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くじ引き特賞:無双ハーレム権 作者:三木なずな

エレノア編

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 何もない空間。
 空も大地もない、光も音も何もかも。

 全てがなく、ただ「空間」がある。
 そんなところに、俺とひかりと、二人のエレノアが吸い込まれた。

「おとーさん……」

 ひかりがぎゅってしがみついてきた。この何もなく、上下左右の感覚さえもない空間がこわいんだろう。
 俺はひかりの頭を優しく撫でた。

「安心しろ、俺がついてる」
「――うん!」
「剣に戻るか? そっちの方が感覚的に楽かもしれないぞ」

 ひかりが怯えてるのは半分以上が感覚狂いだと思った。
 暑くもなく寒くもない、それどころか温度さえも。
 光がなく闇もなく、見えているのかも分からない。
 音もなく静寂もなく、耳が働いてるかも怪しい。

 そんな空間で、人間の姿でいるのはかなりのストレスのはず。

 だから聞いた。
 ひかりは俺を見あげた後、魔王……人間姿のエレノアをちらっと見た。

「もうちょっとがんばる……」
「そうか。ダメだったらすぐに魔剣に戻るんだぞ」
「うん」

 ひかりからすればエレノア、人間の姿のエレノアとふれあえる場所は限られている。
 今のところあのくじ引き所をのぞけば、この過去エレノアだけだ。
 もう少し一緒にいたい気持ちはわかる。

 そんなひかりの頭を優しくなで続けてやった。

「さて、ちょっと休むか」
「のんきなものだな。ここがどんな場所なのか分かっているのか?」
「知らん」
「だったら教えてやる、ここは――」
「どこだろうと問題ない」

 にやりと、口角を器用に片方持ち上げて語ろうとするエレノアを制した。
 得意げな表情になりかかったエレノアだが、眉間が一瞬で深いしわを作った。
 名刺程度なら挟めそうなしわだ。

「どうせ一度入ったら出られない空間とか、そういうもんなんだろ」
「さすがに察しがつくか」
「まあな、そういう空気だ」
「だったらもう少し慌てたらどうだ?」
「必要ない。どうせそのうちでる」
「何故そう言い切れる」
「理由はいくらでもあるんだが……」

 撫でている愛娘の体はまだ小さく震えていた。

「ひかりをずっとここにおいて置くわけにはいかない、とかかな」
「……ばかばかしい」

 エレノアは鼻で笑って、その場にどかっと座り込んだ。
 地面などないが、まるで地面にすわったようなポーズになる。

 そのポーズのまま、俺を見あげる。

「説明してもらおうか」
「うん?」
「その娘が我を母と呼ぶ理由を」
「そうだったな。まず……そうだな、俺たちは未来から来た」
「時空震か」
「オルティアも同じ事をいってたな。多分そうだ」

 似たようなので、次元震、もあるんじゃないかと思ってる。
 エレノアの記憶が今ひとつはっきりしないのは、過去は過去でもパラレルワールドの過去だからなのかもしれないという疑問が最近頭に浮かんでいるが、今は言わないことに下。

「で、こいつはエレノア」
(こいつ呼ばわりか)

 エレノアが軽く抗議してきた。

「本物のエレノアだ」
「ふっ……」

 エレノアは鼻で笑った。

「どうした」
「馬脚を現わしたな。我が人間に扱いきれる訳がない。そいつの魔剣としての力は認めるが、我であるはずがない」
「そういえばそんな設定もあったな」
(設定とか言うな!)

