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焼き加減とは!?

 意識を取り戻した風人は知らないベッドの上に寝かされていた。上半身を起こすと周りには怪我をした人───正確には獣人が風人と同じようにベッドに横たわっていた。そこには気が確かな時に近くにいたはずのシエルやプラシアの姿は見えなかった。


 「ここは…」

 「あんた、あの時の…恥ずかしいこった。この村の兵なのに客の連れすら、長の娘すら守れないとはな」


 風人の声に隣にいたシェパードのような尖った耳をした男が寝たままの体勢で答えた。胸や腕に包帯を巻いている見た目通り重度の怪我を負っているのか声が掠れて、今にも途絶えそうであった。


 「何が…あったんですか?」

 「盗賊が、襲って来て、族長の家目掛けて、それで…」


 男は次の一言が言い出せなかった。その様子に風人は最悪の状況を想像してしまう。血の気が引いて再び倒れそうになると、扉の開かれる音が響き、小さな女の子が風人の隣の男に駆け寄る。


 「喋らないでくださいって言ったじゃないですか!?傷口が開いてしまいます!!お父さんまで死んでしまったら、私…」


 ウサギのような長い耳が垂れ下がり泣きながら看病をする。包帯を巻き直すと少女は振り返る。鳴き声からは想像もつかない程の鋭い目付きで。


 「あなたのせいで…あなたが来たせいでっ、プラシア様もっ、お父さんもっ、村の皆もっ、それに…ライオットさんも!!」


 風人の胸ぐらを掴み大粒の涙をこぼして少女は向ける先のない怒りをぶつける。が、


 「やめろ!!」


 男がドスが効いた声を張り、少女を制止させる。その声に少女どころか近くで寝ていた人、更には風人まで驚き、肩をびくつかせた。男は一度息を吐き出すと笑っているようにも聞こえる声で言う。


 「悪いな、お客さん。まだ礼儀がなってないもんで。うちの娘が失礼したな」

 「──なんで、お父さんはそんな態度なのっ!?この人のせいでっ、多くの人が傷付いて…プラシア様も盗賊に連れ去られて…ライオットさんまで死んだんだよ!?お父さんは皆が死んじゃっても平気な「んな訳ねぇだろっ!!」」


 男は声を荒らげると少女は体全体をびくつかせる。


 「俺だってな、こんなことが起きるなんてって堪えてんだよ。でもな、それを他人のせいにするのはしちゃいけねぇことなんだよ。それは…お前の好きなプラシア様やライオットだって言ってたことだろう。ペイル」

 「う、ううっ…」


 少女───ペイルは足に力が入らなくなったのかその場にぺたんと座り目を擦りながら泣く。その姿を見た風人はどうしても責任を感じてしまう。


 (俺は…俺のせいでこんなことになったのにシエルの心配だけして…多くの人が傷付いたのに…くそっ)


 己に憤慨すると自然とすべきことが見えてきた。黙ってベッドから立ち上がり部屋を出ようとする。


 「どこに行く気だ?」


 男に声をかけられたので立ち止まる。返事は静かで低い声だったが良く通り、


 「…俺のせいだと思うから、あなたは俺のせいじゃないって言ってくれたけど、それじゃ済ませちゃだめだと思うから…助けに行く。助けられるだけでも」

 「んなこと聞く程、野暮じゃねぇよ」


 先程までとは一転して明るい声で予想外な言葉が聞こえたので風人も思わず振り返ってしまう。男は「馬鹿だな、お前も」と笑っていた。


 「お前さん、盗賊の居場所知らねぇだろ?強さは中々っぽいが敵の場所も分からなきゃどうしようもない。少しこっち来い。あいつらの居場所なら大体検討が付く」


 男が手招きするので風人は近寄ると風人の手にコンパスのようなものを持たせた。


 「その中の矢印の向いてる方に進めば人間の居住地の方角だ。盗賊の拠点もそっちの方角だろ」

 「…どうして、ここまでしてくれるんですか?」

 「獣人ともなると本能である程度は強さが分かるもんでな、お前さんはかなりの手練れと見た」


 男はしっかりと風人の目を見て「それに…」と話を続けて、


 「さっきの目は覚悟を決めたって感じだったからな。俺はそういうの好きだ。好きだが、そう思い詰めるなよ?死ぬ気だっただろ。それだけは勘弁だ。だから死ぬなよ」


 男は暖かい目で風人を見て肩を叩く。風人にはどうして暖かく接してくれるのか分からなかったが、それは再度冷たく閉ざされようとしていた心の奥底に不思議と自然に染み込んだ。



