第159話:『銀鈴の絵本』と『沈愁の少女』
冬音ちゃんが聖夜に願っていた事。それは大好きなみんなと一緒に笑顔で過ごせることでした。でも冬音ちゃんがお馬鹿な事ばかりしていたせいか、さすがのサンタクロースさんも呆れてしまい今年はお願い事を叶えてくれないようでした。
「……静空ちゃんと桜雪ちゃん。もしもお父様やお母様や智夏やお日様ちゃんに何かあったりしたら、それはわたしのせいかもしれません。わたしがもっとお利口さんにしていたら優しいサンタクロースのお兄さんやお姉さんや不思議な王様も力を貸してくれて、ずっとみんなと一緒にいれたのかもしれませんから……」
冬音ちゃんはサンタクロースの存在を本当に信じているほどに純粋な女の子ですがお馬鹿さんではありません。この世界がとても大変なことはわかっていました。だからいつの間にか自分の傍から消えていたみんなが“何か大変な事件に巻き込まれてしまっているのでは?”という嫌な考えばかり浮かんでしまいます。
でもどこを探してもいない舞人たちがどこにいるのかなんてわからない冬音ちゃんは絨毯の上に置かれたサンタクロースの絵本の前で落ち込んでしまう中で、冬音ちゃんの傍にずっといてくれていた静空ちゃんは頭髪を撫でてくれながら――、
「大丈夫よ冬音。ちゃんといい子にしていた冬音の想いはサンタクロースさんたちにだって伝わっているからね? でも舞人と惟花はサンタクロースさんのお友達なんだよってずっと前に教えてあげたでしょ? だから実は今はサンタクロースさんたちにこの世界を守ることをお願いされて一緒に手伝ってあげているのよ」
「!!! お父様はこの絵本のサンタさんたちともお友達だったんですか!?」
「惟花からは本当に冬音が寂しそうにしている時に教えてあげてねってお願いされていたんだけど――それはとても秘密な事だからみんなには言っちゃダメよ?」
予想外な話しをしてくれた静空ちゃんのほうへと飛び跳ねるように身体をむけた冬音ちゃんは諭すような微笑の静空ちゃんから紅唇に人差し指を置かれると、“絶対に誰にも話しません静空ちゃん!”と約束するようにお口を強く閉じました。
そんな冬音ちゃんの愛らしい様子に冬音ちゃんの部屋の南東へと置いてあった机の上に“風歌ちゃんの魔法書”を開いていた桜雪ちゃんも思わず微笑んでしまいながら振り返ると、冬音ちゃんのもとへと歩み寄りしゃがみこんであげながら――、
「冬音ちゃん。冬音ちゃんはサンタクロースになりたかったんですよね? それならここでクリスマスの準備をしていたらサンタクロースのお姉さんもみつけて、冬音ちゃんを本当のサンタクロースとして認めてくれるかもしれませんよ?」
桜雪ちゃんと静空ちゃんとしては冬音ちゃんを大切に思うからこそ舞人たちから興味を逸らしてしまいたかったのかもしれません。彼らが誘われてしまった大聖堂の外の世界はすでに闇色の都となっていましたから。そんな場所に冬音ちゃんを行かせたくはありませんし、何よりも舞人たちがそれは望まないでしょう。
でも冬音ちゃんは静空ちゃんと桜雪ちゃんからこのようなお話しをされると性格的にも2人の話しを素直に信じて、元気よく頷いてくれようとしましたが――、
「「「???」」」
冬音ちゃんを匿ってあげているこの部屋には万が一のことも許してはいけないので、“大聖堂の魔法の間の第4階層にある図書館の奥”から桜雪ちゃんが探し出して来ていた魔法書と静空ちゃんの特性である“3メートル以内の空間を支配できる”という魔法を組み合わせることによって一種の魔術要塞としていましたが、そんな部屋の入り口の扉の前からここ数日で聞きなれた鳴き声が3人に届いたので、桜雪ちゃんが静空ちゃんに確認を取ってから扉を開いてあげると――、
「! どこに行っていたんですかお日様ちゃん! すごく心配をしていたのに!」
そこに姿があったのはやっぱりお日様ちゃんでした。
もしかしたらお日様ちゃんも舞人たちと同じく冬音ちゃんと離れ離れにされていたのかもしれませんが、飼い主である冬音ちゃんのことが心配で仕方がなくてこうして冬音ちゃんのもとにも帰って来てくれたのかもしれません。忠犬の鏡でした。
走って飛び込んで来てくれたお日様ちゃんを強く抱き締めながら頭を撫でてあげている冬音ちゃんをみて桜雪ちゃんと静空ちゃんも素直に微笑んでしまいます。
でも仮にも冬音ちゃんはあの問題児である智夏ちゃんとも双子の女の子でした。
この展開から何も奇想天外な考えを抱かずに大人しくしているはずもなく、お日様ちゃんはもちろん桜雪ちゃんや静空ちゃんの予想を軽く飛び越えてしまいます。
「! 桜雪ちゃんと静空ちゃん! お日様ちゃんですよ! お日様ちゃんなら智夏のパンティーの匂いもわかるはずなので――智夏を探しに行ってはダメですか?」