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平穏

日常回です。



私の名前はリルル!とある村の宿屋の看板娘です!宿屋のお仕事で毎日お昼まではとっても忙しいんです!


まずは朝に水汲みとお昼ご飯の支度。それが終われば部屋を全部掃除して、廊下に雑巾をかけて、窓を拭いて、それでやっとお昼を食べます。ほとんどの日はそれで一日のお仕事は終わりです!だって一年のほとんどはお客様なんて来ないのです。一年に2回くらい商隊の皆様がやってくるけど、それ以外はぜんぶ村のみんなの食堂や酒場になってるのですよ。


でも、その日は珍しく新しいお客様が来たのです。


「あら?こんな時期にお客さんなんて珍しいこともあるもんだねぇ…しかもすごいべっぴんときた…お一人かい?」

「ええ。台帳を貸して頂戴?名前を書くわ。あと、お代はこれでいいかしら」

「…こんなにもらえないよ…一体何日泊まるつもりだい?」

「まだ分からないのよ。探し物をしててね…出て行く時にお釣りを返してくれたら嬉しいのだけど…まあ勿論そのままとっていてくれても構わないわよ?私、実はお金持ちなの…あ、あとご飯はかなり多めにお願いするわね」


その人は硬貨を一枚テーブルに置いてそんなことを言っていました。


「金貨!?…貴方…もしかして何処かの貴族様ですか?」


そうお母さんが思うのも仕方がありません。だって金貨なんて滅多にお目にかかれないほど価値が高いんです。でもその人はくすりと笑って否定されました。


「貴族だなんて…そんなことないわ。ただお金を持っているだけ」

「そうかい…後でいきなり無礼打ちとかやめておくれよ?」

「心外ね。私はそんなことはしないわ」


ぷんぷんと怒ったような声をしている彼女は、それでもどこか高貴な感じが漂ってきてやっぱり貴族でしたと言われてもなんだか納得してしまいそうです。


「はいよ…マゼンタ、でいいんだね?」

「ええ。しばらくの間よろしくね…そこの貴方も」

「ひいっ!!」


思わず悲鳴をあげてしまいました。だって私は受付の外の廊下でこっそり覗き見していたのです。こちらを一度も振り向かないし、絶対に気づかれていないと思っていたのに。現にお母さんは私の方を見てびっくりしています。


「あ…すまないね。うちの娘だよ…きっとあんたのことが気になったんだろうさ、同年代のようだしね。後できちんと言って聞かせるよ」

「いえ、元気なのは良いことだわ。ただ…そうね、『好奇心は猫を殺す』。きちんと言ってあげて」

「あ、ああ…そうだね」

「部屋はどこかしら」

「ついでに案内させるよ。リルル!お客様を案内しな!」


はわわ、呼ばれちゃいました。どんな顔をしているのでしょうか。お母さんが同年代だと言っていたから、私と同じくらいの背でしょうか。いやでもとっても大人びた喋り方だから、私よりもずっと大人びていて…


「初めまして、マゼンタよ」

「リ……リルル、です……」


マゼンタさんは色白の綺麗な女の子でした。黒のコートを着ていて、その下は黒い革の上着に、動きやすそうな灰色のシャツ。それに、男の人たちが履く生地の分厚い黒のズボンを履いていました。全身黒づくめですが、とても高級そうな服ばかりです。

でも、そんなのを台無しにしているのが赤黒い頭巾です。


そのゴーグル付きの頭巾は、ダメな染め方の見本のように色も染め具合もまだらで、染料の色も全然綺麗じゃありません。私だったら絶対に捨てちゃうような頭巾ですが、どうもマゼンタさんはそれに愛着があるようです。どの服よりも大事にしているのが伝わって来ました。


「リルル、見惚れてないで早く行きな…服、洗っとくかい?」

「ええ。後でお願いするわね」

「で…ではご案内するでございます…です」

「…そんなにガチガチになるもんかい?すまないね、この子はいつもはもっと賢い子なんだが」

「いえ、とても可愛い娘さんで羨ましいわ」

「かっ、かわっ…きゃわいっ!」

「ああもう!うざったいね!さっさと行きな!お客様に迷惑だよ!」

「はっ…はいぃ!マゼンタさん!こちらでございましゅっ!」


そうしてマゼンタさんを部屋に連れて行った後、私はずっと上の空でした。


そんな時、私の友達のギンジ君が私を遊びにさそってくれました。私よりも五歳下の男の子ですが大柄で、ついこの間かけっこに負けてしまいました。


「リルルー!遊ぼうぜー!ってか参加決定な!」

「いいですけど…何するのですか?」

「相変わらず変な言葉使うなー!直せよー!なー!」

「ほっとけ、なのです」


あまりにもこの子に変な言葉だと言われるので、本当に私の言葉遣いは変なのかな、と思ったこともありましたが、お母さんがそれでいいと言っていたし、マゼンタさんもこんな感じの言葉遣いだったから大丈夫なはずです。


「今日はな!川に探検に行くぜ!」

「もう何回も行きましたよ」

「俺はな!この前川を登ったところに何だか洞窟があるのを見つけたんだぜ!」

「…それ、本当ですか?」

「おう!だから行こうぜ!」


むー…

そういえば、お母さんに男の人に人のいない場所に誘われたらついて行っちゃダメ、って言われたのです。たしかろりこんがどうとか。ろりこんってなんでしょうね。お話の中の魔物のことでしょうか。


「ダメです。そんなところに二人で行っちゃいけないのです」

「いいじゃん、行こうぜー」


二人で、のところを強調したのですがギンジ君には伝わらなかったようです。

「ダメです。二人では」

「うーん…じゃあさ!お前のところに新しい客来てたじゃん!その人誘って行こうぜ!」

「え………えぇぇ!?」


そうだけど!そうだけどそうじゃないのです!その結論に誘導したのは私ですけどその人じゃないのです!


とか思っている間に、もうギンジ君は宿の中に入ってしまったようです。ああ、もう!




「洞窟……?それは、前からあったの?」

「いや!今まではなかったのにこの前行ったら出来てた!」

「……そこ、ツタとかがいっぱい絡まってたりした?」

「いや!すっげえ冷たかった!壁も空気も全部!」


ギンジ君の言葉を聞き終わったマゼンタさんは、なんだか怖い顔をしていました。何かブツブツとつぶやいています。


「…トキワかと思えば…あんたはお呼びじゃないのよシアン……」

「ん?なんか言った?」

「いいえ、何もないわ。じゃあ行きましょうか」

「え!?いいんですか!?」


マゼンタさんはこういうのにはあんまり興味が無いと思っていたのでびっくりです。


「ええ…まあ普段は行かないわね。でも、そこに探し物があるかもしれないの」

「そうなんですか?よかったですね!一体どんなものなんですか?珍しい薬草とか……?」

「いえ…どちらかといえば、兵器に近い、かな」


マゼンタさんはそう言って悲しそうに笑いました。

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