 何もない草原には珍しく岩で囲まれた土地を盗賊達は拠点としていた。そこには盗品や武器、酒がところ狭しと並べられ盗賊の男達は杯を交わしている。


 「良い仕事が入ったもんだな。辺境の村長の娘を連れて来い、だなんてよ」

 「そうだな、報酬もバカ高いしな!!」

 「まあ、上物だからな。この女」


 その一角には手足を縛られ目や口も閉ざされている女が二人いた。


 「にしても本当にべっぴんだなぁ」

 「おい、手ぇ出すなよ?お館さまに献上するんだから」

 「少しくらい味見したってバレやしねえよ」


 そう言った男は気味悪い笑みで女───プラシアの頬に触れようとすると、その男はとたんに倒れた。仲間が心配して近寄ると次々に倒れる。


 「な、何がどうなってんだ!?おい、どうしたんだ、お前等ってあつっ!!」


 まだ倒れていない男が仲間に触るとその高温によりすぐに手を退けてしまう。状況が理解できず男は辺りを見渡すと、この土地を囲んでいる岩の一つの上に少年を見つけた。


 「お、お前!!何見てやがる!!まさか…お前がやったの…か…」


 盗賊の男は最後まで語ることなく他の者と同じように倒れた。日本で聞き慣れたチーンという機械音が鳴り、それを確認した少年───風人は安心してシエルとプラシアに近寄り拘束を解く。


 「ミカゲ様。助けに来てくれたのですか?」

 「…すみません。俺のせいで、怖い思いさせちゃって」


 風人が俯いたのをプラシアは不思議に思い、


 「何故謝るのですか?助けてくださったのに」

 「何故って…俺が村に来たせいで盗賊に目を付けられて」

 「最初から私達の村に来るつもりだったようですよ。私を拐いに」

 「でもっ!!」

 「良いのです。こうして救ってくださっただけで」


 プラシアが風人の頬を柔らかな指使いで触れて目を合わせる。風人は鼓動が早くなり、目を反らす。


 「…ところで、特に物音もせず盗賊の皆さんが倒れているのですが…どうやったのですか?」


 死屍累々となっている辺りを見てプラシアは言った。シエルは盗賊の一人をちょいちょいと手でつついていた。風人は「どこから説明して良いやら…」としばらく戸惑ってから、


 「まず、俺の元いた世界に電子レンジという物がありまして…」


 ───数分後、


 「…で物を丁度良く温めるという魔法が出来て」

 「それを人に使ったら倒せた、と」


 プラシアは釈然としない顔をしているので風人は「分かりずらくてすみません」と謝るがプラシアは他のことを考えていた。


 「人間に焼き加減とかあるのでしょうか?」

 「そこ!?そこなんですか!?」

 「…死ねば良いって思っていたから殺すのに丁度良い温度で加熱された…とかですかね?」


 しばらく考え込み、一つのとんでもない仮説を挙げるプラシアに風人は呆れる。しかし、盗賊達は死んでおらず気絶しているだけだった。どこまで覚悟しても人を殺せなかった風人としては、充分に肩を撫で下ろせた。が、その安否確認はプラシアが手際よく行っていたことにまた驚いた。


 「じょ、状況把握が速いんですね」

 「そうでしょうか?私としては普通ですけど」


 プラシアは小首を傾げる。


 (大人っぽいなって思ってたけど小動物っぽいあどけなさもあるんだな)


 そう考えて風人の猫好きが反応していると風人はあることを思い出し顔を険しくする。


 「そうだ、まだやらなきゃいけないことがあったんだ。俺のせいで失われた物を取り戻さないと」


 盗賊達が起きる前にロープで縛り(プラシアの知識によって効率よくできた)村へと戻った。

シ「シリアス展開を魔法でぶち壊すなんて流石ご主人様ですー」

プ「流石、ミカゲ様ですよね」

シ「んーいつから様付けー?」

プ「寝てたかもしれませんが前回には婚約しましたよ」

シ「どうせ、ご主人様のことだから鈍感かたまたまでしょー?」

次回 覚悟とゆるゆる村生活

プ「そ、そんなことありません!!」

シ「…本当はー?」

プ「…常識知らずと…シエルさんの自業自得です」

シ「!?」

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