第169話:『白雨の世界』と『幸福の碧空』
人々の心の闇の夢に囚われた風歌ちゃんと智夏ちゃんの幻想を届けてきました。
優しさや正しささえ愚かであるようなこの世界では、今の瑞葉や冬音ちゃんたちでは“風歌ちゃんや智夏ちゃんさえ救えない”という現実を証明するようにして。
もしかしたら瑞葉だって少女を否定することはできなかったのかもしれません。
瑞葉だって心のどこかではこの世界の不完全さを理解していたのでしょうから。
でもこの世界の全てを諦めてしまうようなことは瑞葉もできなかったのです。
もちろんこの世界は全ての人が優しくなれるほど優しくはなく、優しい人だからこそ報われるなんて叶わぬ夢でも、笑ってしまうほどに優しい人々はいたから。
瑞葉も舞人たちにはずっと“そのままの優しさ”でいてもらいたかったのです。
たとえ優しさや正しさではこの腐敗した世界を浄化できなくても、優しさや正しさで誰かを笑顔にできるのなら、そんな穢れなき心は罪ではなきものと誇って。
「僕から優しさまでなくしちゃったら何も残らなくなっちゃう気がするからさ」
最後まで揺らぐ事のなかった瑞葉の想いに黒き夢の果てに生まれた少女は―ー。