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固執

 「俺には王となって果たさねばならない約束がある。その邪魔をするならば容赦はしない」


 帯刀していた剣を抜き、突きの構えをする。その目は邪な感情を含んでおらず、構えと同じく真っ直ぐ風人を見据えていた。


 「それなら俺も同じだ。彼女・・との約束の為にここまで来た」


 鞘から剣を振り抜くように腕を振り、剣を生成する。とぎすまされた両刃の洋刀は同じ鋭度の風を従えていた。

 両者の剣、信念、彼らにかかる全てのものがぶつかり合う。


 「チェェェアアアアッ!!」

 「ハァァァアアアアッ!!」


 初めて剣が相見える。刃からは火花が飛び散り風人の剣がグリオスの力によって揺らぐ。風人は剣を振り払い後退する。攻め手を緩めないグリオスは思考を巡らせていた。


 (こいつ、さっきのゴードの子供より剣は弱い。ならば)


 距離を取りながら風の刃を仕向けて来る風人を見て推測を確信に変え、風の軌道ギリギリで避けながら一気に詰め寄る。


 (魔法が派手なだけの臆病者だ。こんな奴に負ける道理はない!!)


 迫り来る刃の竜巻を跳躍でかわし、その勢いで風人へと剣を振り下ろす。剣先にブレや迷いの類いは微塵も存在しない。だがそれ故にグリオスの中では何かが揺らいでいた。


 (なんだ?この感覚は)


 重力も乗せた一撃を受けきれず風人は体勢を崩す。グリオスは着地の衝撃に耐え更に一歩踏み出し追撃を行う。何度も何度も叩きつけるように剣を振るう。


 (何故こんなにも心をかき回される!?)


 バックステップで離脱しようとする風人の動きも見逃さず横に薙ぎ払う。服の先に切れ目を付けるだけだったが風人が倒れた為、距離は離れなかった。


 「ふん!!ちょこまかと逃げることしかできんとはな。三流にも満たない剣士の端くれがよく王家に刃向かう気になったものだ」


 立ち上がろうと地面を押す風人をグリオスは蔑む。


 (そうだ!!これで良い!!これが世の理だ!!)


 優越感に浸っていたのも束の間、すぐに風人は立ち上がり、あろうことか──


 「確かに俺はお前の剣より不恰好かもな。それでもお前には絶対に負けない」


 笑った。実力の差がはっきりと示されたにも関わらず。


 (何故だ!?何故こんな俺より弱い奴が意気がることができる!?)


 グリオスは込み上げる怒りに突き動かされ、剣を振り上げ、叩きつけるように振り下ろす。何度も。


 (何故俺はこんな弱い奴を許せないんだ!?)


 何度も。


 (何故あいつは立っていられる!?)


 何度も。


 (何故…俺は戦っているんだ。何の為に…)



 幼き少年は母と共にいた。母はこの国の王の側室の一人だった。病弱だった彼女は他の側室よりも立場も力もなく、少年共々肩身の狭い思いをしていた。病も悪化の一途を辿っていた。

 時を同じくして王の正室が後継ぎを産むことなく突然の死を遂げた。王は側室の子の中から後継人を選び、その母を正室として迎え入れると宣言し城内は慌ただしくなった。

 心優しき少年もまた病弱な母の為、王子の座を目指し剣を取った。剣の稽古や学問を寝る間も惜しんで身に付けた。剣の師範にも学問の先生からも勤勉で好かれた。しかし、体格に恵まれていなかった少年は剣術では他の候補者に及ばず、学問を計る為に行われた試験では候補者の母親による賄賂により不正が行われ、その候補者が王子となることが決まった。

 当然納得の行かない結果に憤り、今度は王子をどう失脚させるか、全て(・・)の方法を考慮して、闇組織へのアプローチさえした。ようやく王子になれる。そう思った矢先、母の余命宣告が出た。どんな方法でも助かる術はない。そう告げられ母のベッドを雫で濡らした。母はなんとか痩せ細った手を伸ばし我が子の背中を撫でる。

 「あなたは私の誇りです。だからもう泣かないで。これからはあなたが幸せになる為に生きるのよ。良い人をお嫁さんに貰って幸せになってね」

 それが母の最後の言葉として少年の心に刻まれ、母の望む自分の在り方が少年の次の目標となった。王家のしきたりとして地方の村へ出向くよう命令が入り、母の死に背を向けるように王都を後にした。



 太刀筋一つ一つによって思い出される。師に教えて貰い初めて剣術をものにできた時、模擬試験で満点を取った時、今は亡き母との最後の時。その全てを剣に乗せた時、グリオスの中で答えが見つかった。


 「俺は母との約束の為に努力を重ねて来たんだ!!負けるはずがない!!」

 「だったら最後まで母親に見せても恥ずかしくない生き方をしてみろよ!!」

 「分かった風な口を利くな!!綺麗ごとだけで通用する程、世界は甘くないんだよ!!」


 グリオスは分かっていた。今回のはしきたりなどではなくただの厄介払いであることを。本当は権力の掌で踊らされているだけだと。

 ブレていたグリオスの剣が遂に一つの芯を持ち、垂直に風人へと通った。剣を支える腕が震えながらも風人は声を上げる。


 「や、やればできるじゃねぇか!!」

 「強がりが!!お前こそ人に生き方を問うなら何故ゴードなどを庇う!?あの一族が何をして来たのか知らないのか!?現にお前も裏切られたではないか!?」

 「あの人達は、テシナはもう(・・)暗殺一族なんかじゃない!!この村の人達はお前の圧政に苦しんでも決して殺そうとはしなかった!!交渉に使ったプラシアだって偽者だった!!お前に攻撃を仕掛けた時のテシナは…とても苦しそうだった。だからっ!!」


 震える手を握り直し、風の魔法を作用させグリオスの剣を弾き返す。


 「俺は苦しんでいる人の為に戦う!!」


 着地したグリオスに走りながら風人は思い返していた。昔飼っていた…いや、時間を共に過ごしてきた猫のことを。



 楽しかった思い出も多いがその分辛かった思いも強くなる。最後の日(・・・・)の張り裂けるような感覚は異世界に来てから忘れたことがない。そんな思いは二度としたくないし、他の誰にもして欲しくない。



 グリオスの剣の重さ(・・)に並ぶものが自分にも備わっているのを実感して、正面から向き合う。倒すのではなく、プラシアが助かるまでの時間を稼ぐ。それが今の風人にできる最善の方法であると確信を持って言えた。

 再び剣を交え、つばぜり合いの剣と剣の間からお互いを睨み付ける。硬直を破ったのは、空を轟音と共に風を切るように飛ぶ巨体な矢だった。

風「さあ、罪を償う覚悟はできたか?」

シ「先月遂に(原稿)落としちゃったもんねー」

プ「仕方ないですね」

作者「ちょっと待って!?なんでこういう時に限って一致団結して潰しに来るの!?」

風「しょうがないだろ。皆の悲しむ顔は見たくないって感情を俺に与えたのはお前なんだし」

作者「今回はハロウィンスペシャルってことで2ヶ月分くらい書いたから!!どうか、どうかご勘弁を~!!」

その後、作者の姿を見た者は…

プ「さて!!最後に飛んで来た矢ってなんでしょうね?」

風「流石の方向転換」

シ「私知ってるよーこれが向こうに落ちてたー」(残骸の方を指指して)

シ「なんかズドーンってなってダダダってきて最後バーンだってー」

風「全くわかんないけどむしろグッド」

プ「楽しみなので年末更新にならないと良いですねー」

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