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くじ引き特賞:無双ハーレム権 作者:三木なずな

アイギナ王国編

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175.意地っ張りな女の子(セレーネside)

 マロネイ、デルフィナ商会。
 その中庭でセレーネが剣を振っていた。

 ナナに教わった、対人戦闘向きの型だ。
 斬り、突き、払い。
 基本中の基本だが、ナナが考案したもので、無駄が一切ないものでもある。

 セレーネは一心不乱に繰り返していた。

 それを少し離れたところで、デルフィナとイリスが見ていた。
 並び立つ二人は物理的なものもさることながら、心の距離も前に比べて縮まっているように見える。

 カケルと出会う前の、ただの商人と王女、その時に比べてかなり縮まっている。
 親友、とまでは行かないが、戦友、に近いものがある。

 そんな二人がセレーネを見守っていて、デルフィナが微かに目を細めた。

「わたくしの目が正しければ」
「うん?」
「セレーネ殿下の動きは、さっきから恐ろしいくらい同じですわ」

「合っている。きわめてシンプルな三つの型を、さっきから寸分の狂いなく繰り返している」
「それは簡単にできるものですの?」
「まさか」

 イリスは肩をすくめて、笑った。

「理想だが、やれと言われて出来るものじゃない。文字の書き取りで全部同じように書くのと同じ事だ」
「やはりそうですわよね」
「型の数を絞ったのもこうを奏したのだろうけど、それ以上に……才能があるのだな」

 イリスは感心した、セレーネを見つめる目が熱くなった。
 彼女は自分では気づいていないが、剣にかかっている自分の手に力が込められていることに。

 それを見たデルフィナが傍観者、年長者の余裕から微かに微笑んだ。

「そちらの才能がおありだった、ということですわね。わたくしやオルティア様などは頭を抱えているというのに」
「あなたは金勘定、大賢者様は知識を、だったか」
「そうですわ。そちらはまるでだめ、一つ教えれば前の物が押し出されるように忘れてしまうような頭ですわ。正直金をもらってても付き合いたくない相手」
「剣とはまるで逆だな」
「こっちには才能はない、ということですわね」

 デルフィナがいい、イリスが静かにうなずいた。

 カケルのハーレムにいる女達は仲が良い。
 皆がそれぞれ得意な事をセレーネに教えつつ、情報交換をしていた。
 そうして共通の認識を得ていた。

 セレーネは剣に、それも一剣士としての才能はあるが、それ以外はまるでダメだということを。

 知識を詰め込めば欠落するし、数字勘定をさせれば全てが合わない。
 剣の延長線上で戦術・戦略を教えようとしても、それをまったく理解できない。

 剣士としての才能はあるがそれ以外はまるでポンコツ、というのが、カケルの女達に出来つつある認識だった。

 それは、本人も理解しつつあった。

     ☆

 マロネイ近郊、エクスタスの森。
 魔物が生息するこの森に、セレーネとイリスが二人でやってきた。

 実戦の稽古も必要だと、イリスがセレーネにつきそってここまで来た。

「はあああ!」

 獅子の様な魔物の巨躯を、セレーネは長剣で一刀両断する。
 鮮血をまき散らし、ズシンと大地に倒れていく魔物をみて、誰よりもやったセレーネが驚いていた。

「これを……あたしが?」
「やれるじゃないか」
「イリス……とと、じゃなくて。イリス様」
「イリスでいい。そんなにかしこまられても困る」
「え、でもその、ガイコウレイギっていわれて」
「二人っきりの時くらいは構わない。その方がわたしも話しやすい」

 イリスが微笑みながらそう言って、セレーネもはにかんで頷いた。

「びっくりした。本当にこれ、あたしが?」
「他に誰がいる」
「そっか……あたしか……」
「このまま鍛錬を続ければ一流の剣士になれる。わたしが保証する」
「うん……」
「どうした、嬉しくないのか?」
「ううん、そんな事ない、けど」

 セレーネは切なげに微笑んだ。

「あたし、まだまだだなって。今も全然だけど、前のあたしはもっと全然だめだったんだっておもって」
「……」
「なのに、あんなに全然ダメダメなのに、王女ってだけで威張り散らして……それがちょっとね……」

