第144話:『経綸の始祖』と『無辜の純愛』
ここはとある民家の一室だったのかもしれません。部屋の窓際にある清潔的な寝台へと人形座りの青年が背中を預けていました。優しげな瞳を閉じながら。
青年は優しい夢をみていたのかもしれません。
何千回と紡がれ続ける優しい夢が“始祖の鐘”を望んでいたために。
でも優しい夢はいつか終わりが来るからこそ優しい夢なのです。
落ち着いた呼吸を撫でるようにして純真なる空気を胸一杯に吸い込む青年は魅惑されるような睡魔を押し堪えながらも、汚れなきカレンダーが壁に浮いて机の上の生け花は生き生きした生活的な寝室へと、未だに眠たさが残る瞳を配ります。
でも青年にとってはここがどこなのか検討がつきました。
愛鈴が世界を忘れないように、世界も愛鈴を忘れないようです。
そんな中で愛鈴の瞳へと“純白の弓”が映り込みます。
あれは自分の愛弓でした。
美しさに満ちた絨毯の上を衣服を重ねるように四肢で這うと、終わりなき永遠の森林の中で一滴の優しさに触れるようにして、その白き刀を手に取ろうとします。
でもこれが愛鈴にとっては始まりの終わりでした。
世界を闇で包もうとする悪夢の象徴。
弓に触れた瞬間、“世界を闇で包もうとする悪夢の軍勢”が心に映ったのです。
彼らは愛鈴にとっての畏怖の対象でした。
そんな中で“少女”が微笑みます。
“私と一緒に眠りましょう愛鈴。だって貴方がいる世界はあまりにも愛鈴にとって悲しすぎるからね。愛鈴を愛してくれる人なんてこの世界にはいないのよ。愛鈴は愛する人にだって傷つけられてしまうわ。愛鈴はとても純粋な人だからね”
まるで“少女”は愛鈴の心の弱い部分を全て知っているかのようでした。
自らが何よりも恐れる運命を予言され、愛鈴が“白”に飲まれかける中で――、