鈍感な猫好き
ある初夏の日、進ヶ丘高等学校の2年B組の教室にて、御影風人は1人、スマホ片手に昼食の弁当を黙々と食べていた。友達がいない訳ではないがその友達にも他に友達がいて今はそっちの付き合いでいない。友達の友達が友達とは限らないので混ざることもなく、1人で食べている。
そのうちチャイムが鳴り午後の授業が始まりそのうち勝手に終わる。風人の中ではその程度の認識でしかなかった。
そして、誰かと一緒に帰るという訳でもなくさっさと下校する。 正確に言うとする筈だった。予想だにしないイベントが発生するまで。そのイベントはと言うと、
「風人くーん。一緒に帰ろうよ」
他人───風人の幼馴染みの日向紀代───が話しかけて来ることだった。因みに、紀代は八方美人の優等生タイプで風人とは家が近所で昔からの知り合いである。
紀代に呼ばれて風人は面倒そうに振り返る。
「紀代か。何の用だ?」
「何よ、冷たいじゃない。ただ幼馴染みと帰りたいっていうのは理由にならないの?」
紀代は風人の態度に少し怒りを見せる。学校でもしっかりと物事を言うタイプなのでそれなりに人気があったり、陰口があったりする。
「急にどうしたんだよ。いつもはとっかえひっかえ男と一緒に帰ってる癖に」
「人をビッチみたいに言わないでよ。あの人達が勝手に言い寄って来るだけだから!!」
風人の素っ気ない態度にむすっとする紀代だったがある事に気が付いて顔を赤く染める。
「…私の事、見ててくれてたんだ…」
紀代は恥ずかしくて今にも消えそうな声で言ったが風人の耳にはしっかり聞こえていた。
「何となく目にリア充の姿が入って来たから死ねっ!!って思ったらお前だったってだけだ」
「あはは、風人君は典型的な非リアだよね」
紀代が呆れてそう言うと、今度は風人がむすっとする。
「俺はリア充だぞ?」
「え?」
風人があたかも当然の事のように言った言葉に紀代は間の抜けた返事をしてしまう。
「またまたご冗談を…そ、そんな…あのボッチな風人君に!?か、彼女!?」
「そこまで驚くのは酷くね。まあ、良いけど」
酷く慌てる紀代に風人は苦笑いを返す。
「あ、相手は誰!?同じ学校!?私の知ってる人!?」
「シエルですけど何か?」
とても真面目な顔で答えたので紀代は思わず口をぽかんと開けてしまう。
「え?…なんだ猫かぁ…良かったぁ…」
シエルとは御影家で飼われている黒猫である。紀代は一瞬外国の人かと思ったが良く考えるとそんな訳ないし風人が猫好きなのを思い出し安堵した。
「彼女が猫で悪かったな。後、後半何て言った?」
「え、あ、いやなんでもないよ。独り言だから」
紀代は慌てて誤魔化し風人の少し先を歩く。その行動を風人が不思議に思っているとすぐに風人の家の前に着き紀代と別れた。
ご閲覧ありがとうございました。これからものんびり投稿して行こうと思いますのでよろしくお願いします。