 そう言いながら更に寂しげに笑うセレーネ。
 言葉はぐちゃぐちゃだが、イリスには伝わった。

「こんなんじゃいつかショウに見捨てられちゃう」
「ショウ……カケルのことか」

 セレーネは頷いた。

「それなら大丈夫だ。カケルはそんなに小さい男ではない」
「小さい男じゃ、ない?」
「そうだ。わたしが保証する」
「そう、かな……」

 セレーネは小さくなって、消え入りそうな声でつぶやいた。
 今までの彼女を知ってる人間が見れば驚愕するくらい、今のセレーネはまるで別人だった。

 ショックを受けて、うちひしがれて、すっかり自信喪失した女の子。
 それが今のセレーネだ。

 最初の頃、いやそれ以前のセレーネ姫をしっているイリスからすれば「変われば変わるもんだ」というのが正直な感想である。

「大丈夫だ、わたしが保証するし、なんだったらカケルにも直接聞くといい。セレーネはかなり成長した。剣の腕ならもう相当なものだ」
「そっか……お父様に見せたかったな、今のあたし」
「アイギナ王……もう長い間意識がないと聞くが」
「うん、お父様はきっと前のあたしに頭を抱えてたんだと思う。あたしが本当に成長したならその姿を見せたい」
「……そうだな」
「それとアブラアムにも謝らなきゃ。今はわかる、あの人はあたしがあんな風に足蹴にしていい人じゃないって。臣下だけどあたしなんかよりもずっとすごい人だった」
「そのうちそうすればいい。そうだ、それをカケルにいえばいい」
「ショウに?」
「うむ。それをカケルに話してみるといい、彼なら喜んで協力してくれるはずだ」
「……うん、話してみる」

 しおらしいセレーネをみて、イリスはますます「変わればかわるものだ」とおもった。
 同時に、カケルの器の大きさを再認識した。

 あのセレーネ姫だ。
 イリスだったら教育するための資源を投入せずに見捨てただろう。
 しかしカケルはそうしなかった。ハーレムの女を総動員して彼女を教育した。

 抱きたいだけ、ハーレムに入れたいだけではないのは確かだ。
 前のままでもセレーネは充分綺麗で可愛い(それだけだが)から、教育する必要なんてない。

 しかしカケルはそうした。
 その結果セレーネは生まれ変わりつつある、開花しつつある。

 イリスは、ますますカケルに心酔するのだった。

「むっ、あれは信号弾」

 イリスは眉をしかめた。
 マロネイの方角から信号弾が上がっていた。
 何かあったときに彼女を呼び出すための信号弾。

 そしてイリスを急いで呼ぶ用事といえば、本国メルクーリの内政に何かが起きた時だけ。
 彼女はより深く眉をしかめた。

 ちらっとセレーネをみた、目が合った。

「早く行って」
「え?」
「わかんないけど、イリスの顔が普通じゃない。すぐに行かなきゃだめなんでしょう」
「あ、ああ……。それはそうだ」
「だったら早くいって、あたしなら大丈夫」

 驚くイリス。
 だれだ? セレーネが剣の才能だけの女だといったのは。

 今の洞察力だけをとっても普通出来る事じゃない。
 イリスは、彼女に対する認識を改めなければならないと思った。

 そして、その言葉に甘えることにした。

「すまない、そうする」
「うん!」
「ここは危険だからすぐに戻るのだ、いいな」
「うん」


 イリスは地を蹴って駆け出した。
 セレーネはその場に残った。

 一人になったセレーネはまわりを見た。
 カケルに相談。
 イリスの提案は魅力的だった。

 カケル――ショウ。
 彼に相談すればきっと何とかしてくれる。

 今でも網膜に焼き付いてるショウの剣の舞、そして各国の女王、王女、経済を牛耳る大商人、果ては伝説の大賢者。
 それらを動かすカケルが相談に乗ってくれるのならきっと何でもかなう。

 かなう、が。
 セレーネは彼に話すことにためらいを感じた。

 反動。

 ワガママだったころの反動で、彼女は必要以上に臆病になっていた。
 アドバイスされても、カケルに相談することをためらってしまう程臆病に。

 セレーネは悩んだ、するべきか、しないべきか。
 散々なやんだあと、彼女は答えをだした。

「もう一回モンスターをたおそう。もう一回倒せたら。自分だけで倒せたら相談しよう」

 何かが出来たら何かをする、というのは珍しい思考ではない、彼女はそこにたどりついたに過ぎない。
 問題は、ここがイリスをして「危険」だといった場所だ。

 セレーネはその「危険」な森の中を探して回った。

「魔物をもう一回たおして、ショウに相談するんだ」

 歩きながら、更に決意を固めて、森の中を歩いて回る。

 やがて、さっきと同じ巨躯の獅子と遭遇した。
 見た目はほとんど同じ魔物、それがセレーネに立ち向かう決意をさせた。

「落ち着け、落ち着けあたし。さっきできたんだから、きっと今回も出来る」

 そう思って、セレーネは先手を取って剣を振り下ろした。
 彼女の判断は間違っていない、一度倒せたモンスターだ、落ち着いて対処すれば倒せる。

 油断はない、増長もない。
 ただ、出来る事をやろうとする。

 そういう意味ではセレーネは間違いなく成長していた。

 問題があるとすれば、彼女は剣の才能があるだけ。
 同じ種族のモンスターにも個体差があることを教わったが覚えていなくて、その個体差を察知するほどの経験がないこと。
 そして……今遭遇したのは同じ種族の中でも最強に近い強さを持っていること。

