怨恨
死を背負う二人の少女の話です。
正気を削りながら見てください。(特に後半)
「……ねぇ、オオカミさんはね?童話の中では力と欲に塗れた悪役として暴力を振るうわよね?」
その少女はまるで自分が友達か何かと話すかのように言葉を紡ぐ。そしてそれが自然だ。少女については。
「でも現実は違うわ。現実ではオオカミさんは貴族さまが狩りをする時の獲物として飼われていたり、お犬さんと子供を作らせて従順なオオカミさんにしようとしたりしてるらしいわ。何でお話にするくらい怖いものを飼い慣らそうとするのかしらね?不思議ね?」
その少女の真横にはまるでたった今何かを切り刻んだかのように鮮明な血糊が付いた戦斧が刺さっており、少女の手がその取っ手に触れていることから彼女がそれの使い手であることが分かる。
さらにその凶器の大きさは少女の身の丈ほどもあり、それを慣れた手つきで扱う光景は非常に滑稽さを醸し出していた。
しかし最も少女のお喋りに似合わないのはそれではなく、少女を取り巻く光景だ。
一言で表すのならば、地獄絵図。
元は自然がたっぷりと感じられる豊かな森であったが、今はその全てが赤黒く染まっている。そして色々な種類の草木の中に混じって骨の飛び出した明らかに人外の物である腕や足、挙句には頂点から見るのも憚られるような物が飛び出ている、やはり人外の頭部などが幾つも散らばっている。
その頭部の中の一つが、誰にともなく話し続ける少女に向かって流暢な言葉を発した。
「……赤頭巾…貴様の事は我々のボスに報告した。直ぐにでも貴様を殺しに我らの同胞が大挙してやってくるだろう……」
「あら、あなたはまだ生きていたのね…なら一つ聞くわ。茨姫って知ってる?知っているならここで苦しむ間も無く殺してあげるけど?」
その言葉に僅かに考える素振りを見せた人外は、暫し後に否の言葉を発した。
「…知らんさ…まあ、そう言っても信じんだろうがな…」
「当たり前ね。でも私は優しいから今直ぐに殺してあげるわ。感謝して欲しいわね」
「ああ。感謝するよ…今でも少し気を抜けば恥も外聞もなく叫んでしまいそうでね…」
そう言ってくくと笑う人外の表情からはそのようなことは読み取れないが、その額には確かにびっしりと汗が浮かんでいた。
「まあそうでしょうね。じゃあ、さよなら」
少女はそう言って生物を殺すための加工をなされた鉄塊を持ち上げる。
「……ああ、少し待て。一つだけ言っておくことがある」
「何かしら?」
「地獄に落ちろ、クソアマ」
「……そうね、私もそれを願ってるわ」
ばちゅん、という音が辺りを満たした。そしてそれ以降はそこには何の音もしなかった。