実力
「なんだコイツ!?」
「くっ、速い」
風人は走っていた。場所はガルダ王国。辺境の村の村長、グリオス・ガルダの館。幾人もの王国兵が出てきたが、風人が身に纏う身体強化の魔法の効果で目にも止まらぬ速さで走り最上階の3階を目指す。
(一人、二人…これならまだいける!!)
ようやく風人に馴染んでいたこの世界の服を靡かせ加速して壁を蹴り、頭上を飛び越え、様々な方法で兵士達を回避する。
しかし進めば進む程騒ぎは大きくなり、
「もう逃げ場はないぞ!!」
「諦めろ!!」
遂に挟み撃ちにあった。ジリジリと詰め寄られるも、風人には余裕があった。
(前と後ろに三人ずつか。強行手段に移させてもらおう)
「《ゲイル》」
前方の三人に右手を向けて、言語魔法の呪文を唱える。右手を中心に風が発生したが、攻撃的な性質はなかった。
(もちろん、攻撃するつもりもないからな)
その風は風人の意図を汲み取るように自在に動き、重装備の兵士達を軽々とすくい上げた。浮いた兵士達の下を滑り抜け、再び加速する。
(いち速く助けないと、あの子達の為にも)
◆
俺は自分を責めていた。俺を慕ってついて来てくれたプラシアを守ることができなかった自分を。約束したあの頃から何も成長していない自分を。また何もできない惨めな思いをすることに怯えて助けにも行けない自分を。許すこともできず這いつくばったまま泣いていた。
「いた!!おーい、いたよー!!」
「ホントだ!!いた!!」
するとどこからともなく甲高い声が寄って来たのが分かった。重たい頭を動かし見上げると二人の子供がいた。
「君、達は…」
「僕はセザ!!こっちは」
「弟のミザだよ」
自信満々に自己紹介する二人の顔を見て思い出した。教会にいたマリアという女性の子供だ。
「何の用だ?」
「お母さんが村長に捕まったのお兄さんのせいなんでしょ?」
「お兄さんがお母さん助けてよ」
その通りだ、としか言えないような依頼だった。
「無理だ。俺がやっても失敗するだけだ」
「どうして?」
「どうして無理なの?」
「どうしてって…」
理屈を並べる前にセザとミザは目を輝かせながら話し出した。
「お母さん言ってたよ。お兄さんすごく強いんでしょ」
「魔法使ってズバババってやってバーンってできるんでしょ」
「失敗なんて僕達だってするよな、ミザ」
「この前も食器割っちゃったもんね」
「でもお母さん言ってたよね。失敗してもまた挑戦しろって」
「うん、だからすごいお兄さんならできるよ」
こんなに小さな子供達でも失敗からの立ち直り方を知っていたことに驚きを隠せなかった。
「確かに、こんなところで泣いてる場合じゃないな」
覚悟を決めてゆっくりと立ち上がり、救出へと向かった。
「お兄さん!!そっち村長のおうちじゃないよー」
「ほへっ!?」
向かえてなかった。
「後、お母さんはプラシアお姉ちゃんといれかわる?って言ってたよー」
「っ!?それ本当か!?」
余計急がなきゃいけなくなったのだった。
◆
「プラシアと言ったか。明日には婚儀を挙げよう。だがその前に顔をよく見せてくれ」
村長の館の3階にある自身の部屋で、グリオスはプラシアに変身したマリアに迫った。それでも俯いたままのマリアに腹を立てて腕を掴み引っ張る。
「いやっ!?」
「おとなしく言うことを聞けば良いん…」
引かれた衝撃でマリアの変身の魔法が切れてしまった。
「本物はどこだ!?己の身が大切なら正直に答えろ」
「人を強引に従わせようとする人には絶対に教えないわ」
「その強気な態度がいつまで続くか、試すとしよう」
グリオスは怒りを露にしてマリアの腕を引く。マリアの悲鳴に応えるように扉が開かれ、飛び込んで来た風人はグリオスも反応できない程の速さで体当たりする。
「なっ…貴様!?」
「ちょっと付き合って貰うぜ」
木製の窓戸を破りながら三人揃って外へと飛び出す。グリオスが手を放した隙にマリアを抱え、《ゲイル》で落下速度を調整して着地する。
風人は自分の腕から軽やかに降りたマリアに目を向けた。
「マリアさん、俺が時間を稼ぐ間にプラシア…とテシナ、それと司祭様の救出をお願いしても良いですか?」
「どこにでもいる淑女に凄いこと頼みますね」
マリアはくすっと笑ってみせる。
「惚けないでくださいよ。変身の魔法を並大抵の人が使えるわけがないことくらい知ってますよ」
「バレましたか。まあ良いでしょう。ただ、報酬は弾んで下さいね」
「助けてあげたのは考慮してくれないんですね」
「まあ良いけど」と付け加え、ふらふらと立ち上がるグリオスに向き合う。と同時に背後から人の気配が消えた。
(これなら任せて大丈夫だな)
「俺には王となって果たさねばならない約束がある。その邪魔をするならば容赦はしない」
帯刀していた剣を抜き、突きの構えをする。その目は邪な感情を含んでおらず、構えと同じく真っ直ぐ風人を見据えていた。
「それなら俺も同じだ。彼女との約束の為にここまで来た」
鞘から剣を振り抜くように腕を振り、剣を生成する。とぎすまされた両刃の洋刀は同じ鋭度の風を従えていた。
両者の剣、信念、彼らにかかる全てのものがぶつかり合う。
シ「今回ご主人様カッコ良かったねー」
風「そ、そうか。どんな所が良かった?」(内心嬉しい)
シ「マリアお姉さんの助ける場面で間に合ってる所とかー」
風(ん?なんか予想外なコメントが来たぞ)
シ「人の期待に答えようとしてる所とかー」
次回 固執
風「…シエル?」
シ「何ー?」
風「もっと他にないのか?今回魔法でいろんなことしたつもりなんだけど」
シ「後はねー」
風「いや!!もう良いから!!(まずいよ、これ完全に更新遅れた作者いじりだよ)」
今回はいつにも増して遅れてしまって申し訳ございません。その分今回は分量多目なので大目に見ていただけると…いやこれでもう許して貰えなそう。orz
加えて、前回の時間予告並びに今回の題名を変更、次回の題名にさせていただきます。自分の力不足による物なので今後起きないように気をつけますので今後ともよろしくお願いします。




