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“Kiss to Freedom”  ~世界で最後の聖夜に、自由への口付けを~  作者: 夏空海美
Chapter 1:Kiss to memory, because Kiss to lost.
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第21話:『神の領域』と『幸せなる色』

『この気配ってさ、瑞葉くんと奈季くんが来てくれているのかな、舞人くん?』


「だね。その通りだと思う。英雄の作法を心得ているようで――何よりだよね?」

 

 皮肉よりも先に微笑みが零れてしまったのが、今の舞人の全てかもしれません。


 何よりも嬉しかったのは、瑞葉くんと奈季くんが生存しているという事実でした。もちろん2人のことは信じていますが、最悪な展開も十分にありましたから。

 

 惟花さんの生存を確認できた時並みに、胸は高鳴ります。


 瑞葉くんと奈季くん合流できさえすれば、この戦いの勝利も確信できました。


 先ほどまでの倦怠感がうそのように、身体は動いてくれます。

 

 負なる者の増援はすぐに現われましたが、目まぐるしい勢いで舞人は破ります。


「お父様! 瑞葉お兄ちゃんが帰ってきてくれましたよ! すごく嬉しいです! 涙が出ちゃいそうです! 嬉しすぎて――おしっこが漏れちゃいました!」


「えぇ! 汚いわね、桜雪は! どうしてあたしに何か塗りつけてくるのよ!」


「ごめんなさい、美夢! 間違えました!」


「何と間違えたのよ!」


「何をってそれは、おしっこといえば便器でしょう。――美夢は阿呆ですか?」


「むかぁ! どうしてあたしだけにはさ、みんなで意地悪ばかりするの!?」

 

 疲労に染められていたはずの少女たちの声色にも、だいぶ弾みが戻っています。


「じゃあさみんな! このまま瑞葉や奈季と合流できたら、ぼくたちはこのままのポジションでもいいかもしれないけど、あの2人に両翼を守ってもらおうね!」


「えぇ、舞人! さり気なくあたしの役割を奪わないでよ! ナチュラルにあたしをいらない子扱いしないで! 一番傷付くから、本当にそれだけはやめてよ!」


「ごめん美夢。美夢にももちろん役割はあるよ。うっかり美夢の事を忘れていたんだ。美夢にはおとりをお願いできるかな? 君にしかできない役割だからね?」 


「ひどぉーい! 忘れてきたあげくにおとりをやれなんて、本当にひどーぃ!」


「だって美夢は構ってもらいたそうなんだもん。美夢的にはオイシイでしょ?」


「べ、別にオイシクはないわよ! ぜんぜんオイシクないから、本当にやめて!」

 

 とかなんとかいう美夢ちゃんが一番嬉しそうなのは、もう暗黙の了解でした。

 

 勝利への道筋がみえたおかげで、舞人たちも力の温存の必要はなくなります。


 全力を出してもいいという心理的安堵は、強く舞人たちを後押ししてくれました。先ほどまでの劣勢がうそにように、負なる者とも対等していけます。


『智夏! もう君もなんとなくはわかっているかな! 瑞葉と奈季が近づいてくれているから――風歌お姉ちゃんにはそのことを伝えてあげてもらっていいかな? ――ここまでくればあと一分でいいから、城壁の死守をお願いねって!』


『……はぁ!? ……本当にあの馬鹿が帰ってきてくれたの!?』


『うん。間違いないよ。どこからどう感じても、瑞葉の気配だからね?』


『……本当に!? ……そう。それなら本当によかったわっていうか――遅すぎよ、遅すぎ! 今さらちゃっかりと帰ってきても遅すぎなのよ、あの馬鹿は!』


『わかったわかった智夏ちゃん。智夏ちゃんは瑞葉が帰ってきて超喜んでたよってことを伝えておいてあげるね? ――それで怜志と静空! このままいけばぼくたちはなんとかなりそうだから、怜志と静空も城壁側の防衛に回ってあげてくれ!』


『了解。――舞人たちに問題がなさそうなら、俺たちはそうさせてもらうよ』


『でも舞人? 油断はしちゃダメよ? まだ何が起こるかわからないからね?』


『ありがとう静空。でも大丈夫だよ。――ぼくもそこまで初心者アマチュアじゃないからさ?』


 待ち望み続けた人物の登場によって、聖なる龍人は一気に息を吹き返しました。

 