 またまた抗議してくるエレノア。

「俺だけ乗っ取りがきかないんだよ」
「そんな人間いやしない」
「どうすれば信じられる」
「……そうだな」

 エレノアは少し考えて、にやり、と口角をゆがめながら立ち上がる。
 そのままゆっくりと俺に近づいてきて、手を伸ばしてくる。

「なんだ?」
「我の手を取れ、我に乗っ取られなければ信じてやろう」
「その姿でも出来るのか」
「無論だ。言っておくぞ、この手を取ったら最後、本気の我は一瞬で手にした人間の人格を魂ごと消し去る――」

 俺はエレノアの手を取った。
 小さく、柔らかい手。
 体温が高いのか意外と熱い。

「なっ! 何故取る! 何故躊躇なく我の手を取れる」
「普段からやってることだしな」

 俺はエレノアの柄を握った。
 エレノアの手を握るのも、魔剣エレノアの柄を握るのも。
 俺からすれば同じ行為だ。

(よし、そのままそいつもぶん投げてやれ。全力だ)
「だからお前は茶々いれるなって」

 エレノアの刀身にテコピンをした。
 そのままエレノアの手を握り続ける。
 彼女が段々困惑しているのが手に取るように分かる。

「なぜだ……なぜ乗っ取れない。我は本気で……」
「そろそろ信じるられるようになったか? こいつもエレノア、未来から来たお前だって」
「……信じざるを得んな」

 エレノアは手を離した。
 自嘲気味の笑みを顔に張り付かせて、一歩下がって肩をすくめた。

「我の支配に抵抗する、いや抵抗だけじゃなくそれを確信する人間。そのような人間がこの先生まれるというのか」

 厳密には生まれたんじゃなくて、現実世界から転移してきたんだが……それを言うと話がややっこしくなるから今はやめとこ。

「で、この娘が我の娘。貴様と我の娘ということだな?」
「うん! ひかりはおとーさんとおかーさんの娘だよ」
「こっちにも証拠は必要か?」
「いいや」

 エレノアは首を振った。
 口角に微かな笑み、今までとは違う笑みが浮かんでいた。

「貴様のかはともかく、我の娘であるのは間違いない。だれが見てもな」
「おかーさん!」

 離れて微笑むだけのエレノアに、ひかりはタックル気味で抱きついた。
 困惑がエレノアから伝わってきた。

 ひかりの行動はあのくじ引き所にいる時とまったく一緒だ。
 大好きなおかーさんに抱きつく、幼い子供にとって最大級の親愛表現だ。

 元のエレノアならそれを受け入れてた。受け入れて、抱きしめかえすか撫でるかしてた。
 だがこのエレノアは違う、母親の自覚がないエレノアはただただ困惑して、固まっていた。

「未来の我は……人並みの幸せを手に入れたのだな」

 エレノアのつぶやきには情感が籠もっていた。
 何か、つもりにつもった物を感じさせた。

「エレ――」
(しばらくそっとしてやれ)

 一言書けようとした俺を、剣のエレノアが止めてきた。

(我の事は我が一番よく知っている。この時代の我に『人並みの幸せ』はショックが大きすぎる)

 ……そうか。

「ひかり、ちょっとあっちに行こうか」
「……うん」

 ひかりも何かを察したのか、何もいわず俺についてきた。
 エレノアから少し距離を取って、すわって見守った。

「ショックなのか?」
(いつまでだったか忘れたが、我は人としての肉体を欲した時期がある)
「人並みの幸せがほしいからか?」

 エレノアの言葉をそのまま聞いてみた。

(そんなに単純なものではない)
「あながち間違いでもない、と」

 エレノアの口調からそう感じた。更に沈黙したエレノアで、それがあたりだと感じた。
 そのまましばらく待っていると、エレノアが顔をあげて、こっちに来た。

「待たせたな」
「もう大丈夫なのか?」
「それよりもここからでる方法を考えよう」
「前向きだな、さっきとはエライ違うぞ」

 エレノアはひかりを見た、手を伸ばして娘の頭を撫でた。

「ひかりをこんなところにずっと置いておくわけにはいかないのでな」
「そりゃそうだ」
「問題はどうするかだが……」

 考えるエレノア、眉間のしわが事態の難しさを物語っている。

(それなら問題ない)
「なにか方法があるのか?」
(うむ、出てこい小娘)

