02
会議まであと一週間に迫った。そして栄子が出張で不在という日のこと。
「新庄くん」
トモエのデスクに部長がやって来た。どこまで真面目なのか分かりかねる口調だった。
「出先からだけど、山下くんから電話が入っている、来週の研修だが、会議に参加するから日帰りでこちらに戻る、とさ」
自分が関わるプロジェクトの重要な会議がありますから、と、栄子が言い張り、急きょ研修を半分で切り上げ、日帰りで帰ってくることに決めたらしい。
部長にうながされて「お電話替わりました、山下さん、お疲れさまです」
トモエが受話器を取ってそう言うと
「何か私に用事があるんですか」
冷たい声で、そう問われてしまった。
はあ? と突っ込みたいところをぐっと我慢して
「来週の会議に参加していただけるとお聞きしたんですが」
何とか冷静に切り返すと、相手は「はい」それだけ言って、あとは沈黙が続く。
何を言ってほしいのか……トモエの頭にふと固まったカップめんのイメージが浮かぶ。
自然と次のことばが口をついた。
「山下さんが出てくださると本当に心強いです。せっかくの研修ですのに途中でお帰りいただくなんて本当に申し訳ありません」
「もちろん、司会進行はトモエさんにお任せします」
ひやりとした言い方だった。だが、何らかのことばは引き出せた。
「そのような設定にしたのはトモエさん達ですからね。私は知りません。私は特に期待されていませんから。期待されているのはトモエさんでしょうし」
知りません、と言いながらも会議には参加する、と言う。その事実だけでトモエの胃はきりきりと痛んだ。
部長もすでに、さじを投げているようだった。電話を切ってから、こちらを横目で見ていた彼に、ぶちょうわたしをみすてるんですね、とうらみがましい目を向けると
「新庄くん、君ならできる、だいじょうぶ」
妙に明るくそう言い切った部長は、
「そうだ」
思い出したようにトモエにモロゾフの小さな包みをぽん、と手渡し、「甘いぞー」と言いながらいそいそとどこかに消えて行った。
甘いのは、アンタの考えだよ。トモエはその後ろ姿に向かって小声で毒づいた。