第2話:『白き悪魔』と『黒き海』 ②
さすがに負なる者にも龍人や歌い子という分類はあるようですが、どうやら彼らはみな同じ力や歌声というわけではなく、固有の魔法や歌声を持つようでした。
仮にいま光りの都を支配する負なる者のうちおよそ8割が歌い子で残り2割が龍人としましょう。するとどれだけ少なく見積もってもおよそ“5万人以上の黒き影の龍人”がこの光りの都の中心域だけでも存在するということになりました。
お互いの質という点ではさすがに舞人が圧倒的に優勢ながらも、数という点では舞人のほうが圧倒的に劣勢だからこそ、舞人のわずかな思考の時間さえも奪い去るようにして黒きドレスの少女は左斜め背後の上空から影を落として来ます。
反転すると同時に白き刀も振るっていた舞人は刀の先端から紡いでいた白い糸を離れの教会の尖塔へと撒きつけて飛翔し、少女のことをかわそうとすると――、
「……!」
まさかこの少女は一瞬一瞬を“確かな時間”として感じ取れるのでしょうか?
すでに空中に身があった舞人にも少女は即応し、黙って見惚れていれば心臓を突き破るような勢いで放たれた黒き細剣を、舞人は柔軟な身のこなしで回避します。
それでも少女の黒きレイピアは舞人の左肩から白き鮮血を迸らせました。
舞人の頬からは苦笑いが零れてしまいます。
舞人の左腕が一時的にも不自由になったこの展開を少女が見逃してくれるはずもなく、手負いの舞人に今度こそ止めを刺すために再接近してきたので、今度こそ舞人も少女の全てを白き血で感じようとします。彼女の全てを上回るために。
それでもやはり少女は“瞬間の女王”でした。
舞人が振り上げた白き刀と交錯するはずだった漆黒のレイピアの速度が急激に低下したのです。まるで少女が”漆黒のレイピアを一瞬だけ引き戻した”ように。
当然舞人の白き刀は空を切ってしまいました。
そしてそんな白き刀の下を黒きレイピアがくぐってきます。
握り潰されているように右肺が痛みました。上手く呼吸ができません。
それでもそんな舞人よりも痛ましい人物がこの場にはいました。
「ごめんね。でもたぶん君が世界の理に縛られる限り、ぼくの敵ではないのかな」
少女が舞人の右肺を貫き抜いたのと同時に、反撃するように舞人の左腕付近から具現化されていた純白の鎌。それが少女の影なる身体を切り裂いていたのです。
左肩でした。
最初に切り裂かれた左肩から舞人は白き鎌を作っていたのです。伏兵として。
「……だけどマジで数が多すぎるな。これじゃあさすがにらちがあかないよねぇ」
さすがの舞人も改めて実感をした現実に顔色が曇ってしまう中で――、
「……!」
背後から“全身の細胞を恐怖させるような咆哮と威圧感”が届いて来ました。
舞人の白き髪と白き外套が熱気のようなものによって激しく煽られます。
「……えっ……。……もしかしてあれってドラゴン……?」




