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竜と獣

 迷宮に入ってから5時間程経ち、風人達は竜がいる部屋のすぐ前──大きな扉の前まで来ていた。


 「こんな簡単に着くんですね。もっと攻略に何日もかかるのかと思いましたよ」

 「本来であればそうでしょうが、この先にいる竜についての文献が残っていて居場所が書かれていたんですよ。それに第1層なので村から近いのです」


 ライオットが装飾が施された本のページを開いて見せた。確かに迷宮の地図に門と竜の絵が描かれていた。風人が見ているとライオットが制止して門に手をかける。それだけで周囲の殺気が増した。


 「プラシア様の為に…行くぞっ!!」

 「おうっ!!」


 ライオットが門を押すとそれ以降は門はひとりでに音をたてて開いた。


 「《ライト》」


 風人の魔法で部屋を照らすと中には荘厳な佇まいで眠っている竜がいた。人などいとも容易く踏み潰しそうな巨体に長い首を持ち、その全てに蒼白く輝く鱗を纏っている。小さく畳んでいるが同じ色の翼もあり、フォルムとしてはとても美しいもので皆も息を飲んだ。


 「眠っている今が好機!!一気に攻めろ!!」


 ライオットの指示に従い男達は剣や槍で無防備な竜を傷付けた。唯一それに参加しなかった風人は違和感を覚えた。


 (無防備にも程がある。扉だって簡単に開いたのに眠っていて気付かないなんて)


 竜が目を覚ました時には既に体に幾つもの傷が付けられていた。痛覚の為か竜は悲鳴とも取れる鳴き声をあげる。


 「なっ…今こ───」


 風人が声を出そうとする前に竜は体───正確には鱗から緑色の光を放っていた。


 「この光…回復の魔力光!?」


 魔力光とは強力な魔法を使う際に使用者から滲み出る魔力が放つ光で魔法の種類によってその色は違う。風人の魔法で魔力光が出たことはないがプラシアの知識や持っていた本から学んだことの一つだ。

 竜の傷付いた鱗はみるみる元に戻り魔力光が収まる頃には完全修復し、竜は頭を上げ猛々しく叫んだ。


 「全快した、なんて回復力だ」

 「一旦引けっ!!体制を立て直す!!」


 ライオットの判断は的確で既に竜は暴れ敵を薙ぎ払っていた。竜の尾が届かない程の距離を取るが一人遅れた。ラウだ。

 足が縺れたラウ───一番近い敵に竜は真っ先に近付いた。


 「うわぁぁぁっ!?」

 「《ガード》」


 竜が切り裂こうと前足を上げラウが驚き叫ぶのと同時に風人は防御魔法を使う。しかし、


 「んなっ!?」

 「ギュルルルルルァ!!」


 魔法の障壁は竜が振り上げた爪の前に簡単に散り、破片が空中で消滅する。


 (言語魔法じゃ抑えられないか)

 「んなら、これでも喰らえっ!!」


 そう言って風人が竜に向けたのは巨大な銃口だった。爆発音と共に放たれる弾は実弾ではなく火の玉───魔法弾だ。これは言語魔法とは別で想像した魔法で、風人がどうしても作りたいと言って、この世界にないリボルバー式の大きな銃──魔法なので質量はない──を精製し魔法弾を放つ物だ。

 音で気付いた竜はまっすぐ魔法弾に向かいあった。


 「ラウ、今のうちに逃げろっ!!」

 「はっ、はいぃ~!!」


 風人の考えをいち早く汲み取ったライオットがラウを呼び何とか危険は脱した。

 風人がしたのはいわゆるタゲ取りと言う物で、竜の注意を攻撃で風人に引いたのだ。


 (流石に倒せないとは思うが、タゲ取りは成功だな)


 風人が安堵したのも束の間、竜は魔法弾に対しての行動に出た。


 「また光った!?」

 「また魔力光…何をする気だ?色は…紫!?そんな色は魔力光にないんじゃ」


 竜は魔力光を放ちながら躊躇なく魔法弾に走る。竜の頭に魔法弾が当たる寸前、魔法は発動し竜の全身を覆う程大きなドーム状の障壁を形成し魔法弾に正面からぶつかる。その勝負は拮抗して竜が少し足を滑らせたかと思ったら、魔法弾を威力はそのままに──むしろ上がって──洞窟の天井に弾いた。


