第151話:『胸臆の幻想』と『蠹毒の悪魔』
真っ白な世界でした。
視界が真っ白なのではなく愛鈴の身体が真っ白なのかもしれません。
新雪のように白々とした大海の中へと愛鈴の身体は溺れていってしまいます。
始めての感覚なのになぜか懐かしい笑い声まで愛鈴の心には響いて来ました。
自らの生命が誰かによって奪われかけていることは愛鈴だって理解しています。
でも愛鈴の心の影は“もう2人で一緒に帰りましょう愛鈴”と微笑んできます。
行き場を求める愛鈴の魂が優しい“優の世界”をさ迷いかけたところで――、
「……!」
まるで瑞葉くんのような気配が愛鈴の左手を引き上げてくれました。
「ねぇ!? だいじょうぶ舞人くん!? 舞人くんってば!」
だから何がどうなったらそうなってしまうのか“煉瓦造りの小屋”に押し潰されている瑞葉くんはすぐ右手側にいる愛鈴へと懸命に声を届けてくれていました。
本当にいったい何が起きたというのでしょう。
先ほどまでの愛鈴は前橋市内でも最東端に位置する区域に立っていたはずなのになぜか今は市内の中心部でした。距離にしては十数キロも一瞬で移ったようです。
右斜め後方では群馬県を象徴する“ドーム状の大教会”が崩壊していました。
ユフィリアは愛鈴のほうをなぜか意味ありげな瞳で見つめている中で――、
「……なんだ、あれ……」
黒々とした炎でした。まるで夜のように暗くまるで闇のように深い。愛鈴たちと助けを叫ぶ人々を二分するようにそんな“死都の黒炎”が屹立していたのです。
「……やっぱりお前たちは色なき者にも飲まれたりなんかはしてないよな……」
そして背後には案の定としかいえない気配も感じたので憎まれ口が落ちました。
「これはこれは。奇遇ですね愛鈴様。こんな所で再会できるとは夢にも思っていませんでしたよ。――お会いを出来て光栄です。よくぞご無事でいてくれました」