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竜の真実

 土砂を目の前にして風人は拳を構えた。


 「《チャージ》、《ゲイル》」


 《チャージ》で拳を強化し《ゲイル》で風属性を付与する。軽く息を吐き拳を突き出す。土砂は風で浮き力で吹き飛ばされる。

 その先には風人の予想通り大きな穴が開いて青空が覗けた。その先めがけ「《ウィング》」と叫び跳ぶ。風人はジャンプしてから落ちることはなく、むしろ高度を上げた。

 外は風人が初めてこの世界に降り立った場所と同じように草原と青空が広がっていた。見回すと青い翼をはためかせ飛んでいる白い竜とその先の村が見えた。


 「体が白い?また得体の知らない魔力光か?」


 疑問を感じながらも追い付くべく速度を上げ飛翔する。今の風人は竜のように羽はないが全身に魔法を巡らせ体を浮かせている。故に音がしないため竜に気付かれない。


 「今は完全にデメリットだな。竜がこっちの存在に気付けば少なくとも俺を無視して村に近付かないだろうに」


 この魔法を初めて使った当初こそ敵に気付かれずに空を飛べると喜んだが、この時ばかりは運命を憎むしかなかった。



 「ギュルルルルルァ!!」


 村に残った獣人達にとって予期していない竜の襲来は平和な日常を打ち砕く以外の何物でもなく、影を写す地面、そしてそれを作り出している本体の姿を見て恐れ、逃げ惑う。

 そうしなかったのは村の中でも二人だけだった。


 「プラシアー、どこ行くのー?」

 「決まってます!!この村を、皆を守るんです!!」


 状況を読み込めていない黒い毛の猫耳を持つ少女とその少女を必死に引っ張り混乱の下へ急ぐ青い毛の猫耳の女性。


 「竜よ、聞いてください。あなた程の力を持つ者は私達とも会話ができると聞きました。もしそうならばどうか、どうか理由を教えてください。あなたがどうしてそんなにも怒っているのか」

 「ギュルルルルルァ!!」


 プラシアの叫びも虚しく竜の咆哮に書き消される。その覇気にプラシアとシエルは吹き飛ばされそうになる。

 次は覇気だけでなく本物の攻撃が襲いかかってくることはプラシアでも容易に想像がついたがそれでも止めずに必死に訴える。


 「もし村の者があなたを襲ったことを恨んでいるのなら、仕方のないことだとは思います。しかし、それは私の為にとしてくれたこと。だからその責任は私が取ります。ですから、村の皆は見逃してください。お願いします」


 胸の前に手を組み祈るように訴える。だが竜はそんな事は意に介さず攻撃の意志を現す赤き魔力光を身に宿す。プラシアは死を覚悟して目を瞑る。


 (私、何も出来なかった。むしろ私のせいでこの村が滅び、もしかしたら獣人は滅んでしまうかもしれない。それに…)


 隣で状況を理解できていないシエルをちらと見る。


 (それにカザト様の大切な人も守れなかった。せめて、あの人の大切な人にでもなれてたら───)


 竜が首を振り上げその強大な顎から火の玉を放つ音がする。轟音を立てて己に向かうのが分かり、プラシアには時が長く流れた。村の皆の事、子供の頃の記憶しかない両親の事、最後に浮かんだのはやはり初めて惚れた風人の事だった。


 「…俺の大事な人達に手を出す奴は、俺が許さねぇ!!」


 プラシアにとって幻聴かとも思われた叫び、その主は確かに存在した。


 「ご主人様だー」


 見上げた頬に雫が伝うのをプラシアは少し遅れて感じるのだった。



 風人が竜に追い付いた時には既に村の上空で暴れていた。建物のいくつかは崩れて燃えていた。更に魔法を撃たんとすべく竜が首を反らし、その先にシエルとプラシアがいることに気付いた時、風人は唱えていた。


