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“Kiss to Freedom”  ~世界で最後の聖夜に、自由への口付けを~  作者: 夏空海美
Chapter2:Kiss to hell,because Kiss to heaven.
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第65話:『星月夜の島々』と『郷愁の福音』

「でもさ、桜雪お姉ちゃん?」


「?」


「桜雪お姉ちゃんはさ、サンタクロースさんって本当にいるって知ってた?」


「えぇ。それは知っていましたよ。サンタクロースさんはいますからね。本当に」


 なぜか桜雪ちゃんは、サンタクロースにときめきを感じる一面がありました。


 すっかり心が汚れてしまったはずなのに、未だに純粋なところはあるようです。


 でも兄としてはそんな桜雪ちゃんの一面は、嬉しかったのかもしれませんが。


「じゃあやっぱりサンタクロースのおじさんは、鹿さんに乗ってるの、美夢?」


「当たり前でしょ。――鹿さんはサンタクロースのおじさんの相棒なんだからね」


「でも鹿さんも、美夢(デブ)がサンタさんじゃなくてよかったぁ」


「余計なお世話よ、園美そのみ


「でも美夢ちゃんはサンタさんじゃないのに、どうしてそんなに太ってるの?」


「別にいいじゃない! サンタクロースじゃなくても太っていたって! あなたちは太っている人たちが全員、サンタクロースの仲間だとでも思っているの!?」


 子供たちは一斉に、「うん!」と頷きました。


 これに美夢ちゃんは呆れながらも、デブとサンタクロースの違いを熱弁します。


 智夏ちゃんはそんな右隣の美夢ちゃんを、とても暑苦しそうに扱う中で――、


「でも智夏ちゃんはさいい子さんじゃないのに、サンタさんは来てくれるの?」


 美夢ちゃんと同じく子供たちから、手痛いところを突かれてしまいました。


 しかしこんな智夏ちゃんを、いつも手助けしてくれるのは――、


「もちろん来ますよ、あやちゃん! 智夏はとてもいい子ですもん! クリスマスの日の智夏はプレゼントを入れる靴下を、わたしの分も用意してくれます!」


 冬音ちゃんによる智夏ちゃんとのラブラブトークが、子供たちにはウケました。


 智夏ちゃんと冬音ちゃんの周りの少女たちも、すごく楽しそうにします。


「でもさ、怜志? サンタクロースの太ったおじさんって どこから来るんだよ」


「それは仮にもサンタクロースなんだから、『魔法の世界』からだろうな」


「じゃあその『魔法の世界』って、どこにあるの?」


「――ちゃんと秘密を守れるの、文夜ふみよ?」


「うんっ! 守れるよ、静空お姉ちゃん!」


「じゃあ特別に教えてあげるわ。――クリスマス・イブのみんなが寝た頃にね、1つの大きな大きな島が夜空に浮かぶのよ。それで鹿さんに乗ったサンタクロースさんたちはそこからたくさん現われて、寝ているみんなにプレゼントを届けるの」


「……すげぇ。サンタクロースって人間じゃないのかよ! じゃあそんなサンタクロースと友達の舞人って、いったい何者なんだよ! 奈季はよく舞人のことを本物の宇宙人だっていっていたけどさ、マジで宇宙人だったりするわけ!?」


 奈季くんは舞人のことを馬鹿にする意味で、宇宙人だと吹き込んでいたのでしょう。再会をしたら彼をぶっ飛ばす理由が、また舞人には新しくできました。


 そしてそんな中で1人黙考をしていた、賢さが光る名探偵の少女が――、


「じゃあロザリアだ! ロザリアが、サンタクロースさんの正体なんでしょ?」


「えぇ!? 余がサンタさんのはずがないわ! それだけはありえないわよ!」


「だってわたしはさ、珍しいサンタクロースさんはプレゼントと一緒にアイスをくれるって聞いたことがあるし――クリスマスの日の鹿さんがね、『めぇ』って羊さんみたいに鳴くのを聞いたことがある女の子も知ってるもん! それに何よりも舞人は、『サンタクロースさん』ともお友達だっていったんだし、ロザリアで決定!」


