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01

あらためて、冒頭より。もちろんすでに『即興』ではないのですがこれだけは完結させないと、何となくすっきりしなかったので。


細かいことですが、出てくる二人の女性、名前を入れ替えました。こちらの方がなぜかしっくりと収まったので。すみません。

「いったい何なの……この女性(ひと)

 電話が鳴る。画面に表示された名前に思わずちっ、と舌うちをする。しかし出ないわけにはいかない。

その晩もまた、新庄トモエは山下栄子のやること成すことに振り回されていた。


 電話がかかってきたのは、またしてもちょうど夕飯時、カップめんに湯を注いだちょうどそのタイミングだった。

「トモちゃん、明後日の会議はよろしくね」

 何度そう言われただろう。カイギハヨロシクネ。その前の日付が「次回の」から「来週の」に変わり、刻々と日が縮まっているだけだ。

トモエは横目で、キッチンテーブルの上にあるカップめんをにらんだ。

まただ。また、このタイミングに電話がかかってきた。

 山下さん、私がカップめんを食べようとしているのをいつも、覗いているんだろうか?

「まあ、トモちゃんのことだから私より上手くできると思うけど」

 そんなことないですよ、とすでに棒読みでトモエは電話に向かって応える。

 ようやく長すぎる電話が済んだ時、三分で食べられるはずのめんはすでにショーケースによくある食品サンプル以上に冷え切っていた。

 これで、四個目の犠牲者、いや、犠牲麺だわ。トモエは駄目になっためんをそのままシンクの三角コーナーに廃棄した。


 栄子とトモエは今回、とあるプロジェクトチームに共に配属された。しかも、栄子がリーダーに、そしてトモエがサブ・リーダーという任命だった。

 自社開発予定の最新POSシステムでの顧客データ管理と分析、活用方法について一連の企画を提案する、というのがおおまかな業務だった。

 一言でデータ管理といっても、POSにどんなインプット機能を装備するのか、そこに始まりBIOSからOS、アプリに至るまで全社すべての部署や関連企業にかかわる一大事業になる。

 ただ、企画が出来あがり、最終的な会議で全部署の承認が受けられればそれで任務は終了となる。

 トップ決めについてはひとえに部長の采配ではあったが、リーダーを栄子に、と聞いたとたん、トモエはじめ、まわりの連中も眉をひそめた。

 最近他事業所から移動してきたばかりの部長はただ単純に

「勤務年数の順に、一度はリーダーを体験してもらうだけだから」

 と、涼しい顔をしていた。

 いつまでそんな呑気な顔をしていられるのだろう、とその時トモエは彼の顔を横目で見ては、心の中で吐息をついたのだった。

 

 プロジェクトの進捗状況と今後の具体的方針を決定する会議が行われることになった。

 栄子はその前日と当日の二日間、たまたま東京本社での研修が入っていた。しかし、外部協力者や他参加者の日程調整がうまくつかず、どうしても栄子が出られない日に開催する運びとなってしまったのだ。

 リーダー不在のまま、しかも、栄子という『難しい』切り札を欠いたまま、会議が成功するのかトモエには疑問だったが

「だいじょうぶ、新庄くんが進行役を務めてくれれば」

 これも、部長の一言であっさり決められてしまった。

 呑気な表情の部長をまた横目でみながら、栄子を会議から外したのは、実は部長の企てなのではないか、という思いがちらりとトモエの胸をよぎる。


 もちろん、栄子が怒りくるったのは言うまでもない。

 しかも、

「トモエさん、日程調整が上手くいかなかったのは何故なんですか? その日に必ず私が出られない、と分かってたんですよね?」

 栄子の怒りの矛先は、直近の『部下』であるトモエに鋭く向けられた。

 日々、ねちねちとオフィスで繰り返される叱責に業を煮やし、ついには部長と、所長までが栄子を呼び付け、何ごとか神妙な顔で頭を寄せて話しあっていた。

 説教なのか説得なのか、ごきげんとりだったのか、何にせよ話し合いが功を奏したのか、その後、トモエへの『会議日設定』についての文句はぴたりと止まった。

 だが、その代わりに

「私の出すたたき台をちゃんとした資料に作り直してくださいね」

「当日のスケジュールを分単位で立てて、教えてください」

「誰がどこに座るのか、座席表を添付して」

「総務から借りる用品の一覧を」

 そんな事まで把握したいのか、という要請の攻撃が、栄子から次々と繰り出されるようになった。


 時には帰宅後の自宅にまで、電話が追いかけてくる。

 それも、帰宅時間の関係なのか、たいがいいつもトモエが家に着いて、ほっと一息ついてから手を洗ってうがいをして、さて何か食べようか、というタイミングに栄子から電話がくる、ということが多かった。

 電話は栄子のご機嫌によって、内容もさまざまだった。ごく個人的で他愛ない話から業務上のクレームから……そして、どちらにせよ栄子はなかなか電話を切ろうとしなかった。

 機嫌のよい時には、ため口でいつまでも自身の出自や学歴職歴に関する自慢話が止め度もなく続き、たまにトモエの身の上についても聞きたがることがある。

 機嫌の悪い時にはもちろん、会社でのトモエや周囲の言動についていちいちあげつらってはダメ出しをしてくる、もちろん敬語で。

 どちらの話題にせよ、トモエにとっては単に「カップめんを伸ばす」ための時間に他ならなかった。

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