理由
「約束が違うじゃないか!?」
プラシアを奪われ、残っていた兵士達にマリアと共に取り囲まれたテシナは激昂する。村長はプラシアを舐め回すように見てから、目端でテシナを睨む。
「誰にものを言っている?この俺、グリオス・ガルダはこの国の王となるにふさわしい男だ。そんな俺に尽くすことができたんだ。ありがたく思え」
テシナは「ガルダ」という単語に耳を疑った。
「こんな辺境の村に、腐ったって王族が来るわけない!!」
「フン、我々のしきたりも知らぬ庶民の癖に減らず口を。そこまで言うなら教えてやろう」
馬車にプラシアを強引に乗せてから、グリオスはテシナに振り返る。
「このガルダ王国を代々治める我が一族の英雄にして、初代国王ガンダリオンはあろうことか貴様らと同じ庶民だった。しかし、数々の手柄をあげ、功績を残し、一国の王となった。それに習い、王になる前に国内の村へ赴き庶民の心を知る、などと言うくだらない因襲が生まれたのだ」
「あろうことか?くだらない?…ふざけるな!!僕達を何だと思っているんだ!!」
「庶民は庶民だ。我らが導いてやらねば何もできぬ、愚かな存在だ」
「…っ!!」
その時、テシナの中で何かが断ち切られた。背中に忍ばせておいた短剣を抜き取り、煙幕を放つ。煙が晴れるもテシナの姿はなく、ザース教の証が置かれているだけ。次の瞬間にはグリオスの背後に回り込み、首筋めがけ無駄のない動作で切り裂く。
「言っただろ?英雄の血筋でもあると。伊達に剣の鍛練を積んでいるわけではない」
「くっ!!」
しかし、テシナの刃はグリオスが帯刀していた長剣に阻まれた。剣同士が競り合う様を見てグリオスは鼻で笑う。
「それにその身のこなし、太刀筋。やはりお前達は暗殺一族ゴードだな」
「なっ!?」
「だがまだまだ甘いようだな。所詮は子供か」
剣を振り抜き、テシナを突き飛ばす。
「それでも功績としては充分だろう。礼を言うぞ。お前達のお陰で俺はいち早く王になれる」
「ちっ、クソっ!!」
最も気に食わない奴に塩を送ってしまった自分を、未熟が為に歯が立たなかった自分を悔やみ、地面を強く殴る。
「二人を取り抑えろ。屋敷の牢に入れておけ」
グリオスの命令を受け、その場にいた兵士達は動き始めた。
「この化け物はどうしますか?」
「放っておけ、最早そいつに戦意はない。それに…」
その内の一人に尋ねられたグリオスは項垂れる風人を一瞥し、すぐにプラシアへと視線を戻す。
「この女がいれば戦えないらしいしな。全く、良い女だ」
プラシアの顎を取り、ニヤつく。その時プラシアの口角も緩み、グリオスは余計機嫌を良くして屋敷へと帰って行った。
◆
月明かりがかろうじて差し込む地下牢。
「ククク…ハハハハハ!!グリオスの奴、まんまと引っ掛かりやがったよ!!お姉さんがいればお兄さんを止められる?むしろ逆だよ!!お兄さんはどんなことをしてでもお姉さんを助ける、そういう人だよ!!奴は化け物の逆鱗に触れただけだ!!」
テシナは突然狂ったように牢屋の壁に叫び出した。目は血走り、今まで見せることのなかった新しいおもちゃを貰った子供のような表情をして、自らの策に酔っていた。
「テシナ君…」
テシナの向かいの牢にいるマリアは心配そうに見つめる。しかし、その一言が余計に火を燃え上がらせ、飛び火させようとテシナは振り返った。
「…なぁのに、な~んでお姉さんがここにいるんだ!?」
「気付かれてましたか」
「マリアさんの方がよっぽどお姉さんの変装は上手かったよ」
テシナが隠し持っていた短剣は二つの鉄格子もものともせず、マリアの頭を掠める。短剣の切り裂いた傷口からは血が出ることはなく、代わりに皮が剥がれプラシアの顔が現れた。
「どうしてくれるんだ!?マリアさんがお姉さんじゃないってバレたらどうなるかも分からない。司祭様も帰って来ない。お兄さんだって」
「カザト様は来ますよ」
「僕達を、裏切り者を助ける理由もないじゃないか!?」
頭上の屋敷が騒がしくなるのが、地下にいる二人にも分かった。
「そうでもないみたいですよ?私の知る限り」
プラシアは微笑んだ。
「カザト様程、他人思いでお節介な人はいませんよ」
自らの自慢話をするように、もしかしたらそれ以上に眩しい笑顔で。
シ「プラシアはあのおばさんに化けてたのー?」
プ「そうですよ(おばさんとか化けるとか言わないで欲しいけど)」
シ「私にも教えてー」
プ「あれはマリアさんが家業の一貫で習得したもので、私には使えないんです」
シ「おばさんに教えて貰おー」
プ「珍しく興味津々ですね(頼むからおばさんって言わないで!!)」
次回 実力
シ「シエルがプラシアになればー出番も増えるかなーって思ってー」
プ「意外と切実ですね…」
シ「それでおばさんどこー?」
マ「シエルちゃ~ん?おばさんって誰のことかな~?」
シ、プ(あ、これダメな奴だ)