「きゃあああ!」

 修練によって完璧に身についた斬りは獅子の巨躯に通用しなかった。
 鋼よりも固い体毛に阻まれ、前足で吹っ飛ばされる。

 吹っ飛ばされて、体が地面にたたきつけられ、何度もバウンドする。
 口の中に土がはいって、にじみでる血と混ざってなんとも言えない味がした。

 セレーネはふらふらと立ち上がる。
 頭の中が真っ白になった。

 どうして? そしてどうしよう?

 セレーネはパニクった。
 予想外の出来事に頭がついていかなかった。

 獅子の魔物が更に襲ってきた。
 前足を振り下ろし、丸呑み出来る程の大きな口でかみ砕こうとする。

 とっさに剣でガードするが、その剣はかみ砕かれて、か細いからだがまた吹っ飛ばされる。

 混乱の極みに達した。
 どうして? が完全にきえて。どうしよう? だけが残った。

 どうしよう、どうしよう、どうしよう。

 ここで彼女の生まれ持った性質が表に出た。
 基本、セレーネは負けず嫌いで、気が強い女だ。

 それが当初のワガママに繋がり、今の修練の成果に繋がった。
 そして、不利な状況にも果敢と立ち向かう――という最悪な選択肢に繋がった。

 セレーネは立ち上がり、砕かれてほとんど残っていない剣を構えた。

 魔物が襲ってくる、それを見極めて、かわして突きをはなった。

 完璧に近い一撃だ。獅子の巨躯をかわし、胴体をえぐるような鋭い突き。

 ……惜しむらくは剣が折れていた。
 魔物はほとんどダメージを受けずに、前足を横に払った。

 セレーネは吹っ飛ばされた。
 地面にバウンドする様にすっ飛んでいき――今度は立ち上がれなかった。

 もがいて、地面に手と肘をつけて、立ち上がろうとする。

「がはっ!」

 血を吐いた、手が滑って顔から地面に突っ込む。
 それでも彼女は諦めなかった。

「たおして、ショウに……相談する資格を……」

 そう思って、必死に立ち上がろうとした。

 不運が重なった。
 イリスの突然の離脱、同種のモンスターの最強個体、そして袋小路に入った自分の意地っ張り。
 それらの不運が重なって、彼女を最悪のピンチに陥れた。

 魔物が飛びかかってきた。
 世界がスローモーションに変わった。

 父親の事、兄の事、自分の事。
 生まれてきてから全てのことが脳裏を駆け巡る。

 走馬燈。
 彼女はそれを理解できなかった、ただ生涯が目の前に駆け巡るのをぼうっと見ていた。

(ショウ……あたしは! ショウにふさわしい女にッ)

 最期になっても、彼女は考えを改めなかった。
 もっと頑張る、ショウにふさわしい女になる。
 目の前の魔物をたおして、相談する資格を手に入れる。

 負けず嫌いのいじっぱりが、最期までそのままだった。

 彼女は運が悪かった、アンラッキーがいくつも重なって、現状を作り出した。
 魔物の口が目の前にせまった、時間が動き出した。

「ショウ!」

 叫んだ、目を閉じて叫んだ。

 死を悟った瞬間、彼女はカケルの名前を呼んだ。

 重なった不運を、全て吹き飛ばすほど豪運を、彼女は既に手に入れていた。

 死は訪れなかった、いつまで経っても何も起こらなかった。

 セレーネはおそるおそる目を開けた。
 目の前に魔物があった。
 口を開けた魔物は動かなくなっていた。

 脳天を黒い魔剣に貫かれ、地面に杭で打ち込まれたような形になった。

 そして、魔剣に少し遅れるようにして。

「……ショウ?」

 魔剣を投げつけたカケルが、彼女の前におりたった。
■ドラマCD試聴サンプル公開
活動報告、もしくはyoutubeに「くじ引き特賞」で検索してみてください。

【タイトル】くじ引き特賞:温泉ハーレム権
【キャスト】
カケル :石川界人さん
ひかり :山下七海さん
ヘレネー:佳村はるかさん
ナナ  :諏訪彩花さん
イオ  :三森すずこさん
+注意+
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