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くじ引き特賞:無双ハーレム権 作者:三木なずな

メルクーリ王国編

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114.婚約破棄

 昼下がりのレイウース、屋敷の中。

 シラクーザの一件が片付いて、久々に屋敷に帰ってきたおれはくつろいでいた。

 くつろぐ、と来ればやる事は一つだけ。

「あの、ご主人様」

「ん、なんだミウ」

「そろそろ……お屋敷のお仕事を」

「そんなの後回しだ」

 即答で却下した。

 この日、おれは朝からミウをもふもふしていた。

 リビングでくつろぎ、窓から差し込む日だまりのなかで、ミウをもふもふ。

 もふもふ、もふもふ。

 くすぐったそうにしていながらも、逃げようとしないミウをとにかくもふもふした。

 朝からずっともふもふしてたから、ミウの仕事がたまってるのは間違いない。

 はあ……落ち着くなあ。

「ミウはいつもふかふかしてるな」

「お手入れ、してますから」

 ミウはしずしずと答える。

「ご主人様がもふもふできるように、いつもちゃんとお手入れしてます」

「そうか、ミウはいい子だな」

 もふもふついでに、ミウの頭も撫でてやった。

 するとミウは「ほわぁ……」と声を漏らして、脱力しておれに体を預けてきた。

「ミウ、少し背が伸びたか?」

「そうですか? わからないです」

「ふむ。ほんのちょっとだけだけど、伸びたかも知れないな」

「……」

「ミウ?」

 腕の中にいるミウの体がちょっと強ばった。

 何か怖がってるような、そんな反応。

「ご主人様は……背が伸びるの、きらいですか?」

「……ぷっ」

 おれは思わず吹き出した。

 顔だけ振り向き、ちらっとおれを見あげてくるミウの瞳がまるで捨てられそうな子犬のように濡れていたから。

「ミウはかわいいな」

「え?」

「それにふかふかだ」

「え、え、え?」

 答えになってない答えを口にするおれに、ミウはちょっとだけおろおろした。

 それがまた可愛くて、更にもふもふしてやる。

「おとーさん」

 そうこうしてるうちに、ひかりがリビングにはいってきた。

 てこてこと、そばに相棒のチビドラゴンがついてくる。

「どうした」

「あのね、おとーさんにお客さん」

「客?」

 思わず眉をひそめた。

 もふもふがいいところだってのに。

 ミウの毛並みからして、ここから更に一時間かけてもふもふすれば、本人がうつらうつらになって更にもふ度が上がっていい具合になっていくって言うのに。

 こんな時に客とか、空気読めないヤツだなまったく。

(こら、そんな顔をひかりにむけて八つ当たりするな)

「むっ」

 エレノアの声が脳内に聞こえてくる。

 たしかに、空気読めない客だけどここで不機嫌になったらひかりに八つ当たりも当然だ。

 おれは気を取り直して、ひかりにきく。

「客ってだれなんだ?」

「あのね、お姫様」

「お姫様?」

 はて、どの姫だろうか、とおれはもふもふしながら思った。

     ☆

 応接間、ミウをもふもふしたままのおれ向かいに客が座っている。

 金色の髪をポニーテールに結い上げて、鎧にマントという戦姫姿をしているのはイリス。

 イリス・テレシア・メルクーリ。

 メルクーリ王国の王女で、テレシアの双花として名高い、ヘレネーの妹だ。

「久しぶりだな」

「う、うむ」

 困惑しつつ返事をするイリス。

「どうした」

「その……メイドがいるのだが」

「気にするな。もふもふしてるだけだ」

「もふもふって」

「いっとくがさせてやらんぞ。ミウのもふもふはおれだけのものだ」

「いやそうではなく、その……」

 イリスはミウを見て、咳払いをして、真顔でおれを見つめた。

「人払いをたのむ。少し大事な話が」

 大事な話か。

 イリスの顔は真剣そのもの、申し出通りかなり大事な話があるようだ。

 ミウの体が強ばる、イリスの真剣さが彼女にも伝わったようだ。

 しかないな。

「ミウ」

「はい」

 ミウは静かに答えて、そのまま立ち上がる。主人に忠実なメイドとして満点の反応だが、そうじゃない。

 おれはその手を引いて、引き留めて、膝の上に戻した。

「え、ご主人様?」

「耳を塞いでろ」

「え、あ、はい」

 ミウはそういって、自分の耳を押さえた。

 髪の色と同じふかふかの毛に覆われた、可愛い耳。

 それをそっと抑える仕草は普通の人間とちょっと違って――結構可愛い。

 思わずなでなでしてあげたくなる愛らしさだ。

 そんなミウにもふもふを再開させながら、イリスに言った。

「いいぞ、なんでも話せ」

「えっ、しかし……」

「安心しろ。ミウはこの通り聞こえないし、聞こえてもおれに不利益なことは一切漏らさない。なっ、ミウ」

「はい! ご主人様」

「な」

「いや聞こえてるではないか」

 イリスはそういってから、はあ、とため息を吐いた。

 そうしてから、深呼吸して、キリッと口元を引き結んで、おれを改めて見つめた。

 そして、話し出す。

「メルクーリ王国で紙幣が正式に発行された」

「へえ」

「旧貨幣――銀貨と金貨の流通は法で禁じて、紙幣との交換には応じるという形になった。市中に残るものと完全に入れ替わるにはもう少し時間がかかるだろうが、それも時間の問題だ」