 「万物を弾け──《ソニックシルト》」


 言語魔法以外で呪文を必要とするものは上級魔法と呼ばれる。怒りに満ちた竜の火の玉が真っ直ぐ二人に突撃するが、成し遂げることはなかった。全てを焼き尽くす炎が、透明で見るからに薄い壁によって止められあろうことか消されたのだ。

 流石の竜も驚きを隠せず後退する。その間に割って入る風人を竜は睨み付け唸る。だが、形相では風人も負けていなかった。


 「…俺の大事な人達に手を出す奴は、俺が許さねぇ!!」


 その声に隠った怒りはもちろん竜に対してもある。が、大切な人が大事にしていた村を竜に壊させてしまった、大切な人をギリギリでしか助けられなかった風人自身に対する憤りがあった。


 「それに、お前も言いたいことがあるなら言えよ。『何故裏切った』とか言ってたんだ?」


 竜は攻撃が防がれた時とはまた違う驚きを示した。


 「グルルゥ…」


 小さい唸りは風人にはこう聞こえた。


 『何故、我の意思を認識できる?』

 「何故も何もこの世界に来た時から獣人の言葉もお前の言葉も分かるんだが。て言うか質問してるのは俺だから」

 『…我はかの場所にて獣の人を守ってきたのだ』


 殺気の失せた竜はゆっくりと語り始めた。



 あれはどれ程昔だったか、人も住まぬ、獣も住まぬこの地に我だけが訳も知らず佇んでいた。 何者も来ず何物もなく、長い年月が過ぎた。

 そんな時、この辺境に我以外の生───人が来た。それもただの人ではなく獣の人だった。聞けば、きやつらは種族の壁により他の人に追われたと言う。気の毒に思った我は持て余していた力をふるいこの地を豊かにし人には気付かれぬよう結界を張った。それの維持に今度は体の自由が効かなくなったが、我は良しとした。意味すら解せなかった生涯を何者かの為にようやく使えたのだ。

 獣の人は義理堅く、我が良いと言っても、自らの血を使用した契約を結ぶと言って聞かなかった。我らは契約を結び我がこの地を守る間、獣の人は地下に眠る我に貢ぎ物を差し出しに来る、と。しばらく、追われた獣の人の子まではその契約を律儀に守ったがその先はほとんど訪れることはなかった。時が経てば忘れ去られるのは不変の事実だ。

 しかし、あろうことか恩人とも言って遜色ない我に牙を剥くとは───



 「ギュルルル(祖先の努力を省みぬ)ルルルァ(愚か者どもめ)!!」


 青い光を力強い顎から放ち風人に飛びかかる。「《ガード》」と咄嗟に叫び、竜の激突に正面から迎え撃つ。


 「ギュルルル(邪魔する者は誰で)ルルルォォ(あろうと容赦はせぬぞ)!!」


 竜が憎み深く牙を剥き出しにするのが障壁越しに風人に伝わった。だんだんと力も圧され障壁にひびが入る。


 「危ないっ!!」


 地上からプラシアの危機迫った声が風人に届く時には守りは破られ竜は呑み込まんとしていた。そして、


 「…行ってみるか」


 そう残して風人は無抵抗に竜の口に収まり、甲高い悲鳴が空を裂くかの如く響き渡った。

プ「か、かかカザト様が食べられてしまいました!!」

風「ん、そうだな」

プ「呑気に肯定してる場合ですか…ってええっ!!どうしてここに!?」

風「シエル曰くここは本編とは切り離された場所らしいからな。食べられても平気平気」

次回 それだけは勘弁して欲しかった

プ「それなら、カザト様とナニをしても良いんですね!!」

風「本編とは切り離されてるけど『なろうサイト』とは切っても切れないから。ナニかしたら消されるよ?」

プ「もう本編でもカザト様も食べられちゃったんだから良いじゃないですか!!」

風「アーッ!!」

カンペ『見せられないよ』


と言う訳で読んで頂きありがとうございました。また次回(いつになるか分からない)でお会いしましょう。

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