第23話:『神身の王者』と『神具の王者』
もしかしたら舞人も、覚悟はできていたのかもしれません。
自分が過去に犯した大罪が、瑞葉くんたちにばれてしまうかもしれないとは。
確かに舞人は利己的な考えのためだけに、「何百人」ではきかない罪なき子供たちを殺しました。彼らの大半は弱き人々であり、社会から疎まれる理由を持ってしまっていた子供たちです。弱き人のために戦っている瑞葉くんや、金髪という容姿を持っている奈季くんが舞人に怒るのも、納得はできるのです。
だからこそ舞人も逃げたりはしないし、罪を裁かれる覚悟もできていました。
憎ければ、殺せばいいでしょう。
舞人はその裁きを全て受けても、なお生き続けるだけだから。
惟花さんです。
断罪を受ける前にどうしても舞人は、惟花さんに恩返しをしたかったのです。
惟花さんの幸福さえ保証できれば舞人は、「死」で償う覚悟もできていました。
しかし惟花さんを不自由にしたまま消え去るつもりは、毛頭ありません。
たった1つの願いを邪魔しようというなら、親友だろうと殺して進むだけです。
でもそんな時でした。
ずっと黙していた惟花さんが、我に返ったように口を開いてくれたのは。
『――ねぇ舞人くんと瑞葉くんと奈季くん? いったんだけ落ち着こう? みんなにそれぞれ考えがあるのはわかるんだけどさ、いったんだけ落ち着こうね?』
「「「……」」
『――だって3人はさ一番の仲良しさんだったんでしょ? それなのにこんな風にいきなり喧嘩をしちゃって、みんなで傷つけ合っちゃう必要なんてないんじゃないのかな? ――こうしてみんなで傷つけ合っちゃたりしなくても、何か違う解決方法があるはずだよ。……もしなかったとしてもわたしがみつけてあげる』
「「「……」」」
『――実は舞人くんはね、瑞葉くんや奈季くんとすごく会いたがっていたんだよ? ……もしかしたら舞人くんはわたしなんかよりも、瑞葉くんや奈季くんに会いたがっていたかもしれない。――だって舞人くん、実はいますごく困っちゃってるんだもん。……知らない世界にいきなり飛ばされて、知らない世界でいきなり戦わされて、知らない世界でいきなり瑞葉くんと奈季くんとも戦わされちゃうなんて――そんなのさすがにあんまりでしょ? ――だから2人だけは舞人くんの味方をしてあげてもらえないかな……? ……わたしからもお願いだからさ?』
惟花さんは本当に馬鹿でした。
罪を犯した舞人に一生懸命になる必要はないのに、今にも泣き出しそうどころか泣き出しながら、奈季くんと瑞葉くんを説得しようとしてくれるのですから。
でも舞人にとっては惟花さんだけには、この話題に触れられたくないのです。
身体は止まるどころか、逆に動いていってしまいました。
「――惟花。お前は『幸せなる色』のことを知っているのか?」
「惟花さんは知らないよ。惟花さんはぼくと出会う前は、記憶なんて作れなかったんだ。お前だってそのくらいの事は知ってるだろ? しかもあれに惟花さんは関っていない。嘘だと思うならぼくの血を受ける。お前なら真偽の判定はできるだろ」
舞人は豪雨の中を切り裂くようにして、一滴の白き血液を白刀から飛ばします。
奈季くんが露出していた右手の甲へと、それは直撃しました。
「そうか。やっぱりお前は『幸せなる色』に関っていたんだな。そういうことだよ惟花。どう頑張っても俺は舞人とは仲良く出来ない。そいつは虐殺者だからな」
「……瑞葉くんは……?」
「ごめんね惟花ちゃん。僕ももう舞人くんとは仲良くしてあげれないかな。舞人くんが過ちを犯したのが事実なら、いくらぼくでもそれは許容できないし、それに友達だからこそ、舞人くんの罪を許してあげちゃうのは絶対にダメなんだと思う」
「……だからって何も、みんなのことまで見捨てる必要はないだろ……!」
「全ては理想のためだよ、舞人くん。この街のみんなを見捨てることも舞人くんが今の僕にとっては排除すべき存在なのも、僕の理想のためなんだ。この国には癌があるんだよ。それを排除できない限り、この国に平和は訪れない。癌を消すために舞人くんとみんなを切り捨てる必要があるなら――僕はそうするだけだよ。みんなが僕を憎んだとしても、僕はいっこうに構わない。後悔だけは絶対にしないから」
「……お前までぼくのことを、この世界の邪魔者だっていいたいのかよ……!」
「みんなはどうあれ――舞人くんはそうかもしれないね」
涙が零れるという感覚を、いま舞人ははっきりと感じたのかもしれません。
絶対に瑞葉くんだけは裏切らないと信じていたのに、この発言なのですから。
舞人は疎外されることが、何よりも嫌いなのです。孤独を恐れていますから。
なのに親友2人まで異端者扱いして、世界から除外してこようとするのです。
何回やっても何回やっても何回やっても、変わりません。
親しくなった人たちは、いつもいつもこうして舞人のことを裏切ってきます。
その度に舞人は、強くなってきました。
しかし強くなって得たものなんて、何一つもありません。
大切なものを失った悲しみが、自分の心に残り続けるだけでした。
「ダメだ、惟花さん。こいつらは完全に口でいってわかる状況じゃない。どうしてもぼくのことを殺したくて仕方ないらしい。負なる者に乗っ取られてこの状態ならまだ救いはあったけど、至って正常な状況でこんなことをいっているんだから――どうしようもないよね。惟花さんが望む世界には、お前たちこそ邪魔者だよ。だからぼくはお前たちも殺す。遠慮なんてしない。惟花さんの敵は殺すだけだからな」
舞人の怒りに触発されたように、奈季くんの後方で落雷が発生しました。
舞人の一撃を後方飛翔で避けようとしていた奈季くんは、予定が崩れます。
取り繕いとして右手で刀を構えたところで、時すでに遅しでした。
舞人は初手でその刀を弾き飛ばすと、次の一手で奈季くんの胸元を捉えます。
白刀が無造作に振るわれました。
奈季くんの身体が、左下の路地へと叩きつけられます。地面が陥没しました。
誰も舞人に声をかけられません。
惟花さんも冬音ちゃんも瑞葉くんも名もなき少女も、沈黙を貫くだけです。
豪雨に打たれながら肩で息をする舞人が、かすかに目元を拭おうとしました。
そんな中で、どこかから悲鳴が聞こえてきます。
遥か背後には大聖堂側がありました。嫌な予感がします。
そして舞人が軽く後方を振り返る中で――、
『……えぇ!? ……ちょっとちょっと大変よ、舞人! ……反逆よ、反逆! ……一部の信徒たちが反逆をして、仲間割れを引き起こしちゃっているわよ! ……このままじゃ戦線なんて一気に崩されちゃうからね! ――ていうか風歌姉……! ……風歌姉までいきなり傍から消えちゃったよ、舞人お父さん……!』




