挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
くじ引き特賞:無双ハーレム権 作者:三木なずな

アイギナ王国編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

147/288

146.デルフィナの過去(下)~1クレの奴隷

 アイギナでは慣習的に、「三度目の奴隷」は1クレで売られるのがほとんどである。

 奴隷というのは高級資産であり、よほどの事がなければ主人が手放すことはない。それを二度繰り返した三度目の奴隷は無能の烙印を押され、1クレという安値になっても中々買い手がつかないのがほとんどだ。

 デルフィナは無能者とは思われなかった、そう思われた方がマシな状況に陥った。

 仕えた主人を二人とも死なせ、お家断絶に追い込んだ疫病神として見られた。

 そのせいで、彼女は1クレ奴隷としても売れ残った。

 まわりが次々に売られていく中、彼女は売れ残った。

 売れ残り続けた。

     ☆

「ねえ聞いた? 明日この部屋『掃除』されるんだって」

 その日の午後、奴隷の一人がそんなことを言い出した。

 部屋の隅っこで小さくなって、次の主を待つデルフィナが顔を上げて会話のある方を見た。

 三人の中年女奴隷が集まって、井戸端会議の様な感じで喋っていた。

「掃除? 良いことじゃないの」

「確かにひどいものね、この部屋。どうせだからついてにあたし達に水浴びでもさせてくれないかしら」

「なにのんきな事言ってるの。そういう意味の掃除じゃないわよ」

 噂話を持ち出した奴隷が他の二人に耳打ちした。

「えー、うそぉ」

「それって掃除じゃなくて処分じゃないの」

「『掃除』であってるって話よ。売れない1クレ奴隷なんて食わせてるだけで赤字のゴミ以下の存在だから、定期的に『掃除』するんだって」

「じゃ、じゃあ今日売れなかったら」

「わたしたち……処分?」

「ここにいる……ひいふうみい、三十一人全部ね」

 元から狭いすし詰めのような部屋、会話は完全に筒抜けで、他の奴隷は何々なんの話と会話に参加した。

 デルフィナは混ざらなかった、部屋の隅っこで膝を抱えて会話を聞いていた。

 それだけで全てを理解した、元々シンプルな話だ。

 捨て値で売られる一山いくらの奴隷。それを死なせないように食わせるだけでも金がかかる。

 ただ同然の仕入れでも、一週間食わせてれば赤字だ。

 そうなる前に処分する、という話である。

「で、でもそれも良いんじゃない。解放されるんなら。確かにいまから新しい仕事を見つけるのは簡単じゃないけど……」

 二十代の気の弱い奴隷が言った。噂を持ち出した中年奴隷が鼻で笑う。

「あなたバカね、解放される訳ないじゃない。そんなことしたら解放奴隷目当てで、今後ますます1クレ奴隷が売れなくなるわ」

「じゃ、じゃあ処分って?」

「殺されるのよ」

「えええええ!?」

 気の弱い奴隷じゃなくて、他にも何人かから悲鳴が上がった。

 掃除イコール解放だと思っていたのはそれだけいると言うことだ。

 それからは悲鳴とお祈りの大合唱になった。

 デルフィナは相変わらず膝を抱えて、何も考えなかった。

     ☆

 その日の午後、すし詰め部屋のドアが開いた。

 ドアの向こうから二人の男が顔をだした。

 一人はここを管理している、奴隷を売る側の男。

 もう一人は見るからにチンピラで、誰かの使いっ走りを生業にしている様な男だ。

「ひいふうみい……全部で三十一人だ。ほらえらべ」

「おう。とりあえず三十クレだ、選んでる間に数えてろ」

 男は袋を渡して、部屋の中に入ってきた。

「三十クレだって」

「三十人買われるの?」

「それなら買ってもらえる」

 さっきまで処分で騒いで、うちひしがれた奴隷達に希望の混じったざわめきが広がった。

 三十一人に対して三十人買われると言うことは、よほどの事がない限り自分も買われる、処分されないと言うことだ。

 買い手側の男は奴隷達を一人ずつ見て回った。

 やがて、デルフィナの前に立ち、屈んで顔をまじまじと眺めた。

「きまったか?」

 部屋の外で金勘定を済ませた男が聞いた。

「おう。この小娘以外だ」

「そいつはいいのか?」

「ああ、なんか辛気くさいし、縁起悪そうだ」

「あたりだな。そいつはいままで二人の主人を死なせてる疫病神だ」

「へっ、やっぱそうかよ」

「おいお前ら――そこの小娘以外全員外にでろ」

 奴隷達は我先争って部屋から飛び出した。

 『掃除』の話が出て以降、この部屋は奴隷達にとって『死』の匂いを放つ場所になった。

 一刻でも早く、ここから抜け出したいんだろう。

 三十人がでて、最後に男がでた。

 売り手の男が部屋の中を見て、デルフィナを見て、買い手の男に聞いた。

「なあ、あれただでいいからついでにつれて行くか? 三十人もまとめて買ってくれたんだ、一人くらいサービスするぜ」

「ばーか。何のために安い1クレ奴隷買ったと思ってる。低コストで使いつぶす為だからだろうが。余分な人数増やして使うまでの金をかけられるか」

「一人くらい増えたって構わないだろう」

「そっちの魂胆は読めてるんだよ。『お掃除』に金をかけたくねえだろ」

