第166話:『殺戮の僭称』と『玲瓏の黒翼』
地下の大祭壇で黒き魔剣を持った青年が殺戮の化身となっていました。
世界の終焉に呼応してこの世界に甦った闇色の神々を死へと導くように。
黒き魔剣の青年に襲いかかる“世界中の星々に眠る秘術を使役できる月刀”や、“自らの武芸の全ての知識と共鳴する力を授けてくれる太刀”や、“この世界の始まりを作り、この世界の終わりさえ誘う原初で終焉の魔術”さえ無力でした。
「やはり最後まで朽ち果てぬか。愚か者たちの系譜は。でも我らが眠り美しき夢をみている間に愚かしき夢をみるほどでないと、この世界の王さえ夢幻だったか」
しかし闇色の神々にとっては彼の反逆さえも想定内であるように大祭壇の中央へと六面体の魔法陣を降臨させ、黒き魔剣の青年の魂を奪おうとしましたが――、
「……!」
なぜか黒き魔剣の青年はその立体結界の概念を跳ね除けてしまいました。その立体結界は“異空間で眠っていた自分たちの傀儡としてこの世界に存在させていた黒き魔剣の青年の使命の終わりを告げる時のために構築していた最級魔術”なのに。
現実を疑うような展開にはさすがの闇色の神々も大きな衝撃を受けてしまう中で、黒き翼の青年は悪魔のような微笑みをしながら天使のように楽しげに笑い、神々へと死の宣告でも与えるようにして美しく厳かな足取りで大祭壇の石床を踏んでいく中で、闇色の神々も自分たちの前で何が起こっているのかと考えて――、
「まさか貴様らは俺の正体が“舞人の父親”だろうとでもいいたいのか? それならばさすがは何千年と眠っていただけあってなんとも面白い冗談を考えるな」
死を贈るための立体結界が無力であるならば目の前にいるのはそもそもすでに自らが傀儡としていた黒き魔剣の青年ではなく、自分たちが対立をしていた派閥の神々は目の前の青年が消し去ってしまっていて、ましてや彼は舞人の仲間の誰かでもなく、この世界の神話の再生の起源である黒き王の配下でもないとすれば、自分たちを圧倒するような力を持てるのは唯一の可能性しかないはずですが――、
「でも残念ながら“舞人の父親”なんていう存在はそもそもどこにもいないのさ」
これが黒き魔剣の青年にとっての偽りのない答えだったのでした。
闇色の神々にとっても何を言っているのかさえわからなかったはずですが、一歩一歩歩み寄っていく黒き魔剣の青年から数千の神々の気配が零れ始めると――、
「……ならばまさか貴様らは――」