表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/9

02

 会議まであと一週間に迫った。そして栄子が出張で不在という日のこと。

「新庄くん」

トモエのデスクに部長がやって来た。どこまで真面目なのか分かりかねる口調だった。

「出先からだけど、山下くんから電話が入っている、来週の研修だが、会議に参加するから日帰りでこちらに戻る、とさ」

 自分が関わるプロジェクトの重要な会議がありますから、と、栄子が言い張り、急きょ研修を半分で切り上げ、日帰りで帰ってくることに決めたらしい。

部長にうながされて「お電話替わりました、山下さん、お疲れさまです」

 トモエが受話器を取ってそう言うと

「何か私に用事があるんですか」

 冷たい声で、そう問われてしまった。

 はあ? と突っ込みたいところをぐっと我慢して

「来週の会議に参加していただけるとお聞きしたんですが」

 何とか冷静に切り返すと、相手は「はい」それだけ言って、あとは沈黙が続く。

 何を言ってほしいのか……トモエの頭にふと固まったカップめんのイメージが浮かぶ。

 自然と次のことばが口をついた。

「山下さんが出てくださると本当に心強いです。せっかくの研修ですのに途中でお帰りいただくなんて本当に申し訳ありません」

「もちろん、司会進行はトモエさんにお任せします」

 ひやりとした言い方だった。だが、何らかのことばは引き出せた。

「そのような設定にしたのはトモエさん達ですからね。私は知りません。私は特に期待されていませんから。期待されているのはトモエさんでしょうし」

 知りません、と言いながらも会議には参加する、と言う。その事実だけでトモエの胃はきりきりと痛んだ。


 部長もすでに、さじを投げているようだった。電話を切ってから、こちらを横目で見ていた彼に、ぶちょうわたしをみすてるんですね、とうらみがましい目を向けると

「新庄くん、君ならできる、だいじょうぶ」

 妙に明るくそう言い切った部長は、

「そうだ」

 思い出したようにトモエにモロゾフの小さな包みをぽん、と手渡し、「甘いぞー」と言いながらいそいそとどこかに消えて行った。


 甘いのは、アンタの考えだよ。トモエはその後ろ姿に向かって小声で毒づいた。


   


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