 負なる者によって生み出されていた逆境さえも、怒涛の勢いで跳ね除けます。


「ぴったりだよみんな! このままいけばぴったり奈季と瑞葉と合流をして、敵の総大将とも遭遇できると思う! 合流でき次第、一気にあの子を討ち取ろう!」

 

 落雷を器用にかわしながら攻撃を打ち込んでいく舞人は、ただ目の前の敵を消し去ることだけに念頭を置いていました。近接攻撃を仕掛けてくる敵は白き刀で切り倒し、遠距離にいる敵は白き業火で焼き尽くすという戦法を徹底します。


『そろそろかな、舞人くん? 目の前にある負なる者の黒い壁さんを壊せたらね、あの子たちのボスさんにも会えると思うよ? ――さすがに今回は本物かな?』


「ありがとう、惟花さん。本当にいろいろと助かるよ。――じゃあ桜雪と美夢と冬音! 最後はぼくの援護に回ってくれ! ――任せたよ!」


 負なる者は、絶対に突破されてはいけない防衛線を死守するための陣形を生み出してきました。前方だけではなく全方位を、彼らによって制圧されてしまいます。

 

 一寸の雷光さえも漏れないほどの完全な暗闇を創生されてしまいました。


 負なる者は何十層という人間の壁を作り、舞人たちを完全包囲しているのです。


 白刀を松明たいまつ代わりにする舞人たちには、病を患うほどの視線が届きました。

 

 そんな負なる者に舞人たちが4人で背中を合わせ、相対していく中で――、

 

 先手だけは取られたくない彼らは、即座に集中砲火を行ってきました。

 

 暗闇だった世界が一瞬で、失明をしてしまうほどの光源に包まれます。

 

 そんな中で桜雪ちゃんは右手の中に眠る白き刀を、悠然と一振りしました。

 

 吹雪が創生されます。


 四方八方にいる黒き龍人たちへと、それは襲い掛かりました。

 

 接触すると同時に吹雪は彼らの攻撃を、強制的にキャンセルしてしまいます。

 

 そして後列にいた吹雪は、負なる者の本体まで届いていきました。


 直接吹雪を受けた龍人は身体が老化でもしたように、動きが鈍っていきます。


 さすがは舞人自慢の妹。百点満点の働きだったでしょう。


 余計な間なんて挟まずに次の攻撃役を、美夢ちゃんが引き受けてくれました。


 負なる者へと、民家の屋根や空気というものが牙をむいていきました。


 第七感の発動です。


 五感で感じ取れるものを自由自在に掌握できる力が、第七感の詳細でした。


 全ての物や空間は宗教的に全て「同じ物質」で出来ているからこそ、第七感を開けば、五感に知覚できるそれらと自身を一体化できて、自在に操れるのです。


 何十という槍の如き突起物が、石屋根や空気から生み出されていきました。

 

 多くの黒き龍人はそれに串刺しにされ、どんどん亡き者にされていきます。


 惟花さんの妹という贔屓を抜きにしても、美夢ちゃんの活躍は天晴れでした。

 

 しかし黒き龍人たちには「数の暴力」という、絶対的なものがあります。

 

 前線の龍人がどれだけ屠られようとも、銃後の龍人をすぐに補填してきました。


 攻撃をしても攻撃をしてもきりがないのです。ゾンビ以上に厄介な存在でした。


 次に舞人たち側の攻撃役を引き受けてくれたのは、冬音ちゃんです。


 数百の黒き龍人が第二陣目の攻撃を放とうとしましたが、舞人は焦りません。


 舞人たちを囲むようにして、4つの白き大砲が出現してくれたからです。東西南北に配置されているそれらは、冬音ちゃんの能力で生み出されたものでした。


「お父様とお母様と美夢と桜雪ちゃん。耳を塞いでください。心臓が大変です」

 

 冬音ちゃんから片言の警告が届いてきたので、舞人たちは従いました。

 

 確かに大砲からは、舞人でさえも耳を塞ぎたくなるような爆音が轟いてきます。

 

 砲弾が射出されたのでしょう。

 

 白き砲弾は逃げる暇さえも与えずに黒き龍人を捉えると、花火の如き音と光りで爆発しました。たった一度の爆発で、30人近くの龍人を巻き添えにします。

 