 「ふぅ、とりまこっちには───」


 風人が安心する前に服の襟を掴み勢い良く引っ張られた。


 「速く逃げろっ!!崩れるぞ!!」


  引っ張っていたのはライオットでその後ろを皆が急いで走っていた。入って来た門を出ると一気に天井が崩れた。最後の最後でギリギリ戻ったのはラウだった。


 「あ、危ねぇ。下敷きになるとこだった。流石ミカゲ様っす!!迷宮の天井に穴開けるなんて!!これであの竜もタダじゃ済まないっすよ。あの竜もバカですよね、天井に弾いて自分で勝手に潰されて」


 ラウはけろっとして竜を馬鹿にしていたが風人は違和感を感じた。


 (いや、竜は長い時を生きて強大な力を得るというってプラシアは言ってたし。わざわざ敵の俺達ではなく天井に弾く必要があったのか?一体何が…そういえば、ライオットに引っ張られた時にあの竜はあの竜は青い魔力光を放っていた)


 青い魔力光は主に防御魔法で生じるがその他にもいわゆるバフ──能力強化を付与する魔法でも稀に発動する。しかし、魔力光が生じる程の強力な魔法は制御が難しく、他に付与するとなるとどうしても力が弱まり魔力光が出ない。


 (埋もれないように防御したのかと思ったけど…)

 「ヤバいっ!!」

 「どうしました?急に声を出して」


 風人に視線が集まる。


 「村の皆が危ない。あの竜は外への出口を作って村に行くつもりだったんだ!!」

 「そんな、なんでそんなこと」

 「そうっすよ、そもそも竜が俺達の村があることを知ってる訳が…」

 「…竜が最初に叫んだ時、声が聞こえたんだ。『何故裏切った、契約者──獣の人の末裔よ』って」


 風人が竜の声を聞き取れたことやその内容にざわめいた。


 「竜が俺達のことを知っていたってことですか?」

 「でも納得できる点もある。ここへの道が分かったのは村に道を記した地図があったからだ。獣人とあの竜に何らかの関係がかつてあってもおかしくない」

 「っ!!しかし、ここから村へ戻るには我々は何時間もかかってしまう。どうしたら」

 「俺が行く」

 「でもどうやって」

 「この土砂を退かして魔法で開いた穴から外を飛ぶ。竜も飛んでるだろうから追い付くか分からないけど──」

 「『誰も失いたくない(・・・・・・・・)』ですよね。よろしくお願いします」


 今度は風人が驚きライオットの顔を凝視する。


 「人任せな言い方かもしれませんが今の我々にはどうしようもない。でも気持ちは同じです。村の皆を守りたい」


 ラウもその周りのここまで戦って来た皆も頷く。


 「皆、ミカゲ様を信じているんです。だからお願いします!!」

 「「「「お願いしますっ!!」」」」

 (これは本当に覚悟を決めないといけないな)


 風人は壁と化した土砂に向かい拳を構えた。皆の期待と命を背負って。

プ「竜と私達獣人の親和性ってなんでしょうね?」

シ「それは次回をお楽しみにってことでー。ご主人様が今回、竜への攻撃に使ってた魔法って何ー?」

プ「(シエルさん、話聞く気ありませんね。それなら私にも考えがあります)私達が住んでいる土地の地下に竜がいるのには何かありそうです」

シ「やっぱりラノベが好きだったご主人様だからあんな厨二臭い魔法にしたのかなー?」

プ「(シエルさんも同じ手!?でも私も負けません)そ───」

次回 竜の真実

プ「ちょ!?ナレーターさん!?私が話そうとしてたのに」

シ「残念だったねー、であの魔法何ー?」

プ「あれは具現化魔法って言われる種類で使用者の想像を具現化させて───はっ!!」

シ「ふっふっふっ、勝ったー」

こうしてプラシアはヒロインから魔法の説明役へと下げられたのだった。

プ「そんなことないですから!!」

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