「そそそ、そんなはずがないわ! そそそ、それはありえないわよ!」


「やっぱりロザリアが怪しい! だってジュース噴き出してるもん! それにシェルファちゃんなら鹿さんにもなれるし、やっぱりロザリアがサンタさんだ!」


 名探偵の幼女に指を差されたロザリアは、グラスを持ったまま石化しました。


 シェルファちゃんはロザリアのポケットから小さなメモ帳と赤ペンを取り出すと、メモ帳から綺麗に紙を破って、鹿さんとしてのサインを書いてあげます。 


 ロザリアの困り事は幼女シェルファちゃんにとって、蜜の味なんでしょう。

 

 子供たちはシェルファちゃんのサインに、目一杯はしゃいでいました。


 これには料理屋のお姉さんも頬を緩ませます。


「でもさ、冬ちゃん? 冬ちゃんはさ、クリスマスに何をお願いするの?」


「わたしですか? わたしはみんなと楽しいクリスマスを過ごせれば十分です!」


「え~。大丈夫だよ、冬音お姉ちゃん。そんなことは気にしなくてもさ。私たちはどこにも逃げないもん。冬音お姉ちゃんだって、どこにも逃げないでしょ?」


「もちろんわたしはどこにも逃げませんよ! いつもみんなと一緒です!」


 舞人の背中からは、冷たい汗が落ちていきました。


 お馬鹿な冬音ちゃんが、余計なことを口走らないか、緊張が走ったからです。

 

 混乱状態の心臓を落ち着けるために、勢いよくオレンジジュースを飲むと――、


「でもさ、もう大人の怜志と静空は、クリスマスプレゼントをもらえないんだろ?」


「んっ。まぁそうだなぁ。サンタクロースのおじさんだって、いつまでも俺や静空たちにまでプレゼントを送っていたら――いくらなんでも疲れちゃうしなぁ」


「……可愛そう……」


「可愛そうじゃないよ、いっくん」


「???」


「――だってね、そのぶん怜志や舞人たちは、惟花お姉ちゃんや静空お姉ちゃんからプレゼントをもらうんだよって、瑠璃奈お姉ちゃんは教えてくれたもん!」


「楽しそう!」


 いっくんは素直な少年でした。こんないっくんの素直さをみて、大切な何かを桜雪ちゃんに思い出してもらいたいと思うのは、舞人のエゴなんでしょうか?


「じゃあ桜雪お姉ちゃんはさ、何をお願いするの?」


「わたくしですか? わたくしは大きなテディベアが欲しいですね。寝ている時にいつも美夢が近くに寄ってきて鬱陶しいですから、そのための盾のためとして」


 美夢ちゃんの寝相に対する桜雪ちゃんのお断り具合が、笑いを誘いました。


 美夢ちゃんと舞人が笑いの種になることは、どの世界でも共通のようです。


「でも美夢お姉ちゃんがすぐ隣で寝ていてくれたら、暖かくて最高じゃん!」


 という少女の指摘には、舞人も素直に頷けました。惟花さんでも保温効果は十分ですし、ぽっちゃりしている美夢ちゃんなら、その効果は二倍増しでしょう。


「ロザリアの欲しい物はね、もうわたしはわかるよ? 世界中のアイスでしょ?」


「!!! どうしてわかるのよ、古都ことちゃん! 頭よすぎるわ! 天才だわ!」


 ロザリアはお世辞なんかじゃなく本当に、古都ちゃんを天才だと思っているようでした。ロザリアがアホちゃんなのか古都ちゃんが名探偵なのかわかりませんが、この場合はどちらも正解というのが、もっとも正しい答えかもしれません。


「じゃあ惟花お姉ちゃんはさ、サンタクロースさんに何をお願いするの?」


『……え~と。わたしはオカリナかな?』


「だってさ舞人。ちゃんと用意してあげなよ。惟花の彼氏なんでしょ?」


「――欲しいオカリナが、ぼくの全財産で買えるかを聞いてくれよ。頼むよ」


「欲しいオカリナが、300円で変えるのかって、舞人が――」


「そんな大胆に聞かないで、多少はカモフラージュに包んでくれよ!」


 こうして和気藹々と、時間を過ごせたおかげでしょうか?


 食事が運ばれてくるまでの時間は、あっという間に感じることができました。

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