 各大砲からの発射音は5発ずつ。合計で20発の砲弾が放たれました。

 

 舞人がいうのもあれですが、やはり冬音ちゃんもとても優秀な存在でしょう。さすがは舞人と惟花さんの両者の血を引き継いでいる存在です。お見事でした。

 

 たった3人の少女の攻撃で、500近くの黒き龍人が数秒で消滅したのです。


 負なる者にも焦りが蔓延しました。


 何十層と黒き人間の壁を作ったところで、結局は一方的に攻撃をされるだけだと気付くと、ハイリスクな戦法を取ってきます。攻撃できる存在が全員で攻撃をして、味方への犠牲も厭わずに、ただ舞人たちを全滅させようとしてきたのです。


 数千を超える龍人から同時に襲撃をされれば、さすがの舞人たちも防戦一方になります。舞人が白き結界を周囲に張ってあげ、みんなを守るしかありません。

 

 でもこれほどの集中砲火では、運よく守りきれたとしてもたった数秒でしょう。

 

 しかし今はたった数秒でもみんなのことを守り抜ければ、十分過ぎたのです。

 

 舞人が薄く微笑んだ瞬間には、すでに勝負は決まっていたのですから。

 

 辺り一帯を覆う負なる者のそれぞれの後方から、純白の竜巻が襲撃しました。

 

 舞人の仕業です。


 そもそも桜雪ちゃんたちの先ほどの攻撃の狙いは、負なる者の殲滅ではなく、彼らの集中をこちらに集めることでした。彼らの意識が舞人たちだけに囚われた瞬間に、背後から竜巻を奇襲攻撃させるのが、今回の作戦だったのですから。

 

 警戒が皆無だった負なる者へと、この竜巻は壊滅的なダメージを与えました。


 白き結界が消えた舞人のすぐ正面に雷が落ちてくれたのが、全てでしょう。


 何千を超える負なる者を、一掃できたということです。


 落雷のその先には、ずっと捜し求め続けていた少女の姿も捕捉できました。

 

 豪壮な黒きローブを身に纏う彼女は、少女というよりも王女の風格です。

 

 彼女の周りには親衛隊としてか、やはり5人の龍人が控えていました。

 

 呼吸を早くさせるような威圧感が、流水の如く流れ届いてきます。

 

 息切れのようなものを、舞人は覚えてしまいました。

 

 乱れた息を整えるために、水のように冷たい空気を体内に取り込む中で――、


「遅いぞ、お前たち。英雄としても遅刻だし、友人としてはもっと遅刻だからな。今まで連絡の一つも寄越さないで何をしていたんだよ、お前たちは。……『迷惑はかけても、心配はかけるなよ』なんてことを、さんざんぼくにはいってきたくせに、自分たちでそれを破っているようじゃ、ざまあないね。――でもまぁまたこうして出会えて嬉しいよ。瑞葉と奈季が無事が一番なのは、間違いないからね?」

 

 やっとのことで瑞葉くんと奈季くんと、再会をすることができました。


 舞人自身でさえも、どれほどこの瞬間を待ちわび続けたかはわかりません。

 

 我知らずのうちに、笑顔も零れてしまいます。

 

 そしてそんな中で――、

 

 ……んっ? ……ていうかあの娘って、誰だろ……。……みたことないなぁ。

 

 真珠のように白き髪をしていて、赤のピーコートを着衣し、さらには黒と赤のチャックのミニスカートの見知らぬ美少女が、舞人の瞳へと入ってきました。


 絵画の世界にそのまま登場をさせても、なんら違和感がない美少女でした。少女の美しさは、人間が考える「美」というものを、具現化したようです。


 少女は奈季くんと瑞葉くんという2つの大きな気配に、隠れていたようです。

 

 快活的というよりは、どこか気だるそうな雰囲気を纏っている少女ですが、それは決して嫌味な感じではなく、むしろ少女の持つ魅力に拍車をかけていました。


 舞人にとって名も知らぬ美少女は、深く舞人へと視線を送ってきます。


 舞人としても反射的に、少女の瞳を見返すしかありませんでした。


 少年と少女の視線が、数秒間ほど交錯します。とても意味深に。


「――そうだな、舞人。俺もお前と出会えて何よりだよ。会いたかったからな」

 