「そうか。長かったな」

 ちょっと感慨深かった。

 思えば、おれがこの世界にきてはじめて解決した事件らしきものがそれだったな。

 この町で起きた銅貨の事件。それを解決してイリスと知り合って、魔法で紙幣を作るのはどうだって提案したのだ。

 メルクーリ王家には偽造不可能な、魔法の王印がある。

 一言で言えば、王家の人間だけができる、物体に紋章を刻む魔法だ。

 それを紙にすれば、偽造不可能な紙幣になるんじゃないかって提案した。

 紙そのものに大した価値はないから硬貨みたいに溶かして金属を売られる心配もないし、王族以外作れないから偽造の心配もない。

 それはすぐにイリスに受け入れられたが、実際の流通までにだいぶ時間がかかった。

「で、状況はどうだ?」

「上々だ。金が使いやすくなって、商いが活発化している。特に行商人たちに好評だ」

「へえ?」

 なんでだ? って目でイリスを見る。

「行商人たちは移動するのが当たり前だ。今まではバカ重い銀貨か金貨、あるいはいつ紙くずになるともわからない商会発行の手形で商売をしていたのだ。それが国で保証した軽い紙幣を使えれば好評になろうというものだ」

「なるほど。よかったじゃないか」

「どうだろうな。早速ラマンリが食いついてきたのだから、素直に喜べないところだ」

「デルフィナか。あいつは鶏をつぶして卵を取るような商売をしないだろ。これから儲かっていく所に食いついただけのことだろう。素直に喜んでいい」

「そうだな」

「……」

「……」

 会話がとまった。

 おれはもふもふを続けてて、イリスはおれをみつめてる。

 なんだ? 話はそれだけか?

 イリスはやけに真剣な顔をした、なのにこの話だけ、っていうのはちょっと拍子抜けだ。

 しばらくしてから、彼女は重々しく口を開く。

「姉上は……」

「うん?」

「……」

 それでまた黙ってしまう。

 姉上って言うと、ヘレネーか。

 第四王女であるイリスの姉は他にも二人いるだろうが、おれはヘレネーしかしらないし、イリスもヘレネー以外の話をおれにしないだろう。

 そのヘレネーがどうかしたのか?

 おれはイリスの次の言葉を待ったが、いつまで待っても出てこなかった。

 しばらくして、彼女は立ち上がった。

「邪魔をした」

 と言って、出て行ってしまった。

「なんだったんだ? 一体」

「ご主人様」

 不思議に思ってると、ミウが口を開いた。

 手は耳を押さえたままで、真顔でおれを見つめた。

「どうした」

「姫様、悲しそうでした」

「悲しそう?」

 なんで悲しかったんだ?

「すごく、泣きそうな顔をしてました」

「泣きそう?」

 おれは席を立って、出て行く直線のイリスの表情を思い出す。

 泣きそうな顔って言われればそうかもしれないが……。

「なんでだ?」

 それがわからなかった。

     ☆

 夜、ミウを解放したおれは街にでた。

 丸一日拘束(もふもふ)してしまったから仕事がたまった彼女を解放して、おれは夜の街に繰り出した。

 久々に外食でも、と思ってうろうろしてるのだが。

「プロス亭はもうないし、他の店はあまり知らないんだよな」

(新規開拓したらどうだ)

「この時間だと酒場ばかりになるな」

(我と二人で飲み交わすのはどうだ?)

「手酌酒じゃないか」

 そう突っ込むけど、エレノアと世間話しながらなら悪くないと思った。

 そう思って入れそうな酒場を探すことにしたが。

 一軒目、満員だった。

 二軒目、奴隷兵で満員だった。

 三軒目でようやく空いてたから中に入った。

(むっ、あれはイリス姫ではないか?)

