挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
くじ引き特賞:無双ハーレム権 作者:三木なずな

メルクーリ王国編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

125/288

124.ありがとう、待ってくれて(side イリス)

 テレシアの双花。

 いつからだろう、人々はわたしと姉上をそう呼ぶようになった。

 内と外。

 動と静。

 表と裏。

 軍事専門のヘレネー姫と、内政担当のイリス姫として、わたしと姉上の名は国内外に広がった。

 そう呼ばれる事は嬉しかった。

 子供の頃からずっと憧れで、誰よりも大好きな姉上と肩を並べているように感じられるから、「テレシアの双花」という名前を聞く度に、何よりも目の前で言われる度に心が小躍りしたものだ。

 姉上のためなら何でもする。軍事的手腕を思う存分発揮できるように、わたしは後方、国の発展に専念する道を選んだ。

 その姉上はしかし、ある男につかまってしまった。

 悪い虫だ。最初はそう思った。

 カケル・ユウキ。

 素性すらも定かではない男。

 紙幣というアイデアを思いついたが、その一発屋だと思っていた男。

 そんな男に姉上がつかまった。

 称えて、心酔して、挙げ句の果てには純潔まで捧げてしまった。

 最初にその話を知ったときは何かの間違いだと思った。

 あの姉上がまさか、と思った。

 姉上に釣り合う男などこの世界に存在するはずがない、どんな男だろうと、よくて姉上の足を引っ張らない程度だろう。

 そう、思っていた。

 それはしかし、徐々に変わっていった。

 決定的に違うと思い始めたのが、姉上と共にカケルの屋敷に向かう途中。

 彼に子爵位を授けにいく、あの馬車の中。

 姉上は二つの顔をわたしに見せてくれた、どっちも今までに見たことのない顔だ。

 一つは、女の顔。

 番を得た、人生に満足した女の顔。

 もう一つは、姫の顔。

 以前よりも遙かに凜々しく、気高く美しい顔。

 姉上は変わった、かえたのは間違いなくカケルという男。

 私人としても、公人としても、カケルは姉上を更なる高みに押し上げた。

 悔しいが、それはわたしには出来なかった事。

 わたしにできたのは、姉上を邪魔しないようにする、と言うことだけだ。

 それに気づいたとき、カケルという男の事がものすごく気になった。

 姉上をああまで引き上げたのはどういう男なのだろうと。

 それからは彼の事を見つめていた。

 カランバ、コモトリア、シラクーザ。

 国を、ひいては世界の有り様を変える事件の渦中には、常にかれの姿があった。

 いや、彼が中心にいて、深く関わっていた。

 この世界が何かの物語なら、彼は間違いなくその物語の主人公である。そう、思わせる程の活躍ぶり。

 気づけば、わたしは、彼の事を好きになっていた。

 そんなわたしは、今。

 どんな顔をしているのだろう。

     ☆

「とりあえずクシフォスのありかを突き止めてくれ」

「わかった。任せて。おそらくすぐにわかる」

「そうなのか?」

「わたしはメルクーリの王女だ。わたしが調べられないものはほとんどないし、わたしでも調べられないものならそこにぽっかり空いた空白地帯が生じる」

「なるほど。足し算でも引き算でも見つかる訳だ」

「ああ」

 わたしは頷いた。

 夜の街中、屋敷を出たわたし達。

 カケルはわたしを送ってくれた。

 肩を並べて歩いてると、微妙に彼の気配が、ぬくもりがマント越しに伝わってくる気がする。

「なら任せる。まっ、見つかったらそれでおしまいだ。後はおれが乗り込んでクシフォスをぶっ壊せば話は終わりだ」

「ならわたしはいいわけを考えておこう」

「いらん」

「え?」

「エレノアを使う。地獄の帝王とやらをクシフォスにけしかけてやりゃあ壊す大義名分が生まれる」

「そんなことが出来るのか?」

 わたしは驚いた。

 地獄の帝王サンドロス。

 かつては世界を恐怖のどん底に陥れた、歴史に消えない爪痕を残して行った破壊の権化。

 それをさも子供のおつかいのように言い放つカケル。

 底が知れない男だ、本当に……。

「ふっ」

「どうした」

「エレノアが『我を便利扱いするなと言ったろうに』ってさ」

「はあ……仲、いいのか?」

「悪くはない」

「伝説の魔剣なのに……」

「最近は親ばか剣にクラスチェンジしつつあるぞ」

 スケールの違う男だ。

 今となっては、姉上が惚れ込んだのがよく分かる。

 桁外れに強くて、賢くて、器が大きい男。

 胸が熱くなった。

 喉がガラガラに干上がりそうになった。

 狂おしい程に何かしたい、カケルのために何かしてやりたい。

 彼にふさわしい、釣り合うような女になりたい。

 強く、強くそう思った。

 姉上も……こんな気持ちだったんだろうか。

 そうしてるうちに屋敷についた。

 レイウースにあるわたしの公邸。

「ありがとう、送ってくれて」

