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何週間の熟考の成果

 ライオットが風人達を訪ねた日から数日、村の屈強な男達──ほとんどが初めて来た風人を取り囲んだ兵士が集まり、『作戦』について話し合っていた。その中には風人もいた。


 「皆も知っての通りプラシア様を救う為に必要な物はこの村の地下にある迷宮の最奥に住まう竜の鱗だ。それを手に入れる為に我々は竜を倒す作戦を行う」


 ライオットが皆の前に立ち、作戦のあらましを説明していた。風人は後で知ったのだが、ライオットはこの村の兵士の中ではリーダーを務めている。


 「竜は確かに脅威的な強さだが今回は頼もしいミカゲ様がご同行してくださる」


 何人かは感嘆の声を漏らす。新しく手に入れた魔法を村の外で試している様子を見ていた為、風人の魔法の凄さを皆はよく知っていたからだ。風人は褒められて照れ臭くなり後ろ頭をかく。


 「プラシア様の為だ、竜をも我々で倒すぞ!!」

 「「「おぉ~っ!!」」」


 ライオットの声に合わせその場にいた全員が叫び拳を掲げた。地球で味わうことがあまりなかった一体感を風人は感じ口が緩む。それを見て頼もしさを感じた周りもつられて笑ったのだった。


 (こんな感じ久しぶりだな。小学生時代に紀代達と運動会で頑張った時ぐらいかな。元気にしてるのかな、紀代や真名斗まなと)


 と心配したところで女神のキミホ曰く俺に関する記憶を消したそうなので今更だ、と風人は気付いた。



 獣人達の村の地下に広がる迷宮。巨大なアリの巣のようにどこまでも洞窟が縦に横にと続いている。そこには日が差していないにも関わらず植物が自生し、それを糧とする生物が生息し、更にそれをも捕食する生物モンスターが存在する。捕食生物達は人間や獣人にも見境なく襲いかかってくる。よってダンジョンに入るにはそれらに対抗できなければならない。


 「我々はこの迷宮と共存して生きて来ました。だから我々は害を与えてくる生物をモンスター、それ以外を我々と同じように動物として接しています」

 「へぇ、そうなんですか」


 風人はライオットの説明に感心したように頷く。現在、迷宮攻略の最中、魔法使いである風人は後衛のポジションが固定で、ライオットがローテーションで後衛になり時間が空き、迷宮の説明をしている。


 「肉はこの迷宮でしか取れないのでよく来るんですよ」

 「ああ、確かにここら辺の周りって何もない草原ばっかりですからね。農業はやってたけど」

 「…来ますね」


 話の途中ではあったがライオットは尖った耳を震わせ、全員に危険を伝える。


 「総員、デカいのが来るぞ!!前衛は盾で攻撃から味方を守れ!!後衛は槍でなるべく離れて攻撃しろ!!無理はするな、すぐに盾と変われ!!」


 ライオットの指示通りてきぱきと動き構える。曲がり角から3メートル程の高さを誇る恐竜のような見た目のモンスターが現れた。経験に乏しい風人でもその大きさと咆哮からモンスターの強さが伺える。

 モンスターに臆することなく果敢に戦い、槍を突き刺す。傷口から赤い体液が飛び散る度にモンスターは苦しみ弱っていく。

 すると、油断したのか後衛の一人が足を取られ転んだ。モンスターが見逃すはずもなく太いしっぽを振り敵を攻撃する。


 「《ガード》!!」


 風人が叫ぶ。しかし、目に見える変化はない。その後衛は自らの死を覚悟して目を瞑るがいつまでも衝撃は来なかった。恐る恐る目を開くと尾は寸前のところで止まっており、よく見ると透明な障壁に当たって止められているのだった。呆然と障壁を見ていたが正気を取り戻しすぐに走り出し配列に戻る。


 「《ゲイル》!!」


 フォーメーションを整え攻撃態勢に入る前に風人がもう一度叫び、それと同時に風が収束し円盤型となりモンスターを切断した。2つに別れたモンスターは勿論その場に倒れた。男達の歓声が響く。