 奈季くんはやっぱり奈季くんでした。何も変わっていません。金髪で長身で凛々しい面立ちなのはもちろん、神様なんてものを信じていない奈季くんは、ローブなども羽織っていませんでした。黒のデニムジャケットを身に纏い、白い水玉模様の紺色のシャツをインナーにして、ブラックデニムで下半身を覆っています。


 サングラスなんかをかけさせたら、『威圧感◎』だったかもしれません。


 舞人にとっての奈季くんは、かけがえのない友人の1人です。


 人間という生物を基本的には好かない舞人でも、奈季くんは別格でしたから。


 命を張っても守ってあげたいと思える、数少ない人物の1人だったでしょう。


 こうして奈季くんと再会をできて、嬉しくないはずがありませんでした。


 勝手に微笑みが零れてしまいます。


 でも奈季くんにはそんな舞人と違い、どこかシャイな面がありました。面とむかって喜ばずに、さり気なくはにかむのが、奈季くんなりの感情表現でしょうか。

 

 しかしどうして奈季くんは、あんな瞳を向けてくるのでしょう。

 

 敵愾心てきがいしんでした。

 

 舞人とはまったく真逆の感情を、奈季くんは向けてきたのです。

 

 親友の仇でもみるような瞳でした。

 

 奈季くんにこんな瞳を向けられたのは、舞人だって始めてです。


 奈季くんの瞳に宿る殺気は、負なる者のそれではありませんでした。

 

 まさしく正常な人間が抱く刃よりも鋭い殺気を、奈季くんは抱いていたのです。


「舞人。こうしてお前と出会えて話したいことは、俺だっていろいろあるよ。瑞葉だって山ほどあるだろうな。もちろん舞人だって話したいことは、無駄にたくさんあるだろ。――でもな舞人? その前に俺たちから、1つだけ聞いていいか?」


「……」


「なぁ舞人。『幸せなる色』って書いてなんて呼ぶか――お前は知ってるか?」

 

 舞人の両サイドで、落雷が発生をしました。

 

 雷に打たれたような衝撃が、脳内を駆け巡ってきます。

 

 幸せなる色。

 

 その一言だけで舞人の中に眠っていた悪しき記憶が、蘇ってきてしまいました。

 

 左斜めの屋上に立つ奈季くんをみる目は、はっきりと怯えてしまっています。

 

 舞人が怯えの表情をみせる相手なんて、限られているのにです。

 

 もしも奈季くんまで、その面子に加わってしまったんだとしたら――、


「『ふくいん』って呼ぶんだよ。舞人はそのことを、誰よりも知ってるんだろ?」


「……。……。……。……奈季……。……お前、誰からそんなことを聞いた……。……もうそのことを知っている人は、この世界にはいないはずだろ……?」


「別に誰からだっていいだろ。いま大切なのは過程じゃない。いま大切なのは結果だろ? ――舞人はどこまで『幸せなる色』計画なんて呼ばれているものに関っていた。なんのために『幸せなる色』計画なんてものを行った。罪なき子供たちを数え切れないほどに殺して、胸は痛まなかったのか。全てが終わったあとも、どの面を下げてお前は生きてきた。――自分の望むもののためだけに罪なき子供たち殺しておいて、今までのうのうと生きてきたなら、もうお前は人間じゃねえよ、舞人」

 

 聖なる龍人と負なる龍人の両大将の間に、絶望的なまでの怯えが生じました。


 この場では第三者でしかない奈季くんが、鬼気迫る凄みを発したからです。


 今回に限っていえば逃げるという真っ先に選択を取るのが、唯一の正解でした。

 

 しかし頭が真っ白の舞人に、冷静な思考をしろというのも無理な話しです。


「『神を殺せるのは、神だけ』なんだよな、舞人? じゃあお前のことを裁けるのは、必然的にここにいる誰かなんだよ。――失望したよ、舞人。お前が誰よりもダメなやつなのは知っていたが、誰よりも屑なやつだとは思わなかったからな……」

 

 火薬が爆発したような破砕音が、脳内で発生しました。

 

 奈季くんの右手に収められる金銀の槍に、舞人の頭部が貫き通されたのです。


 桜雪ちゃんたちだけではなく、惟花さんまでも悲鳴をあげてしまいます。


 惟花さんの悲鳴こそが、この状況の異常さを何よりも強く示していたでしょう。

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