 エレノアはそういって、タニアを召喚した。
 エレノアの中にいるメイド幽霊だ。

『わ、わたしですか?』
(うむ、貴様がキーになる。今から我が言ったことをやってみろ)
『はい』

「何をしようとしてる」

 エレノアが訝しんで聞いてきた。

「俺にも分からん。こっちのお前が何か企んでるみたいだ」
「ふむ……」

『わかりました、やってみます』

 しばらくして、説明が終わったタニアは一歩前に進みでて、修道女のように手を合わせて祈るポーズをした。
 タニアの体が淡く光り始めた――かと思いきやその前の空間に何かができた。

 何か。
 何かが分からない、ただの「なにか」。
 それでも、何もなかったこの空間に初めて現われたなにかだ。

「どういう事だ?」
(向こうにいるもう一人の小娘の力を借りた。二人はどうやら繋がっているようなのでな)
「タニアか……なるほど」

 タニアと幽霊タニア、まったく同じ魂を持つその特異性を利用した訳か。

「だがこれだけじゃどうしようもないぞ」
(ここからが貴様の出番だ。ひかり、魔剣に戻れ)
「うん!」

 母に言われて、ひかりも魔剣に戻った。

(我らを使って空間をぶち抜け、亀裂が入ったのだ、貴様なら出来る)
(ひかりがんばる)
「わかった」

 まずは、エレノア。
 彼女を持ち上げて、全力で投げた。
 城や砦をぶち破る時のように、全力で空間の亀裂に向かってなげつけた。

 激震が走る、空間全体が揺れた。
 エレノアはヒビを貫いて向こうにでた。ヒビは腕一本通れるくらいの穴に広まった。

(おとーさん、手加減しないでね)
「ひかりはいい子だな」
(えへへ)

 今度はひかり、初めての事。
 エレノアにするのと同じ事を、初めてひかりにもした。

 柄を握って、全力で投げつける。
 一度割った空間は更にぽっかりと穴が開いた、人間がぎりぎり通れてくらいの大きさになった。

『す、すごい……本当に空間をやぶちゃった』
「感心してる場合か、先にいけタニア」
『はい!』

 タニアが出て行った後、俺も向こうに出て、振り向く。

「行くぞエレノア」
「……」
「エレノア?」

 手を次元の亀裂の向こうに伸ばしたが、エレノアは動かなかった、それどころか一歩後ずさった。

「どうしたエレノア、ここから出るぞ」
「我はいい」
「何をいってる、お前から出るって言ってきたんだろうが」
「我は自分がでるとは一言も言っていないぞ」
「なに……あっ」

 思い出す、エレノアが言ってきた言葉を。

 ――ひかりをこんなところにずっと置いておくわけにはいかないのでな。

「お前! 最初からこうするつもりか」
「そうだ。我はここに残る。われの様なものは向こうにいてはいけない」
「何をいってる」
「いや違うな、つかれたのだ。のぞみに向かって肉体を手に入れたが、肉体などなくともそれがかなうようなのだからな。我のやってきた事はすべてむだ――」
「お前がいなかったらひかりはどうなる、過去のお前が消えればひかりだって!」
「我は……繋がっていないのではないか?」
「――っ!」
「図星か」

 笑うエレノア、始めてみる類の笑みだ。
 厳密には違う、エレノアは「繋がっているかどうか分からない」だ。

 エレノアは動かない、穴が徐々に小さくなっていく。

「さあいけ、ひかりを……あの娘をしあわせに――」

 穴が完全にとじる、エレノアは最後の言葉を俺に向けてくる。
 おれは、穴の中に戻った。
 穴をくぐって、元の世界から再び異次元に戻ってきた。
 そして、穴は完全に閉じられる。

「なっ――」

 エレノアは、信じられないって顔をした。
■ドラマCD試聴サンプル公開
活動報告、もしくはyoutubeに「くじ引き特賞」で検索してみてください。

【タイトル】くじ引き特賞:温泉ハーレム権
【キャスト】
カケル :石川界人さん
ひかり :山下七海さん
ヘレネー:佳村はるかさん
ナナ  :諏訪彩花さん
イオ  :三森すずこさん
+注意+
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