「え?」

 エレノアの指摘と、彼女の意識が向いてる方を見た。

 そこにイリスがいた。

 イリスは普段とは違う格好をしてる。

 姫ドレスでもマントに鎧という姿でもない。

 冒険者風の格好に近いはじめて見る格好だが、間違いなくイリスだ。

 イリスは一人で飲んでる。

「何やってんだあいつは」

 出迎えた店員にイリスがツレだといって、彼女の所にきて、向かいにすわった。

「イリス」

「……んあ?」

 イリスは顔をあげておれを見た。

 目がとろんとして、焦点が定まってない
 顔も赤く、よく見れば座ってるのに微妙にふらついてる。

「おまえは――られら」

 おまけにろれつも回っていない。

「ろこのうまのほねら。らをらろれ」

「馬の骨って、おれだ、カケルだ」

「はぜる……?」

「爆発しないぞ」

「はぜるは爆発しろー」

 あってるようなあってないような言い回しをして、イリスは更にぐい、と手元の酒を一気飲みした。

(まごう事なき酔っ払いだな)

 そのようだ。

 知りあいだから一緒にって思ったけど、これは関わらない方がいいかもな。

 そう思って、おれは立ち去ろうとしたが。

「まあまれ」

 袖をつかんで引き留められた。

「い、いっしょにのんれけ」

「いやしかし」

「わたしの酒がのめないのかー」

 大声で叫んだ。

 一瞬酒場の注目を集めたが、酔っ払いのよくある戯言だったからすぐに笑いに変換された。

「わかったわかった、一緒に飲むから袖離してくれ」

「よろしい」

 酔っ払いと飲むとき、付き合ってこっちも完全に酔ってしまうか、可能な限りシラフを保つか、どっちかに徹底した方がいい。

 おれは――後者を選んだ。

 店員を呼んで、ノンアルコールを注文する。

 運ばれてきたジュースでイリスと乾杯する。

「かんらーい」

「乾杯」

「んぐ、んぐ……ぷはあ!」

 ますます豪快な飲みっぷりだった。

「はぜるぅ……おまえ……おとなか?」

 はあ?

 なんか変な事を言い出したぞこの酔っ払い姫。

「大人かって、そんなの見てわかる――」

「わーかーらーん。結婚して大人なのかって聞いてるんだ」

「ああ、大人かってそう言う意味でか。そういう意味じゃ大人だ」

 式だけならフィオナとあげてる。

「そうか! わたしも今度大人になるんだ。なるんだー」

 立ち上がって、両手を天に突き上げる。

 それでまた注目を集めてしまう。笑われてしまう。

「いいから座ってって――え?」

 イリスの手を引こうとして、気づく。

 わたしも今度大人になるって……まさか。

 イリスのそれは……多分やけ酒だった。

     ☆

 深夜、静まりかえった酒場の中。

 二人っきりになって、おれはイリスに膝枕をした。

(普通逆だがな)

「こういうのもわるくない」

(聖女や女王あたりがハンカチを噛んで悔しがりそうだな)

「あの二人はむしろおねだりをしてくるだろ」

 イリスを介抱しながら、エレノアとどうでもいい世間話をする。

 酔いつぶれた彼女を下手に動かさない方がいいって事で、店に多めに金を渡して、閉店後のそこを貸し切った。

「うーん」

 イリスは形のいい眉をぎゅってして、苦しそうに呻いた。

「うーん、ここ、は……?」

 そしてゆっくりと目を開き、ぼんやりした目できょろきょろする。

「……はっ」

 急に飛び上がったイリスだが、すぐに頭を押さえてうずくまった。

「あいたたたた」

「飲み過ぎだ。もう少し休んでろ」

「大丈夫……だ。――ってカケル!」

 そうしてまたあいたたたた、と頭を抱える。

「大声だすからだ」

「な、何故ここに……?」

 今度は声を抑えて、眉をひそめたまま聞いてきた。

「それはこっちのセリフだ。メルクーリの姫ともあろう者がそんな一般市民の格好をして、場末の酒場でやけ酒をあおってるのはなんでだ?」

「や、やけ酒など。そ、そういう気分の日なのだ――」

「結婚するのか?」

 おれはストレートに切り込んだ、すると、イリスは息を飲んで、頭痛も忘れたかのように目を見開いた。

「そうか、お前が結婚か」

「今日の事は……姉上には言わないでくれ」

「言わない、安心しろ」

 言わないが、気にはなる。

 場末の酒場でグダまいて、その上ヘレネーには話すな、か。

 間違いなくなんかあるな。

「いつ結婚するんだ?」

「……来月だ」

「もうすぐだな、相手は?」

「アイギナ王国第一王子・総理王大臣、キモン・モ・アイギナ」

「へえ」

「なんかすごい肩書きだな」

「……」

 それで黙り込んでしまうイリス。

 おれは口を開こうとして、のど元まででかかった言葉を飲み込んだ。

 おれはこう聞こうとした。

『話を破断させた方がいいか』

 って。

 だが、すぐにそれは間違いで、意味のない質問だと気づいた。

 そう、そんなのを聞いても意味はない。

 だから、おれは言い直した。

「話をつぶすにはどうしたらいい」

 驚愕するイリス。

 頭の中で、楽しそうなエレノアの口笛が聞こえてきた。
■ドラマCD試聴サンプル公開
活動報告、もしくはyoutubeに「くじ引き特賞」で検索してみてください。

【タイトル】くじ引き特賞:温泉ハーレム権
【キャスト】
カケル :石川界人さん
ひかり :山下七海さん
ヘレネー:佳村はるかさん
ナナ  :諏訪彩花さん
イオ  :三森すずこさん
+注意+
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