「気にするな。それより明日いっぱいレイウースを離れる」

「どこかに行くのか?」

「オルティアを説得して、シラクーザにつれて行く。新しい女王にはプレーンが必要だからな」

「なるほど。わかった。では明後日までに場所を判明する様にしよう」

「ああ」

 カケルはそう言って、身を翻して立ち去った。

 途中でワープしていなくなるまで、その姿を見つめ続けた。

 胸が熱い、何度も声を出して呼び止めようとしたのを、ぐっとこらえる。

 ここで気持ちに流されて彼を呼び止めるのは彼にふさわしい女じゃない。

 わたしはそう思って、頑張って、頑張って気持ちをこらえた。

 カケルがいなくなっても、胸の高鳴りは収まるところが更に強くなったかのようだ。

 こんなに切ないものだったのだな、男を思うというのは。

 姉上はどうだったんだろうか。今度聞いてみよう。

 そう思って、わたしは深呼吸して、身を翻して屋敷の中に入ろうとした。

「――っ!」

 背筋が凍った。おぞましい何かが一気に駆け上っていった。

 パッと振り向く。

 そこに、黒装束の男が五人いた。

 全身黒ずくめで、昏い光をたたえる目だけを出している出で立ち。

 手に短刀を構えている、暗殺者な格好の男達。

「何者だ!」

 誰何しつつ、わたしは剣を抜いた。

 男達はこたえなかった。むしろわたしの声を号令にしたかの如く、ノータイムで散開して多方向から襲いかかってきた。

 月夜に煌めく短刀を剣ではじく。コンピネーションのとれた連携を払いながら飛び下がる。

 そこに更に暗殺者が詰めてきた。これもはじいて――親指と人差し指の間に激痛としびれが走った。

 鋭いだけではない、かなりのパワーだ。

 何より、必殺――文字通り必殺の殺気を出している。

 五人の攻撃を受け止め続けて、下がり続けた。

 わたしは気づいた、屋敷の中から誰もでてこないことを。

 静寂を打ち破る剣と短刀が撃ち合う金属音。

 その音を轟かせているというのに、屋敷の中にいる衛兵は誰一人として出てこない。

 やられたか、囚われたか。

 いずれにせよ――絶体絶命だ。

 集中力が思考に持って行かれたそのわずかな隙。

 一人の暗殺者がわたしの剣をはじき、別の暗殺者の短刀が喉をついてきた。

 やられる――。

『イリス・テレシア・メルクーリに剣術を貸し出します、残り2分59秒』

「――っ!」

 はじかれた剣を握り直し、かつてない程の勢いで横に薙いだ。

 横一文字の斬撃が、迫ってきた暗殺者二人をまとめて腰から両断した。

 わたしの力ではない、が、この力は知ってる。

「カケル!」

 残った暗殺者三人の向こうに、カケルの姿があった。

 黒いオーラを纏って現われて、悠然と歩いてくるその姿はまがまがしく、さながら魔王のようだった。

 だが、わたしはほっとした。

 あれが魔王なら、わたしは魔王にすでに囚われているんだろう。

「なぜここに?」

「声でな、屋敷の中がおかしくて、何人か待ち伏せしてるのがわかった。それでわざと遠く離れるって宣言していなくなってみた。そしたら案の定安心してお前を襲いにのこのこ出てきた訳だ」

「そうだったのか。しかしそれならわたしに教えてくれたって」

「敵を欺くにはまず味方から。それにお前なら持ちこたえられると信じてた」

「え……」

 胸が高鳴った。

 信じてた? カケルが、わたしを?

 わたしの事を……信じてくれてた? だから任せてくれた?

「――っ!」

 思わず口元を押さえた。自分でもはっきり自覚出来る、にやけそうになったからだ。

 彼に信頼されるのがこんなに嬉しいことだったとは知らなかった。

「しゃあああ!」

 そうしてるうちに、残りの暗殺者が一斉にわたしのほうに飛びついてきた。

 かけるとわたし、まだこっちの方が芽があると思ったんだろう。

 だが、それは間違いだ。

 いまのわたしに容赦はない。カケルの信頼に応えるために頑張りたいのだからな。

 剣をにぎりなおして、襲いかかってくる二人を切り捨てて、一人を峰打ちで気絶させた。

「てかげんしたのか」

「首謀者をはかせないといけないからな」

「そうか」

 カケルは頷き、黒いオーラをおさめた。

 わたしはカケルの前に立ち、彼を見あげた。

 この男のものになりたい!

 そして――。

「ありがとうカケル」

「きにするな、自分の女を助けるのは――」

「ううん」

 わたしは静かに首を振った。

「わたしを抱くのを待ってくれて、ありがとう」

 もっともっと自分を高めて、この男にふさわしい女になって――それから彼のものになりたい。

 わたしは、強くそう思ったのだった。
■ドラマCD試聴サンプル公開
活動報告、もしくはyoutubeに「くじ引き特賞」で検索してみてください。

【タイトル】くじ引き特賞:温泉ハーレム権
【キャスト】
カケル :石川界人さん
ひかり :山下七海さん
ヘレネー:佳村はるかさん
ナナ  :諏訪彩花さん
イオ  :三森すずこさん
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