第153話:『壊乱の都市』と『聖火の悲愴』
数ヶ月前からも地獄のような街並みだった都市がついに滅び行きました。破壊への愉快さなんてなく純粋なる世界への殺意と憎悪だけの黒き翼の青年が“世界中の全ての邪悪なる霊魂たちを僕に従えたような色合いの魔剣”で暴れ狂って。
「笑ってしまうほどに“素晴らしい亡国”だろう白き血。人なんて天使から与えられた数千万の殻を失えば、この世界のどんな色よりも醜い悪魔になるんだからな」
過ちに堕ちた世界からは色彩を失うのが宿命なんだとしても。全ての命が世界から消え行くその最後の一瞬まではこの手で守りたいと願った人々がいたはずなのに。愛鈴の白き血は“色彩を奪いし者”の前に敗北者でした。黒き翼の青年がまるで“全ての始まり紡いで全ての終わりを詠う”ように破壊をもたらすせいで。
「でもこんな亡国だからこそ誰もが王になる事を願うのだろうな。救う価値なんてなくても利用するべき価値だけはある“全ての始まり”には最高の亡国として」
瑞葉くんは愛鈴が守ってあげれなかったせいで。ユフィリアは愛鈴を庇ったせいで。2人とも瓦礫の街並みに消えました。耳飾りからも2人の声は届きません。
それでも愛鈴は何が罪なのかもわからなかったから。それでも愛鈴は誰も罪なんて犯していないと信じていたから。そして何よりもこの左手で守り続けたいと願った幸せはあったはずだから。そんな幸せをせめて一握りだけでも奪い返すために愛鈴が最後の力で感覚を失った左指で白き弓を掴むと――誰かからの視線が届いたような気がしました。愛鈴と彼女の心が通じたように。たとえ離れ離れでも。
「……王になるのなんて夢物語だろうな。お前みたいな人間ではさ……」
崩壊した大聖堂の支柱へと背中を預けながら頭を下げていた愛鈴が小さく笑みました。瞬き後には黒き翼の青年の背後を取れていたから。まるで黒髪の少女に誘われたようにして。愛鈴が白き弓から閃光のような一撃を撃ち放とうとすると――、
「ならば俺が王になる事を拒む人間をこの世から全て殺し尽くしてしまえばいい」
青年の闇色の天翼から即応された漆黒の波動が希望を殺しました。それはまるで黒き血が流れる青年にとっては愛鈴の全てなんて読心してしまっているように。
悪夢のような現実を前に愛鈴の感情が死んでしまう中で黒く穢れた神が振り向き様に放った刀が愛鈴の左腹部を殴打しました。白き弓を粉砕するほどの勢いで。
都市の残骸へと激突した愛鈴の身体が雪崩を起こしてしまう中で、愛鈴へとユフィリアが想いを届けてくれた辺りを黒き暴虐が虐殺の限りを尽くしました。もしかしたらユフィリアのものかもしれない身体の破片や赤白い衣服が飛び散ります。
愛していたはずの少女に訪れた現実に愛鈴の瞳にも憎しみが紡がれる中で――、
「それでもお前は今だって俺のことを心からは憎んでなんていないし、これからもお前が俺のことを本気で憎むことだってないさ。もしもこの世界にたった1つの罪があるとしたらそれはお前みたいな人間に穢れなき“白き血”が与えられてしまったことなんだろうからな。お前はそういうやつなんだよ白き血。本当にな」