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くじ引き特賞:無双ハーレム権 作者:三木なずな

アイギナ王国編

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165.望外の喜び

 深夜、『赤いクチバシ団』が占拠している砦から少し離れたところ。
 おれはヘレネーとナナとの二人でその砦を眺めていた。

「あそこを落とせばいいのか? ヘレネー」
「はい。可能であれば今夜中に。明日の朝には何事もなかったかのように中身がそっくり入れ替わっているのがベストです」
「ということらしいが。ナナ?」
「お任せを。占拠した後は如何すれば」

 相変わらずの武人口調で、ナナはおれを見つめて聞いてきた。
 落とすのはたやすいがその先は? って意味だ。

「そのまましばらく立てこもって、盗賊団として振る舞っていてください。数日のうちにアイギナ軍が討伐に来るはずですので。その時にまだ指示しますが、戦うと思っていてください」
「承知した」

 ナナは頷き、ちょっと離れたところに待たせてる奴隷兵を率いて出発した。
 おれとヘレネーはそれを見送った。
 一糸乱れる隊列で夜の闇に消えていくナナと奴隷部隊。
 しばらくして、ヘレネーが感嘆した。

「すごいですわ……ほとんど足音が聞こえない。発ったところを見ていなければそこにいるのも分からなかったですわ」
「そういう訓練もしたらしい」

 前にナナからちらっと報告を受けた事がある。
 可能な限り物音を立てない進軍。それを彼女は奴隷兵に叩き込んだ。
 本気でそれをやった場合、おれでさえよほど集中して耳を澄まさなきゃ察知できないくらい静かになる。
 おれとヘレネーはその場に残ってしばらく見守った。
 まるで忍者のような奴隷部隊は、1時間も経たない内に盗賊団100人を殲滅して、砦を占拠した。

     ☆

 アイギナ軍が砦を攻めるのを、おれとヘレネーは、奴隷部隊が攻め込んだ時と同じ場所で見ていた。
 あの時とは違って、奇襲の夜襲じゃなくて、真っ昼間からの力押しでの攻撃だ。

「誤算です……」

 つぶやくヘレネー。上品な美貌が珍しくゆがんでいて、下唇を噛んでいる。

「なにがだ?」
「まさかあそこまでの大軍を持ってくるなどとは……せいぜい1000人だと予想していましたので」
「気にするな、その予想は妥当だ。あれは……ざっと数えて5000はいるな。100人程度の盗賊団にそこまでの兵力を動かしてくるなんてだれにも予想はできん」
「はい……」

 おれの慰めはたいしてヘレネーに届いてない。
 とはいっても、それは本当の事だ。
 彼女を慰めるのに使った言葉通り。100人の盗賊団討伐に5000人を動かしてくるなんて誰が予想出来るか。
 最初の1000人でもかなり多めに見積もったレベル。盗賊団100に正規軍1000、オーバーキルもいいところの数字だ。
 それでもヘレネーは落ち込んでる。
 いつまでも落ち込まれても……そう思って、話を強引に進めた。

「それより次はどうする」
「……もともと、ナナさん達に抵抗してもらい、そのうちにカケル様がアイギナ軍に潜入。攻めあぐねているところにカケル様が名乗り出て、代わりに盗賊団を討伐して、それをもって取り入る、という計画でしたわ」
「マッチポンプ、いや微妙に違うのか」

 ヘレネーが頷く。

「本質では同じです。しかし相手が5000もいては……1000ならナナさんたち200人でほどよく困らせることが出来たのですが」
「本質といったか、ならその本質をとことんやってもらうか」
「え?」
「タニア」

 エレノアに触って、彼女に憑いてる(、、、、)メイド幽霊を呼び出した。
 魔剣から飛び出す半透明の幽霊、タニア・チチアキス。
 呼び出された彼女は愛嬌のある表情でおれを見た。

「ナナのところに伝令だ。おれが行くまで持たせろ」
『うん、いってきます』
 そういって、砦に向かって飛んで行った。

「カケル様?」
「少数でアイギナ軍を困らせる相手を正体隠したおれが黙らせる、ってのがキモなんだろ?」
「はい」
「だったら相手の数が多いほどそれが有効ってことになる」
「それはそうですけど……」
「ナナならやってくれる」
「やれるでしょうか」
「殲滅まではキツいだろうが、アイギナも全滅から遥か手前で手を打とうとするだろ?」
「それはそうですわ」
「だったらそろそろ潜入するか」
「はい、行ってらっしゃいませ」

 そういって、手を揃えてしずしずと一礼した。
 まるで貞淑な妻が主人を、あるいはメイドが主を送り出すかのような振る舞い。
 そんな振る舞いだが、彼女がすると他にはない気品がある。
 おれの女の中でも、ヘレネーは一番気品があって、こういう振る舞いでもとてつもなく絵になる。
 戦場のそばだってのについ見とれそうなくらいだ。
 いやそれよりも。

