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暴け暴れて

 「隊長、前線の配置完了しました」

 「遅い!!何をモタモタやっておったのだ!?」


 ガルダ王国軍総隊長、テナトス・ガルダは肥厚した自らの体をサイズの合っていない小さな椅子に乗せて、唾を飛ばすことも躊躇わず報告に来た部下を叱責した。

 「フン」とため息をついた後、目の前に広がる総勢50000にも及ぶ兵の軍勢を眺め、満足げに丸い顎を撫でていた。


 「直ちに裏切り者のいる村へと攻め込め!!」


 大袈裟に動き、先にある村を指差す。テナトスの言葉を聞き慌てて側にいた軍人の一人が止めに入る。


 「し、しかし!!この暗闇の中、軍を動かすのは…」

 「…我、テナトス・ガルダの命令を聞けぬというのか」


 自身に歯向かう者に睨みを効かせる。軍人はたじろぎ、押し黙る。


 「次期国王として進軍を命じる!!邪魔する者は容赦なく──」


 テナトスの号令はいともたやすく遮られた。いや書き消された。


 「な、何故これが…」


 天から降って来た巨大な弩の衝撃によって。

 椅子から転げ落ちたテナトスは尻餅をつき、顎が外れていた。


 『テナトスよ、見ているな?私は悲しい。優秀なお前がまさか暗殺者と内通するなど。誰が分かっただろうか。だが起きてしまったものは仕方ない。…えーと、なんだっけ?この矢を宣戦布告とさせてもらう?せいぜいその利口な頭で言い逃れできるよう、生き残るのだな…改めて聞くと中々皮肉たっぷりだな』


 内容と反して緊張感のない棒読みや私語が盛り込まれていた。


 「な、なんだこの映像は?これを操作できる者が王国の技師以外にいるはずない」

 『これあんな演技できたのすごいな。誉めて使わそう』


 映像の中で王の姿をした何かが軽薄な笑いを浮かべていた。テナトスは手を握りしめ、激昂する。


 「っ!?この我を見下すとは許しておけん!!」

 「はい、言質取った。領主様、分かっただろ?あれは王様の言葉なんかじゃない。全部アイツの言ったことだ」


 その声は映像と同じだがそれを介したものではなく、遥か天の上、夜空に瞬く星の如く、何もない場所に立つ男によって放たれていた。



 「あれが王の言葉ではないだと?何故分かる?」


 風人の魔法によって操られる弩に乗りながら、グリオスは尋ねた。


 「微妙に映像の口と音声が合ってなかった。幻影系の魔法で姿と偽ったからだろう」

 「だがそれくらいのことで…確証はどこにも…」


 吹き付ける風によって書き消されそうな声も風人は拾って答えた。


 「そう言うだろうと思って映像を調べてみた。ほら」


 風人が手をかざすと、先程の王の映像が2つ現れた。一つは姿は王だが音声の付いていないもの。そしてもう1つは、


 「テナトス…っ!!」


 風人には誰だか分からなかったが、丸々と肥えた身なりの良い男が王の台詞を話しているものだった。


 「これでもまだ、裏切られたってことを否定するのか?」

 「いや、奴の性根を正す」


 空からゆっくりと大地に降り立つ二人の男──風人、グリオスに多くの者は天使の降臨かと目を疑った。しかしグリオスはそんな神々しさとは裏腹に、ドスの聞いた声で叫びテナトスに詰め寄る。


 「テナトス、貴様!?」

 「ん?誰かと思えば、出来損ないのグリオスではないか」


 掴みかかるグリオスの手をほどき、突き放す。


 「貴様、よくもこんな真似ができたな!?」

 「お前ごときを潰すことくらい我には造作もない──」


 「ことだと証明したまでだ」と言いきる前にグリオスは反論した。


 「そんなことを言っているのではない!!この軍の数はなんだ!?これ程の兵力を動員して、王国に万一のことがあったらどうするつもりだ!!」

 「お前こそ、暗殺者なんぞと手を組みおって」

 「そんなもの、貴様は承知の上で俺をここに流したのだろう!!知っているなら何故もっと早急に告発しない!?」

 「一々我の言葉を遮るな!!」

 「貴様が話すのが遅いだけだ!!」


 二人の口喧嘩は加速する一方であった。誰も手を出せない言い合いに風人は割って入った。


 「まあまあ、お二人さん。少し冷静に」

 「黙ってろ!!」

 「黙っとれ!!」


 「なんでそこだけ息が合うんだ…」とため息をつくも引き下がるわけにも行かず、一歩踏み出す。


 「言い合っても仕方ないだろ?ここは一つ、優劣を付ける為にも勝負をしないか?その提案をする為に、俺達はここに来たんだ。だろ?領主様」

 「…ああ、そうだったな」


 落ち着いたグリオスをテナトスは訝しげに見る。


 「勝負だと?」

 「このままだと不平等だからさ、戦いに条件を付けたいと思って」

 「ふん、この大軍勢に恐れをなしたか。所詮庶民はその程度の──」


 風人の言葉を聞き口角は上がり胸を張り、あからさまに喜んだ。


 「隊長!!3番隊、連絡が取れません!!」

 『こちら4番隊!!急襲に遭い全員縄で捕縛されました!!至急応援を!!』


 その後あちらこちらから情報が飛び交いテナトスはみるみる青くなっていった。


 「ま、まさか…」

 「俺の力じゃないよ?協力して貰っただけ。家族を守りたい(最凶の暗殺一族)お父さん達(ゴード)に」


 そこまで話すと、どこからともなく屈強な男達が風人の後ろに集結した。


 「まあ、俺達への連絡魔法、あの厄介な床弩の解析、村からここまでの高速移動。全てやってのけたのはこの小僧だがな」


 男の一人がガシガシと風人の頭を撫でる。苦笑いしながら風人はその手を止めて、再度テナトスを見る。


 「さて、隊長さん…だっけか?どうする?勝負を受けるか?」


 テナトスには断る気力もふてぶてしさもなくなっていた。

シ「ご主人様はどうやってあの映像見破ったのー?」

プ「それはですね。魔法解析の魔法を習得したからですよ」

シ「…いつの間にー」

プ「それは…いつものです!!」

次回 王の素質

シ「後付け設定なのは確かにいつものことだけどそうじゃなくてー」

プ「他に何かありました?」

シ「プラシアいつの間に刑務所から出てこれたのー?」

プ「とっくに出てきてましたよ!?それに入ってたの刑務所じゃありません!!」


年内最後の更新となります。来年も(良くも悪くも)変わらずやって行きますのでよろしくお願いします。

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