表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
“Kiss to Freedom”  ~世界で最後の聖夜に、自由への口付けを~  作者: 夏空海美
Chapter3:Kiss to you , because Kiss to me.
85/187

第74話:『古雅の帰服』と『大悟の俯仰』

「それじゃあ気付くべきで気付いてないのは、舞人と惟花だけっていうことか」


「でもあの子たちは愚鈍じゃないわよ? 惟花はもちろんだけど、舞人もね?」


「じゃあまだ幼いんだろ、舞人と惟花はね」


 友秋くんはチョコチップクッキーの封を、横に裂きます。びりっと。


 舞人は甘い物が好きでした。


 未だに舞人は、チョコチップクッキーを愛食しているんでしょうか?


 ……でも舞人が、クッキーを食べていない姿を想像できないよなぁ……。


 友秋くんが両頬を上げてしまう中で――、


「――友秋。お前は、俺たちの味方だろ?」


 怜志くんがいつにないほど心血しんけつが注がれた眼差しを、送り込んでくれました。


「それはわからないよ。お前たちの考え方によっては、敵になることだってある」


「――じゃあお前は、誰の味方をするつもりなんだ?」


「いわなくてもわかるだろ?」


「じゃあ俺たちが敵対する必要なんてない。味方であるべきだ」


「それは無理だ。あくまでもあいつの望みを叶えるなら、敵になるかもしれない」


「――あの人のためだけに、今度こそ世界の全てを壊してあげようってこと?」


「少なくとも俺はそう思っている。――それがあいつが最後に抱いた望みならな」


「でもそんなのは本当のあいつの望みじゃないだろ。確かにあいつもそういう結末を望んだなのかもしれない。でも今ならあいつの望みを叶えるための――別の可能性だってあるはずだ。それでたぶんそれこそがあいつにとっては。本当の望みだよ。あいつが望むのは、いつだって同じだったはずだ。自分の愛する家族を守りたいだけだよ。――だからお前は許せないだけだ。あいつを殺した世界をな」


 怜志くんは明哲めいてつでした。彼が空気に触れさせた言葉は、全て図星なんでしょう。


 友秋くんだって、どうして親友が世界を壊そうとしたのかは、気付いています。


 ただ愛する家族を守りたかっただけしょう。


 しかし今は世界を壊さなくても、彼の家族を守れる未来に望みがあります。


 だからそれがベストなはずなのに、ベターな世界破壊を望む自分がいました。


 友秋くんは親友のことを愛しているからこそ、恐怖があるのです。


 今は最善の選択しても、将来的にはまた彼のことを傷つけてしまうのではと。

 

 それならもう何もなき虚無の世界を作り出すのが、1つの答えのはずなのです。


「友秋」


「なんだよ」


「力を貸してくれ。この通りだ」


 友秋くんは思います。


 むしろ怜志くんのほうこそ、この世界に対しては制裁を加えるべきなのだと。


 こんな世界のせいで彼は、自分の大切な物を幾度も失ってしまったのですから。


 それでも怜志くんは、こんな世界を救おうとします。


「自分の兄」と「兄の婚約者」と、「2人の愛の結晶」のためにでしょう。


 当たり前のように幸せな家族生活を、怜志くんは3人にさせてあげたいのです。


 世界を再構築した後に綻びが現われようと、ただ3人の幸せを望むのでしょう。


 怜志くんも友秋くんも願っているのは、思い人の幸せだけです。


 未来に光りがみえているかみえてないかが、お互いの差なんでしょう。


「やめろ、怜志。お前が頭を下げる必要なんてない。今すぐに上げてくれ」


「じゃあ私が下げるわ。むしろ今は私のほうが下げるべきだから」


「やめろよ、静空も。お前たち2人が頭を下げる必要なんてどこにもない。――そもそも俺たちは友達だろ? じゃあそんな顔で頭を下げるのなんて、反則だ」


「なら舞人と惟花に全てを話して、あの2人から頭を下げられればいいのか?」


「そういう事をいっているんじゃないよ、俺は。――それにそもそもあの2人に必要以上の動揺を与えるのは危険だ。舞人はもちろん惟花がどれだけの力を持っていると思っている? あの2人が力を合わせれば、世界は灰色にもなりかねない」


 苛立っているとは、自分の頭でも理解できました。


 しかし自分は何に対して、こんなにも苛立っているのでしょう?


 親友を殺した世界でしょうか? 


 親友の大切なものを何1つ守れなかった、自分自身に対してでしょうか? 


 それとも親友への誤解を抱き、彼を嫌悪する青年に対してでしょうか? 


 わかりません。わかりません。わかりません。


 空虚が胸を貫くのみです。


「俺たちだってお前の気持ちはわかるよ。確かに舞人のことは憎いだろ。でも舞人の気持ちだってわかってやれ。舞人は何も間違ってないよ。間違っているとしたら――この世界だけだ。なのにお前まで舞人のことを憎んで――何になる?」


「別に俺は舞人のことを憎んでなんていないよ」


「本当に憎んでいたら、ずっと前に殺しちゃえばいいだけだもんね?」


 さすがに静空ちゃんの言葉も外面自体は、戯れがありました。


 でもその戯れの奥にある明確な覚悟を、鼓膜ではなく肌で感じます。


 舞人に危害を及ぼす存在がいるのなら、理性なんて切り捨てる覚悟でした。


 あの時の張り手はまだ舞人にも悪気があったので咎めませんが、何か友秋くんにも悪い面があったりしたら、静空ちゃんは遠慮なく報復してきたのでしょう。


 静空ちゃんも怜志くんと同じく、舞人のことが可愛くて仕方がないようです。


 2人とも舞人のことを、自分の”子供”のように思っているのかもしれません。


「どのみちこの世界を救うためには、お前の力が必要なんだ。お前が最後まで舞人の味方をしてくれない限り――本当の意味で俺たちはあいつを救えないと思う」


「もちろん俺は舞人の味方だよ」


「――最後の最後まで、舞人の味方をできるのか?」


 一世一代の決断を強いるような声色を、怜志くんは押し当ててきました。


 友秋くんも2人と友達だからこそ、無責任な発言はできません。


「大きくなったよな、舞人。すごく久しぶりに会ったけどさ。しかもいつのまにか、あいつとそっくりになってるんだ。何かの手違えで蘇ったのかと思ったよ」


「いつも一緒にいるとそう感じないけど、遠くからみると――そう感じるのよね」


「でも俺たちはいつも舞人と一緒にいたからこそ、内面の成長だけは誰よりもみてきたよ。――惟花はもちろんだけど、瑞葉や奈季も付きっ切りで舞人を育ててくれていたからな。お前だってそれが誰のためなのかは、わかっているんだろ?」


「……あいつらは馬鹿なんだろ。でもそういう馬鹿は俺は嫌いじゃないけどな」


 図らずもここでお昼頃の舞人と今の友秋くんの台詞が、重なりました。


 怜志くんは宙へと、微笑みを刻みます。


 そんな中で怜志くんの記憶の水面から、ぱちんっと水泡が弾けました。


「そういえば夢に出たか――友秋は?」


 長嘆したくなるほどに抽象的な表現ですが、この面子には十分すぎます。


「――出たのか、怜志と静空の中には?」


 怜志くんの問いかけに友秋くんは、即答するほどの「嬉しさ」をみせました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