「行ってらっしゃいじゃなくて、一緒に来るんだよ」
「え? ですがわたくしが一緒では潜入にはなりませんので」
「……うーん」

 それもそうだ。
 ヘレネーほどの美女が、どこからどう見ても「ザ・姫様」な女が兵士の中に紛れるのは言われて見れば確かに不可能だ。

「例え変装したってオーラでばれるもんな」
「カケル様こそオーラで露見する可能性があります。魔剣使いのカケル様だと悟られませんよう」
「……オーラを押さえていくのか」

 あごを摘まんで考えた。
 深く考えてなかったけど、確かに何かした方がいい。
 最近は戦闘になるとほとんど無意識でオーラを出すようにしてるから、それは押さえるとして。
 物理的には、エレノアたちは異次元倉庫で待機してもらって、使う時にだすのがいいか。
 おれ自身の変装に関しては……。

「オーラ……オーラを押さえる。……オーラで押さえる」
「カケル様?」
「……ちょっとみてろヘレネー」

 そう言ってヘレネーを待たせて、二振りの魔剣に手をかけた。
(おとーさん、何をするの?)
「やってみたいことがある。無理なら言ってくれ」

 そういって、思ってることをそのまま心の中でエレノアとひかりに伝えた。
(このイメージは……なるほど、よくもまあこんなのを思いつく)
「可能か?」
(貴様の素質次第だ)
「こっちに丸投げかよ」
(おとーさんならできるよ!)
 ひかりはセリフ通り、信じて疑わない感じだ。
 おれは目を閉じて、頭のなかでイメージを練り上げて、魔剣を通して力を引き出した。
 黒いオーラが魔剣から出て、薄い膜のように全身を包み込む。

「カケル様どこへ……これは瞬間移動? いえ羽根は出してませんでしたわ」

 目の前でヘレネーが驚き、きょろきょろしている。
 成功か、とおれは彼女の腰に手を回して、抱き寄せた。

「きゃっ! カケル様! いらっしゃったんですか」

 抱き寄せた瞬間、オーラが彼女も包んだ瞬間、おれの事が見える様になった。

「ずっといた」
「見えませんでしたわ。このオーラのおかげですか?」
「理解が早いな。その通りだ」

 おれとヘレネーを包むオーラ、はじめて出すタイプのオーラ。

「どういう事なのでしょう」
「どう説明したらいいかな。まぶしすぎて逆に見えなくなる、ってのが一番ちかいか?」

 やって、出来た。
 それはいいけど、原理とか説明するのは難しいな。
 光学迷彩とも違う、強いていえば超音波が一番近いかもな。

「これをかぶってる限り誰にもおれ達の事は見えない。理論上エレノアかひかりと同等の力がなければ見破ることは出来ないだろうな」
「では完璧なのですね」

 おれは頷く。
 エレノアだけでも完璧だっただろう、そこにひかりも加わってる。
 見破られる可能性が想像できん。

「即興でやってみたけど意外とうまくいくもんだ」

 くじ引きの秘宝でオーラの技を産み出して以来、色々出来る事に気づいた。
 今回のもその応用だ。

「流石カケル様、これほどの事をさらりとやってのけるなんて。あの頃とは本当にちがう……」

 感慨深げにつぶやくヘレネー。
 彼女とは長い付き合い――この世界に来て最初にあった女だ。
 エレノアを手に入れる前から、ひかりが生まれる前からの付き合いだ。
 おれが魔剣を手に入れて、徐々に使いこなしてる過程も知ってる。
 それがあるからこそのつぶやきか。

「お前もあの頃とだいぶ違う」
「そうでしょうか」
「いい女になった」
「そうだとすればカケル様のおかげですわ」
「さて、軽くデートするか。アイギナ軍のど真ん中で」

 腰に手を回したままヘレネーを抱き寄せる。
 これからやる事とセリフの落差に、ヘレネーは困った様に眉をひそめたが、その後まんざらでもなさそうに、おれに体を預けてきた。

     ☆

 アイギナ軍のど真ん中、大将がいるテントの中。
 カモフラージュ……迷彩のオーラを纏ったおれとヘレネーはアイギナの姫と、その部下の将軍のやりとりを一部始終見ていた。
 オーラのおかげで、おれ達はまるで透明人間のように全てをその目でみていた。

「ですので、何人か候補をつれてきますので、殿下はお眼鏡にかなった人を選んでいただければ」
「そっか、そうね、わかった」

 姫が頷き、将軍とその部下がテントから出た。

「これは……なんというか」

 ヘレネーが眉をしかめて、言葉を選んでいた。

「バカだな」
「カケル様……」
「だってそうだろ? 知識もなきゃ世間も知らない。しかも言いくるめやすい」
「みた感じでは、一度自分の中で決めたことは変えない程頑固ですわね」
「シャーマンか巫女でも突っ込めばそいつに言われるがまま国を動かしそうだな」

 困った表情のまま、おれの感想に頷くヘレネー。

「どうしますか? 正直これ以上セレーネ姫と関わるのはオススメしませんが」
「何を言う、ますます楽しくなってきたじゃないか」
「そうですか、分かりました」

     ☆

 おれは兵士の振りをして、セレーネの前に現われた。
 他にも二人いて、二人とも出世のエサに釣られた、目がぎんぎんしてる若者だ。
 まるで面接のように、セレーネが一人ずつ名前を聞いていった。

