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“Kiss to Freedom”  ~世界で最後の聖夜に、自由への口付けを~  作者: 夏空海美
Chapter 1:Kiss to memory, because Kiss to lost.
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第16話 『少女の願い』と『少年の誓い』 ②

 舞人はタイミングを見計らって、左手に握っている白刀を一閃します。

 

 舞人の分身が、3人ほど出現してくれました。

 

 一瞬だけは硬直した信徒たちも、すぐに意味を理解してくれます。

 

 大規模の燃料でも投入されたように、歓声が強くなりました。


「みんなの進む道は、ぼくたち4人が東西南北に散って、何がなんでも切り開いてみせる! ――だからみんなはただぼくのあとに付いて、一緒に戦ってくれ!」


 大地が揺れんばかりの大喚声が、響き渡ってきました。

 

 信徒たちのボルテージが最高潮に達します。

 

 言葉というものだけで生み出される爆風の嵐に、舞人も酔いしれました。

 

 これが5秒間ほど続いたあとに風歌ちゃんが、悠然と右手を振るいます。

 

 信徒たちは恭順の返事を行うと、それぞれの担当場所へと、一斉に散りました。


 物理的な移動方法ではなく、転移の魔法陣を使用しての魔法的な移動です。

 

 上空にみえる結界は確かに薄れているので、決戦の時はもう間もなくでしょう。

 

 これから舞人も、戦場へと身を投じないといけないのです。

 

 しかしさほど、恐怖のようなものはありません。

 

 育ての親である少女が、『守りたいものがある限りは、鬼と蔑まれようと悪魔と罵られようと、戦い続けなくてはいけない』と背中で教え続けてくれたからです。


「ありがとうございます、舞人くん。いろいろな意味で本当に助かりました」

 

 少女のことを思い出した舞人がぼんやりと上空を眺めていると、左隣にいる風歌ちゃんが微笑みかけてくれました。友人の妹というよりは、1人の女性として意識してしまうような微笑みです。舞人も恥じらいのようなものを覚えました。


「ううんっ。どういたしまして。でも本当に気にしないでよ。ぼくは風歌のために自分ができることを、勝手にやってあげているだけだからさ? ――でもいろいろあったから風歌に教えておきたいことはたくさんあるんだけど、惟花さんと美夢のことだけはなんとか救い出せたよ。……でもほかの信徒さんはダメだったんだ。……ごめん。惟花さんの護衛だった龍人が裏切ったみたいなんだけど……」

 

 美夢ちゃんと桜雪ちゃんも舞人のあとに続いて、すでに降下を終えていました。2人が抱いていた裏切り者の身柄は、風歌ちゃんの傍の龍人が預かってくれます。


 風歌ちゃんが軽く頷くと、離反者たちはしかるべき場へと運ばれていきました。


「えぇ。なんとなくはわかっていました。内部に裏切り者がいるのは間違いないですから。早急に炙りだすことを念頭に置いてますが、本当にごめんなさい……」


「――だから本当に風歌は謝りすぎだってば。全部が全部風歌の責任ではないんだから、そんなに自分一人で抱え込む必要はないよ。風歌の困り事は、ぼくたちがなんとかしてあげるから大丈夫。せめてこの戦いは終わるまでは、君はいつも通りの穏やかな表情でいなよ。それが何よりも、みんなのためになるはずだからさ?」

 

 舞人は風歌ちゃんの黒髪へと、ぽんっと左手を置いてあげました。


 いきなりだったからかさすがの風歌ちゃんも、驚きという感情をみせます。


 お顔は予想以上に、紅潮していきました。


 風歌ちゃんにとっては、とても珍しい反応だったかもしれません。


「……ありがとうございます、舞人くん……。……舞人くんからそういってもらえると、やっぱり何よりも安心できるかもしれないです……。……じゃあもう少しだけ甘えさせてもらってもよろしいですか……?」

 

 上目遣いの風歌ちゃんの瞳が届く中で、舞人は肯定をしてあげました。風歌ちゃんは恥ずかしげに瞳を逸らしたあと、それを紛らわすように、こう続けます。


「……でも瑞葉くんは、本当に馬鹿な人ですよね……。……こんな時まで舞人くんばかりに、迷惑をかけてしまうなんて……」


「そうだね。風歌にこういうのもあれだけど、瑞葉は本物の馬鹿なのかもしれない。――でも友達なんてものは多少馬鹿なぐらいが、ちょうどいいんだけどね?」

 

 勢いに任せて変なことを口走ったとは、全てを言い終えてから気付きました。

 

 でもこうなってはあとの祭りです。


 無性に恥ずかしくなった舞人は、風歌ちゃんの頭へと置いた手も離します。

 

 そしていい加減に白き結界の外へと向かうため、踵を返したところで――、


「――舞人くん?」

 

 いきなり背後から風歌ちゃんに呼び止められたので、足を止めてしまいました。

 

 足先までは振り返らなくても、顔だけは振り返ってしまいます。


「……今まで本当にありがとうございました……」


「???」


「……なんていうか、先ほど信徒さんたちにも届けた言葉を、舞人くんにも届けただけです。瑞葉くんやわたしは舞人くんに一番お世話になっていますから」

 

 虚を突かれなかったといえば、うそになります。いきなりの発言でしたから。

 

 でも一応は筋が通った発言であるのも、これまた事実でした。


「ううん。そんなことはないよ、風歌。それはぼくの台詞だもん。ぼくのほうこそ2人にはすごくお世話になっているからね。……瑞葉と風歌がいなければ、いまぼくはこうしてこの場にいることさえなかったかもしれない。……面と向かってこんなこともいうのも恥ずかしいけど、瑞葉と風歌には本当に感謝してるよ」

 

 世の中なんてものは、本当に不思議な事だらけです。6千人近くの信徒たちの前で話すよりも、親友と親友の妹に感謝を述べるほうが、身体は熱くなりました。


 照れ隠しをするように舞人は、すぐに正面へとお顔を戻します。


 そして今度こそ、歩を進めて行くと――、


「――じゃあ、舞人くん?」

 

 どこか冷たい風に乗った風歌ちゃんの言葉が、舞人の背中に届いてきました。


「もう少しだけ馬鹿な私と瑞葉くんで、迷惑をかけてしまってもいいですか?」


「もちろんいいよ。2人からの迷惑ならぼくは一つも余さずに全部背負うからね」


「……本当にごめんなさい、舞人くん……」


「だから謝らないでよ風歌。ぼくたちは友達でしょ?」


「……えぇ。友達です……」


「ならそれだけでぼくが2人を助けるのには――あまりにも十分過ぎる理由だよ」


 舞人は背後を振り返らずに、ただ手を振りながら風歌ちゃんと、お別れします。

 

 まさかこれが彼女との最後のお別れになるなんて、思っていなかったからです。


 現実は無慈悲でした。


 そしてそれ以上に「神」は残酷でした。

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