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“Kiss to Freedom”  ~世界で最後の聖夜に、自由への口付けを~  作者: 夏空海美
Chapter 1:Kiss to memory, because Kiss to lost.
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第15話:『通じ合う喜び』と『砕け散った世界』

「お兄様と惟花様? マイペースなお2人でお見つめ合いをなされるのも大変結構ですが――お邪魔虫たちの登場ですよ。わたくしと美夢はその他大勢を相手しますので、お兄様と惟花様にはあの黒い怪物をお願いしてもよろしいですよね?」


 黒き濁流がついにこの第4階層の廊下にまで迫っていたのかもしれません。


 壁面から突如紡がれた漆黒の結界模様から負なる者たちがにじみ出てきました。


 耳が痛くなるような破壊音が舞人たちの部屋を揺らします。


 舞人は惟花さんを右腕で抱き上げたまま左手には白き刀を握りました。


 実は舞人の白き血だけは惟花さんを罪と罰から庇うことも出来たために、あくまでもお互いに触れ合っている限りは彼女に自らの五感と声帯を授けられたのです。


「ぼくたちは問題ないけど――桜雪と美夢は?」


「わたしたちも楽勝ですね。むしろ美夢にはちょうどよいダイエットでしょう」


 桜雪ちゃんが足元に展開させた純白の魔法円から創造した雪色の槍と一緒に美夢ちゃんへと渡し放り投げた言葉に舞人は素直な微笑みを零してしまいながらも、黒き化け物によって破壊された扉の入り口へと舞人も白き結界を生み出します。


 黒き濁流が室内まで入り込んでしまうことだけはあと一歩手前で防げました。


 やっぱり惟花さんは舞人にとっての最高の歌い子の女性なのかもしれません。


「……ってえぇ! ――ていうか舞人って惟花お姉ちゃんとお話しできるの!?」


「なんとか出来るけど逆に君の知っているぼくは惟花さんとも話せなかったの?」


 巨大なる体によって入り口をけたたましい音で破壊しながら舞人たちへと雪崩れ込むように接近してきた黒き怪物は迷いなく襲い掛かって来ましたが、舞人にとっても瑞葉くんとの想い出があった部屋を荒らされてしまうことは許せません。


 惟花さんの歌声のおかげで化け物による攻撃もまるで時が止まったように視認出来ていたので、まるで砲弾のような黒き拳を回避する時も壁際の本棚との適度な距離感を取り続けながら最善のタイミングでかわしていくと、そのまま流れるようにして左手に握る白き刀によって、舞人は幾度も反撃を放っていきました。


「いやっ。まぁそういわれると話せたような気もするんだけど……衝撃的だわぁ」


「なんで花も恥らう乙女がそんな顔で驚いてるんだよ。ひょっとこかな?」


「ひょ、ひょっとこじゃないわよ舞人! わたしはひよこさんよ、ひよこさん!」


 まるで鋼鉄の塊のようだった化け物の頭部も風船のように破裂します。


 しかし――、


「……! ……頭を失っても普通に攻撃できるどころか逆に強くなるのかよ!」


 化け物にとっての頭部破壊は第二形態への引き金だったのかもしれません。


 今までは“逃げる舞人を明確な標的に秩序だった攻撃”を放ってきたはずなのに、“まるで理性を失った怪物のように手当たり次第に拳を振るってきた”のです。


 それでも黒き化け物の攻撃を見切れる舞人にとっては攻撃の機会を探すだけならある意味で先ほどよりも簡単なのかもしれませんが、この部屋の中には舞人と惟花さんだけではなく浸食され続けている黒き壁面から現れ続ける負なる者を相手にしてくれている桜雪ちゃんと美夢ちゃんもいたのです。だから舞人としては化け物の全ての注意を集め続けるためには白き刀を重ね続けるしかありません。


 それでもこの守勢の一方では先ほど反撃できた隙にも何も行えません。


 さすがに舞人も左肘の痛みに限界が来てしまう前に動きました。


 バク転です。


 神速にも迫るような勢いで浮上した舞人の両足は化け物の両拳を綺麗に打ちつけると、蹴り上げられた化け物の両腕は喪失した頭部の位置まで跳ね上がりました。


「これで君も終わりだろ? 最後くらいは美しく散ってくれよ」


 着地と同時に舞人は惟花さんから教えられていた化け物の弱点を一閃します。


 これが終止符となって黒き巨体も力尽き果てたように地面へと倒れ込みました。

 

 黒き化け物の身体を上手くかわすように左側へと動いた舞人が一息つくと、桜雪ちゃんと美夢ちゃんもそれぞれ黒き龍人たちの流入を止めてくれていました。


「びったりだね。2人ともご苦労様。でも今は時間がないし、早く風歌のところに戻るべきなんだろうけど……ちょっとだけ待って! 万が一の時のために――」


 戦闘の余波を受けてローテーブルから絨毯の上へと落ちてしまっていながらも紙面自体は無事だった瑞葉くんの1枚の魔法陣へと舞人は手を伸ばそうとします。


 でもそんな時に舞人は我が目を疑ってしまいました。


「……えっ。なにこれ? この日本地図っておかしくない……?」


 魔法陣の左斜め上に同じく落ちていた日本地図でした。それが舞人にとってはあまりにも信じられないものだったのです。“虫食い日本地図”とでも呼べるのでしょうか? 本来は47あるはずの都道府県がなぜか半減ほどになっていました。


 あるべき日本国家の形も一応は想起できますし、東日本側の消失はわずかなのですが、西日本側に至っては驚きでした。岡山や島根や山口などは完全に消失していて、なぜか広島は離島であり、九州地方には福岡と鹿児島と長崎という3県しかなく、四国地方は全ての県の並びがめちゃくちゃになっていましたから。


「えぇ。何がおかしいのよ舞人。それっていたって普通の日本地図じゃないの?」


「……うそ。それってマジ桜雪ちゃん?」


「マジですよ。なぜにこんな状況でもお兄様にドッキリを仕掛けているんですか」


「……じゃあ惟花さんはこの日本地図をみてどう思う?」


『……舞人くんと同じかもしれない……』


「なんでそんなに絶望的なのよ。ぼくが死んじゃう時よりも悲しそうじゃないの」


 この日本地図のおかげでさすがに舞人も確信しました。


 どうやら自分は何かの拍子で見知らぬ“日本”へと来てしまったようだと。

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