「あなたは?」
「カケ……いやショウだ」
「ショウ? 変な名前。それよりその腕はなに? 何か抱いてるの?」

 セレーネはそれを指摘してきた。
 実は、おれはヘレネーを抱いたままだ。
 魔剣のオーラをヘレネーにだけ絞って、カモフラージュを彼女だけにかけた。
 だから他の人間はおれの事は見えるが、おれが腰を抱いてるヘレネーは見えない。
 結果、傍から見れば腕を変に回してる様に見えてしまう。

「勝利の女神を抱いてる」
「なにそれ」
「このポーズのまま戦って負けた事がない」
「何それ? バカじゃないの?」

 セレーネ姫は鼻で笑った。

「殿下、バカとハサミは使い様、かと」

 横に立ってる将軍がフォローに入った。

「イシゴニス、千騎・飛燕将軍。アイギナ軍の名の知れた猛者ですわ」

 ヘレネーが教えてくれた。彼女は普通に喋ってる、オーラのおかげでおれにしか聞こえない。
(われも聞こえるぞ)
(ひかりもー)
 空気読めないエレノアの刀身にテコピンをかました。
 異次元倉庫に放り込もうとしたけど、魔剣にもオーラを被せれば他人から見えない様になるって分かったから、ふたりとも普段通りにしている。

「そうね、口だけの男だったとしても、兵の一人失った程度だもんね」
「さようでございます」
「じゃああんたたち。相手の大将を倒してきたらものすごい褒美を与えるから、死ぬ気で頑張ってきなさい」
「「はっ」」
「ああ」

     ☆

 おれと志願者の二人が最前線に到着した。
 すでに話が通っているのか、兵は引かされて、おれ達が前に出された。
 そして、アッという間に。
 おれの前に飛び出ていった志願者二人がナナに斬り殺された。
 二人とも腰から真っ二つだ。
 その程度かよ。

「やるか」
(二刀流だとばれるぞ)
 エレノアが指摘してきた。
 ああ、たしかイシゴニスが「二刀流の男」って言ってたな。
 なら、いまは二本使わない方がいいな。

「ふたりとも待機な」
(ああ)
(うん!)
 適当にその辺で死んでる兵士から拝借したロングソードを抜き放って軽く握った。
 そのままナナの前に立つ。
 ナナは一瞬だけきょとんとして、しかしすぐに冷静になった。
 ナナはそうだが、その後ろにいる奴隷兵……激戦した後が見える奴隷兵がざわついている。

「騒ぐな!」

 ナナが一喝した。

「相手は一人、ただの敵だ(、、、、、)

 その一言で全員が黙って、おれを見つめ――いやにらみつけた。
 ただの敵として。
 ナナと奴隷兵と戦うのは一度や二度じゃない。
 訓練じゃない、本気で戦った事も何回かある。
 今回も、その一つになるだけだ。

「はああああ!」

 ナナが一瞬で間合いを詰めてきて、斬撃を放った。
 ロングソードで迎え撃つ――が。
 振った瞬間、ロングソードがぼろぼろに朽ちて(、、、)しまった、
 塵にかえる――そんな言葉が一番しっくりくるって感じでぼろぼろ崩れた。

「カケル様!」

 ヘレネーが叫ぶ、とっさに地を蹴って飛び下がる。

「なんだいまのは」
(貴様の力に並みの剣がたえられなかったようだな、われかひかりをつかえ)
 エレノアに言われて、着地したとほぼ同時に彼女を抜き放つ。
 間髪入れず追撃してくるナナの斬撃を迎え撃つ。
 斬撃と斬撃、追加攻撃100%同士の撃ち合い。
 衝撃波が、地面をえぐるほどの大爆発をおこした。
 ナナが飛び下がった、おれの背中のアイギナ兵が喝采した。
 ようやく、相手を押せた事に対する喝采だ。

「総員、対魔獣用陣形! あれは危険だ」

 ナナの号令に奴隷兵が一斉に動いた。
 見た事のない陣形、しかし一つだけ分かる。

「多対一……文字通り人外の魔獣と戦うための陣形ですわ」

 ヘレネーが感心した口調でつぶやいたとおり、それは、201対1の為の陣形だった。
 そんなものを用意してたのか。相変わらずナナは驚かせてくれる。
 アイギナ軍に潜り込むためのマッチポンプでしか無かったはずだが。
 それと戦うのが、楽しくなってきた。
■ドラマCD試聴サンプル公開
活動報告、もしくはyoutubeに「くじ引き特賞」で検索してみてください。

【タイトル】くじ引き特賞:温泉ハーレム権
【キャスト】
カケル :石川界人さん
ひかり :山下七海さん
ヘレネー:佳村はるかさん
ナナ  :諏訪彩花さん
イオ  :三森すずこさん
+注意+
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