 「うおぉ!!すげぇ!!」

 「これがミカゲ様の魔法か」

 「何度見てもすげぇ!!」

 「流石、ミカゲ様だぜ!!」

 「いやぁ、そんなにすごくないですよ」


 風人は謙遜するも聞かず勝手に盛り上がる。


 「おい、せっかくミカゲ様が倒してくださったのだからはやく解体してまとめろ!!もっと下まで行くんだからな!!」


 ライオットが制止するとやっと静まりモンスターの死骸に手を付ける。手際良く皮を剥ぎ肉を切り荷物に詰めていく。かなりの巨体で中々捌ききれないでいた。


 「ライオットさん、あのモンスターの肉、もらっても良いですか?」

 「良いですけれども…どうなされるのでしょうか?基本的にこのようなモンスターの肉は痛み易く村に持ち帰ることは難しいかと」


 男達が肉を取っているのはすぐに食べて食糧の消費を抑える為である。ライオットが風人の提案に困っていると、


 「あ、保存については大丈夫ですよ。これ(・・)に入れちゃうんで」


 そう指差したのは背負ったリュックサック──生活用品一式が入れる為にいくらでも物を収納できる──だった。


 「女神様に頂いた特殊な物ですよね?物が多く入るという機能ではなかったですか?」

 「それに加えてこの中の物は時間が経たないようになってるみたいで。せっかくなんでシエルやプラシアにお土産を持って帰りたいんですよ」


 風人が簡単に言ってのけたことにライオットの思考は追い付かず数秒遅れて驚き、「女神様の物」という理由で納得して、今度は風人の顔を見て笑みを溢す。


 「お土産ですか。プラシア様もお喜びになると思います。良かった、良かった」


 その後も「良かった」と何度も頷いて言ったので風人は不思議がり尋ねると、


 「プラシア様はいつも明るく接してくれますがお身体のこともあってか、どこかうわべだけのようにも思えました。それが私には、いや、皆にも辛かったのです。ですが、ミカゲ様が来てくれてからのプラシア様は心の底から楽しんでおられるように見えるのです」


 昔のプラシアを知らない風人は半信半疑であったがライオットは気にせず続けた。


 「ですから、どうかこれからもプラシア様と一緒にいてください。私が頼むことじゃありませんが皆の願いです」

 「そうですか。どこまで力になれるか分からないけど良くしてもらっているので出来る限りのことはしますよ」

 「それで充分です。さて、そろそろ解体が終わりますね。おい、ミカゲ様に肉を分けて差し上げろ!!それ以外は安全な場所に運び、それぞれで焼いて食べておけ!!明日が本番だからな!!」


 男達は声を張り上げて返事をしてそれぞれ行動に移る。一人がモンスターの肉を木の皮のようなもので包んで風人のところに持って来た。


 「先程はありがとうございました」

 「いや、自己満足でやってるから」


 男が礼をしてくるも頭を横に振って否定する。『もう誰も失いたくない。誰かを失って悲しんでいる人を見たくない』は風人は他人の為ではなく自分の為だからだ。


 「俺、ミカゲ様のこと何があっても守りますから」

 「それよりラウは自分の身を守れるようにしないとな」


 ライオットの皮肉のこもった冗談に笑いが起きる。男───ラウから肉を受け取りリュックサックにしまう。


 「重くないッスか?持ちましょうか?」


 ラウが風人のリュックサックを見て尋ねるがまたもライオットに止められる。


 「んなことより自分の分の肉を運べ。ミカゲ様の分もな」

 「わ、分かりました!!」


 そそくさと残っていたモンスターの肉を持ち他の皆の方に走って行った。


 「あんな風にあしらっちゃって良かったんですか?」

 「優しいですな、ミカゲ様は。若い奴はああやってしごいてやらないと後が大変ですから」

 「なるほど…」


 未来を考えているライオットの意見に感心しつつある言葉が引っかかっていた。


 (『優しい』か。この世界じゃこれでも優しいのか。もっと強くならないとな。『優しい』だけじゃ強くなれないから)


 奥からこんがりと良い匂いが漂ってきて風人とライオットは腹の虫が鳴り顔を見合わせて笑うのだった。

風「いやーようやくまともで格好良い魔法使えたー!!」

プ「良かったですね、カザト様。どんな魔法をお使いになったのですか?」

風「言語魔法って言って、言った言葉に魔法が反応してその意味の魔法が発動するこの世界の簡易魔法だって教えてくれたのプラシアじゃん」

プ「さ、作中に出せなかったから聞いた訳ではありませんよ」

次回 竜と獣

風「はぁ、遂にプラシアまでも作者の手に落ちたか」

プ「落ちた訳じゃありませんよ。契約をしたんですよ。カザト様とのイチャイチャ回という物を貰うことを条件に」

風(ソレを俺に言っちゃって良かったのか?)



という感じでこれからも亀更新で頑張ります。話が落ち着いて来たら(いつ落ち着くのやら)それぞれとのイチャイチャ回を書きたいと思っています。お楽しみに。

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