイニーが出迎えてくれた。

俺が汽笛を


ポォーーーーッ!


と長く鳴らして、機関車アンクル・パフから降りると、それと同時に客車から乗客がホームに降り、服屋の店員がサニーヒルズから積んできた羊毛を無蓋貨車から降ろし、郵便局員が有蓋貨車から郵便袋を取り出し始めた。

「今日は道中でなにもトラブルは起きなかったよ、あと1回クエストを終えたら点検して車庫に入れる予定だ」

俺がレイニーに予定を伝えていると、ふと彼女が何かに気づいた様子を見せた。 俺もレイニーが見ている方向を見ると、一人の女性の姿が見えた。 抑えた感じのゴスロリ服を着たおとなしい雰囲気のその女性は、ややうつむきながらなにか呟いていた。

「・・・どうしましょう・・・でも他の人に頼むのは・・・でもバターが・・・」

レイニーはそんな様子の女性に近づいて話かけた。 しばらく話をした後、今度はその女性の手を牽いてこちらに戻ってくると、レイニーが俺に言った。

「J-7、さっそく仕事だよ!」


今回の依頼は|「ケーキの材料集め」、依頼者は|『フランドール』という女性プレイヤーで、商店街でケーキ屋をやっているそうだ。 フランドールは仲の良い女友達たちと最近このゲームを始めたようで、戦闘が苦手な彼女は生産者としてケーキ作りを始め、そのケーキの味が好評だったので友達に勧められてケーキ屋を始めたらしい。 今回の依頼はその友達が自分の店で女子会を開くため、ケーキを作ろうとしたが、材料がなかったので、依頼を出すか迷っていたところでレイニーに話しかけられたらしい。

「・・・それで、お友達が来るのがゲーム内時間で夜の3時ですので、それまでに材料を集めてきて欲しいのです」

と、フランドールは説明した。|(ゲーム内の時間の進みは昼夜ともに5時間周期、つまり1日10時間である)

「依頼の内容は分かった。 で、ケーキの材料って何を持ってくればいいんだ? そういうのには詳しくなくてな」

「あ、はい! えーと材料は、牛乳、卵、小麦粉、砂糖は足りてるのであとはバタ・・・いえ、生クリームをお願いします」

「?・・・今バターって言わなかったか?」

「いえ!バターはまだ在庫がありましたので、大丈夫です」


(なんか引っかかるな、さっき小声で|「バターが」とか言ってたよな、まあついでで持ってきてやるか。)

「・・・分かった、それなら丁度サニーヒルズで積めるから、そこから持ってこよう」

そう言って俺が機関車に乗り込もうとしたその時、突然別のプレイヤーが会話に割り込んできた。


「その依頼、このスゴ腕冒険者の|『アーサー』が引き受けましょう!」

後編に続きます。


作中に出て来たワードの補足:路線について

現段階では線路は2車線ある。左側がクラウド→ラッシュ→各都市方面で、右側が各都市→ラッシュ→クラウド方面である。 作中のようにスピードの速い車両がスピードの遅い車両を追い抜くには路線の各所にある分岐点を切り替え、対向列車が来ないことを確認した上で車線変更して追い抜けばいいが、クラウド~ラッシュ間ではサニーヒルズの駅にしか分岐点がない。 また、路線内には高速列車通過の際に遅い車両を本線上からどかせたり、車両を一時的に停車させておく|『退避線』や、現在は使われていないが、線路はそのまま残されている|『古い路線』も全区間に多数存在する。

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