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“Kiss to Freedom”  ~世界で最後の聖夜に、自由への口付けを~  作者: 夏空海美
Chapter2:Kiss to hell,because Kiss to heaven.
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第38話 『女神の微笑み』と『王たる器』

「それでどうする、舞人? 誰が高崎にいる、『異端者たち』を救出しに行く?」

 

 この場では舞人以外の唯一の男の子で、最古参の信徒でもある怜志くんが、視線を注いでくれました。紅葉のような穏やかさが、怜志くんの瞳にはみられます。


 舞人にとって怜志くんは、お兄ちゃんのような存在でした。


 辞書のように物知りだった怜志くんは幼少期の舞人に、五百いおの物事を教示してくれましたし、退屈ばかりしていた舞人をいろんな場所に遊びに連れていってくれて、すぐに金欠になる舞人にも、必ずお金を貸してくれる聖人でしたから。


 そんな怜志くんに対して、舞人が抱いている率直な印象としては――、


『でも怜志も瑞葉や奈季みたいに、一生懸命なやつだなぁ』


 というものでしょうか? 


 瑞葉くんのところに居候をするくせに舞人が、『能ある鷹は爪を隠すんだよ、君たち!』ということわざで理論武装して、労働なんてよしとせず、『昼間からふかふかのソファーにふんぞり返って、エッチな本の品評会を1人でしている』中で、怜志くんはそんな舞人とは対照的に幼い子供たちの遊び相手になってあげたり、少しでも子供たちが多くの幸せを傍受できる世界を、作ろうとしていましたから。


 ある時に舞人が、その理由を当人に聞いてみたら――、


「んっ? それはそもそも俺は子供たちのことが嫌いじゃないから、何かしら力になってあげたいのかな。舞人に対する感情と同じだよ。――それに俺たちの夢を叶えてくれる女神様は、誰かのために一生懸命な人に微笑んでくれるらしいからさ」


「むむ。そんな胡散うさん臭い話しは誰がいってたんだよ? 瑞葉か?」


「瑞葉や奈季でもない――俺の知り合いだよ」


「……なんだよ、それ……。……めちゃくちゃ胡散臭いなぁ……」


「舞人はろくな努力をしなくても、惟花と出会えたからな?」


「……うるさいよ、馬鹿……」

 

 しかしこんな舞人も怜志くんの生き方に触発をされて、愛する惟花さんと娘たちを幸せにしてあげるために、努力をしようと考えました。幸せといったら愛情を注いであげることはもちろん――お金です。居候では話しになりません。舞人は自分のセンスを存分にいかすために、プロ野球選手になろうと考えました。超人者が集合する現在のプロ野球界でも、自分なら通用するはずと考えたからです。


 気が向くと舞人は野球道具を持ち、瑞葉くんや奈季くんはもちろん惟花さんや桜雪ちゃんや愛娘たちを連れ、宇都宮市にあるドーム球場へと向かいました。


 そしてそんな後ろ姿を発見した子供たちに――、


『あっ! こんにちは、舞人! ――今日は珍しくエッチな本をみてないの?』

 

 と公衆の面前で恥をかかされるのも、ある意味では自業自得だったでしょう。


「……えぇ。ぼくが決めるの、それって?」


「何をとぼけているのよ、あなたは。舞人以外に誰がいるの? 『何かあった時はよろしくお願いね』って、瑞葉から頼まれていたのは舞人でしょ? そもそもこの街にいる人なら、舞人が上に立つことにだって文句は出ないから、大丈夫よ」


「……でも……」


「誰にも指示されずに戦場の最前線で戦って、一言も文句をいわずに自分たちのために命を張ってくれるリーダーなら、どんな過去があっても拒否するどころか――みんな万々歳で迎えてくれるわよ。この街にいる人たちは賢いから、『清廉潔白な人間なんてこの世に存在しない』ことも、ずっと前から知っているからね。―ーだからみんなが求めているのは、『光りしか知らない完璧なリーダーじゃなくて、光り以外の汚い世界も知っていて、そこから這い上がった完全なリーダー』なのよ」


「……」


「それにそもそもこの街の人は舞人を信じているのよ。自分の手で泥を被ったんじゃなくて、誰かの手で被らされたんだってね。今まで舞人はこの街の人のために尽してくれたから、みんなからしてみればその恩返しのつもりなんだろうけどね」

 

 舞人は静空ちゃんとも随分と長い付き合いです。


 怜志くんとも匹敵する長さでしょう。


 もしもお姉ちゃんという存在が自分にいたならば、静空ちゃんのような存在だったのかなと思うぐらいに――静空ちゃんは舞人のお姉ちゃんになってくれました。


 どこぞやの惟花様のように一挙手一投足みていて、1つの行動ごとに助言してくれる愛情にも感激してしまいますが――普段は遠くからみてくれていてながら、困った時は必ず傍で支えてくれる静空ちゃんのような愛情も、とても感動的でした。


「それにわたしたちの司教様はさ、もしもいつか自分たちに何かあった時は――」


「舞人くんについていくようにって、耳にたこができるほどいっていましたから」

 

 上位の歌い子の歌恋かれんちゃんと蛍子ほたるこちゃんが、最後にこう押してきます。


 ちなみにですが歌恋かれんちゃんは――、


『機械的に生きる人よりも、より“人間”らしく生きる人を好む』


 少女ですし、蛍子ちゃんに至っては――、


『自分自身のことが大好きだからこそ、自分の感覚を何よりも信じる』


 少女なので、舞人の事も特に咎めずに、接してくれているのでしょう。


「……でもぼくは――」


「――もしも舞人が俺たちに教えてくれたことが本当だとしても、今はそれを理由にして舞人を恨むつもりはないよ。……だからって奈季や瑞葉たちの考えが間違っているわけではないんだろうけど、舞人のことを信じて今まで通りに接するのが俺たちの1つの信念だからさ。――俺たちもその時のことを詳しくしらないけど、少なくとも舞人は正しいと思って行動していたんだろ? じゃあそんな自分を嫌ってやるなよ。過去の自分を慰めてあげれるのは、舞人しかいないんだからさ? ――舞人が自分を認めてあげなかったら、過去に頑張った舞人は悲しむだろ?」


「それに舞人がトップにしたそうな惟花は、舞人にそうなってもらいたそうよ?」

 

 舞人と惟花さんが揃うと、みんなも惟花さんとの思い出を脳裏に浮上させてくれました。舞人とよく知った間柄のみんなは、惟花さんとの関係だって同様です。


「……ごめん、みんな。迷惑かける……」


「まぁそれは御互い様でしょ、舞人」


「私たちが持ちつ持たれつの関係になるのは、今に始まったことじゃないしね?」

 

 舞人が抱いた本音は、本当に自分はいい友人を持ったなぁというものでした。


 そこだけは忘却した記憶の中の「自分」に、感謝をすべきなのかもしれません。

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