「分かった分かった、とっとと三十人連れてけ」

「へっ。また来るよ」

 ドアが閉まる、デルフィナ一人になった。

 ついさっきまでぎゅうぎゅう詰めだった部屋が、一気にガラガラになった。

 デルフィナはきょろ、きょろと、部屋の中をぼんやりと見回した。

     ☆

 深夜に近づく頃、ドアがまた開いた。

 今度は一人だけだった。売り手の男だけ。

「立て、外に出ろ」

 奴隷に染みついた命令服従の根性がデルフィナを立たせた。

 立って歩いて、部屋を出た。

「まったく、面倒くさいことをさせやがって。ほらとっとと歩け」

 ドアが閉まる音がして、デルフィナは尻を後ろから蹴られた。

 よろめいて、命令された通り歩き出す。

「……どこに行くの?」

「ああ? 良いところだよ良いところ。痛さもつらさもない夢のようなところ」

「天国?」

「ああそうだ。まったく、なんでおれがこんな」

 男はぶつぶつ文句を垂れ流した。

「わたし殺されるの?」

「ああそうだ」

 ますます面倒くささが増した語気で答える。隠すことすらやめてしまった。

「まったく、一人だけ売れ残りやがって。どうせなら大量に残るか全員売れてくれた方が面倒なくていいのによ」

 歩きながら、デルフィナは考えた。

 騎士の主に仕えている間はほとんど使ってなかった、さび付いた頭が久しぶりに動き出した。

 何故。

 何故殺されるの? 売れなかったから、1クレどれいだから。

 何故売れなかった? 何故1クレになった? なぜ奴隷になった?

 腰の高さまで伸びてる雑草が生い茂る、人気のないところに連れてこられて、男は懐からナイフを取り出した。

 よく見ればまわりに白骨化したガイコツがいくつも転がっている。

 そういうところだ(、、、、、、、、)

 ガイコツとナイフ。

 死の匂いがデルフィナに近づく。

「抵抗するなよ、一撃で楽にしてやる」

「――っ!」

 当然の如く、デルフィナは逃げ出した。

 死に瀕して、彼女は必死になって逃げ出した。

「にげらんねえよ。ここはそういうところだからな」

 男は面倒臭がりながらも、慌てずに後を追ってきた。

 デルフィナは必死に逃げた。逃げて逃げて逃げ続けた。

 ふと、何かに躓いて転んだ。

 盛大に顔から地面に突っ込む、痛いのをこらえて躓いたものをみた。

 ガイコツだった。

「――っ!」

 ガイコツの体に、何かが刺さっていた。

 男が持ってるのと同じ、しかし大分さび付いたナイフ。

 その間に男が追いついてきた。男はナイフを持って、もう片手でデルフィナの髪をつかんで立たせた。

「ほら立てよ――うぐっ!」

 とっさにナイフを捕まえて、男をさした。

 さび付いたナイフは抵抗を破って男の体に突き刺さった。

「て、め……」

 自分の体に突き刺さったナイフを信じられないものを見るような目で凝視する男。

 デルフィナは逃げ出した。男の体を押しのけて逃げ出した。

 途中でまたガイコツに躓いて転げそうになったが、とにかく必死ににげた。

 いま逃げなきゃ死ぬ、死ぬのはいや。

 その一心で逃げ続けた。

「きゃあ!」

 急な地面がなくなって、急な落下感がデルフィナを襲う。

 腰まで生えてる草で、崖になってるのが見えなかったからだ。

 デルフィナは、そのまま崖を転がり落ちた。

     ☆

「……生きてる」

 意識が戻る、仰向けで見あげる空に白い月がかかっていた。

 全身を強く打ってあっちこっち痛いが、その分生きてることを実感する。

「……何故?」

 体は動かない、そのかわり頭は良く動いた。

 久しぶりに解放された脳はものすごい勢いで回転しだして、あらゆる事に対して「何故」と問いかけた。

 なぜ落ちたのか、なぜこんな事になったのか、なぜこんな人生なのか。

 いろんな何故。それがぐるぐると何周もして、やがて一つに――なぜ自分がこんな事になってるのか、に思考が集約される。

 1クレでも売れなかったから。

 主人が立て続けに死んだから。

 そもそも奴隷として売られて人生を他人にゆだねてしまったから。

 何故そうなった、何故。

「お金が……ないから」

 全ての疑問に一度は浮上した答え、金がないから。

 十四年間の人生、ほとんどの事は「金さえあれば」で解決できた。

「金さえあれば」

 うわごとのようにつぶやく。

 そして、思考はどつぼにはまる。

 金さえあれば、にはまっていく。

 かつての主の言いつけ通り、それにも「何故」を投げかけたが、変わらなかった。

「金さえあれば」

 もう一度つぶやく。今度は真理のように聞こえた。

 デルフィナ・ラマンリ、十四歳。

「金さえあれば」

 やがてホメーロス(金の亡者)と呼ばれる女が、精神的に生まれた瞬間だった。
■ドラマCD試聴サンプル公開
活動報告、もしくはyoutubeに「くじ引き特賞」で検索してみてください。

【タイトル】くじ引き特賞:温泉ハーレム権
【キャスト】
カケル :石川界人さん
ひかり :山下七海さん
ヘレネー:佳村はるかさん
ナナ  :諏訪彩花さん
イオ  :三森すずこさん
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