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“Kiss to Freedom”  ~世界で最後の聖夜に、自由への口付けを~  作者: 夏空海美
Chapter2:Kiss to hell,because Kiss to heaven.
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第60話:『悠遠たる美女』と『幽遠たる迷宮』

 基本的に料理屋のお姉さんも、舞人のことは溺愛してくれていました。


 お化けたちにとって舞人は、何かが魅力に映るのかもしれません。

 

 彼女は惟花さんのための舞人の右隣の席に座り、優しく頭を撫でてくれます。


「舞人?」


「何、お化け?」


「今回の夕食はただでいいわよ。あなたは可愛いところしかないからね」


「うわぉ。お金がなかったから助かるよ、お化け! 智夏さあいつご飯奢ってあげるよっていったらぼくが貧乏なの知ってて、馬鹿みたいに高い料理を注文するんだもん。――『お父様とお母様と同じ食べ物なら、わたしはなんでもいいです!』なんていう冬音が、女神のようにみえたね。――でもだからありがとう、お化け」


「お化けお化けって、失礼な子ねぇ。いい加減にその呼び方やめなさいよ」


 ケーキよりも分厚い魔術書を読み耽っていた料理屋の美女は、カウンター席から舞人たちの方へと移る時に、赤ワインが入った瓶とワイングラスを持参しました。


 でももちろんそれらは舞人たちのためではなく、自分のためのものです。


 まだ店仕舞いもしてないのに、ワインを嗜むつもりなんでしょう。


 お店の切り盛りをしている人がこれです。繁盛なんて夢のまた夢でしょう。


 彼女は舞人たちに向けて乾杯をしてくれたあと、ワイングラスを傾けます。


 そしてさも当然のように、舞人たちの料理を御つまみにしていきました。


 普段からただ飯を食わせてもらっているので、さして文句もいえませんが。


「でも『お化け』ってあだ名は、舞人にとっては親愛の証なんだろ?」


「舞人くんは惟花ちゃんのことまで、『お化け惟花』って読んでるからね?」


「まぁ。それは嬉しい。確かにあの子も五年近く立っても、変わらないからねぇ」


「やっぱりお化けは、惟花と知り合いなの?」


 料理屋のお姉さんは舞人のスプーンを使い、半熟オムライスまで頂きました。


 自分自身で作った料理を、まるで料理評論家のように自画自賛したあと――、


「そんな馬鹿な。――もしも知り合いなら、あの子が何かいうでしょ?」


「――でもお化けは魔術師ならさ、少しぐらいは惟花の話しを何か聞いたりもしないのかよ。惟花が今の状態で、年齢不詳まで生きれたはずがないんだけどなぁ」


「やだわぁ、この娘。惟花のためには一生懸命になって。やっぱり好きなの?」


「わからない。ただ惟花には借りがあるから、その借りを返したいだけだよ」


「またまた照れちゃって。舐めちゃいたいぐらいに舞人は可愛い」


「別にぼくは照れてないよ。本当にぼくは惟花にはそういう感情しかないもん。確かに惟花は優しくしてくれるから嫌いではないけど、別に好きとかではないよ」


 今の舞人は本当に、照れ隠しなんかをしているわけではありません。


 この頃の舞人にとって惟花さんは「異性の女性」というよりも、ただの恩人でしたから。とある理由から舞人は、他人を愛する感覚を忘却していたのです。


 でもだからこそ舞人が惟花さんを1人の女性として意識するためには、とても大きなステップを踏みことが必要となるのですが、またそれは別の話しです。

 

 舞人にこんな記憶が戻ったのは、この飲食店の中に入った時ではありません。


 飲食店にある定位置の座席へと座ったのが、スイッチとなったのです。


 このお店の構造は、とても単純なものでした。


 自他共に認めるほどに、背ばかり大きくなった舞人では頭をぶつけてしまうような高さの入り口が1つだけあり、そこから左側にみえるところに8席のカウンター席があって、右側に4人掛けのテーブル席が5つ置かれているだけでした。


 舞人が好んだのは入り口から考えて、一番奥のテーブル席です。


 入り口に背中を向けるのではなく、顔を向けることをより好みました。


「うわぁ! 舞人! どこに行っていたんだよ! 今日さ舞人のところに野球しようよって誘いにいったら、怜志たちがね舞人は出かけているっていうんだもん! 俺びっくりしたよ! いつも部屋にいる舞人が出かけているんだもん!」


「でも舞人は早く帰ってきてくれてよかったぁ」


「瑞葉と奈季はさ大切な用事があるから、もう少し帰って来ないんでしょ?」


「お土産は、舞人! どこかに出かけてたならさ、お土産を買ってきてくれた?」


 いつからだったでしょうか? 料理屋のお姉さんが、他県で起きた紛争によって孤児になってしまった子供たちを、預かるようになってくれていたのは。


 彼女の庇護下には、およそ15人ほどの子供たちがいました。


 どこからか湧き出る財源を料理屋の美女は使って、近隣の建築物を買い占め、それらを一軒の民家に作り直し、子供たちの居場所を作ってあげていたのです。


 暗鬱としていた路地裏の空気も、子供たちの笑い声のおかげで、だいぶ明るくなりました。しかし相変わらずお店の常連のお客さんは、舞人たちだけです。


 子供たちには《お化け屋敷》と呼ばれていましたが、とても的確でしょう。


 とはいえいくらお化け屋敷の美女でも、15人という数の子供の面倒を1人でみれば、さすがに疲れてしまいます。だからみんなで、その役割を分担しました。


 子供たちのことが大好きな怜志くんや静空ちゃんはもちろん、舞人や惟花さんや果てにはあの智夏ちゃんまでも、子供たちの遊び相手になってあげたのです。


 バラエティーに富んでいる面子だけあり、子供たちもよく懐いてくれました、


 でも舞人は知っています。


 子供たちがこうして笑っていられるのも、全て料理屋のお姉さんのおかげだと。


 彼女がお母さん代わりになってあげているのは、もちろんですが――、


「責任のない悲しい過去を乗り越える必要なんて―ー誰にもあるはずがないわよ」


 と彼女は考えていたので、「辛い記憶」の消去を行ってあげていたからです。


 でもそれに対して舞人も異論はありません。


 大切な家族との思い出を胸に抱いたまま、子供たちにとって「悲しい過去」だけを忘れられ、また新しい生活にも適応してくれるのが、何よりのはずですから。


 じゃあそもそもなぜに今の舞人たちが、この料理店を訪れたのかというと、それは話すと長くなってしまいますが、話さないと何も始まらないので話しましょう。

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