第143話:『漆黒の烽火』と『純白の星辰』
舞人たちが地下に匿うことによって安らぎを授けてあげていた人々の総数。
それは“当初からの瑞葉くんの一般信徒たち”が50万人ほどであり、“さらには異端者たちの一般信徒たち”が25万人ほどなので、合計で75万人でした。
でも今はそのような75万人という底知れぬほどに膨大な信徒たちの一部ではなくほぼ全員が負なる者に化けてしまったような勢いで地底が破壊されたのです。
舞人にとっての一般の信徒たちは“白き血を母親にして生み出した自らの結界”によって他者からの接触を禁じていたはずなので“負なる者に染まってしまう”なんて完全に想定外だからこそ、成すすべもなく地面の崩壊に飲み込まれました。
一時は間違いなく“勝利の女神”と見詰め合っていた舞人たちも完全に今は形成逆転されていましたが、それでも舞人が上空への非難を命じようとすると――、
「……!」
再び舞人たちにとっては“悪い意味で信じられない攻撃”で背筋が氷ります。
反乱の城は大湊氏たちの信徒たちの姿がみえていた空間でした。
“黒ではなく灰色の脅威”が舞人たちの瞳を壊したのです。
完全に仮定外である“負なる者の登場”と“大湊氏たちの歪みなき反乱”によって善なる人々は全滅必死の被害を受けてしまいましたが、それなのに今はこの場にいて誰よりも“戦場を左右する力をもっている舞人”が沈黙の宿命でした。
だっていまの舞人には白き弓のことがありましたから。
「問題ないだろ静空と桜雪? 舞人たちのことを頼んでも」
「……一緒に来ないの怜志は?」
「奏大たちまで敵じゃなかったらすぐに戻るからね」
さすがに理解の早い静空ちゃんや桜雪ちゃんは反論の唇をみせなくても、何が起こっているのかいまいちわからなくても大切なお友達たちをこの場に残していくことに冬音ちゃんは顔を横に振りましたが、智夏ちゃんが彼女を抱きかかえます。
“時間という絶対的概念さえも破壊しそうな地獄”に自由を奪われた奏大くんたちの助けへと“赤と青の不死鳥”に生を授けた怜志くんが向かう中で、舞人たちは“黒と灰色の魔手が迫り切らない聖域”へと移りましたが、それでも自分という存在の全てだった“瑞葉くんの信徒たち”と“宇都宮市”が破壊されることに、最愛の人が目の前から奪われるような自己崩壊の衝撃を舞人が受ける中で――、
「……!」
左手の中で眠るように息していた“白き弓の光”が死んでしまいました。
舞人が悲しい感情に満たされてしまったことをまるで彼女も悲しむようにし
て。
……お母さん……。
今の自分にとってどうするのかが正解なのかは舞人だってわかりません。
そもそも今の自分に“光りある正解”があるのかさえも舞人はわかりません。
それでも舞人はわかっていたのです。
どう足掻いても自分には誰かのために生きる道しか残されていないんだと。
だってもう舞人は戻れないのですから。
『別に逃げちゃえばいいんだよ舞人。君の嫌な予感は何も間違ってないからね。もし君がその弓を放っちゃったらこの世界のみんなだけじゃなく大好きな惟花にだって舞人は嫌われちゃうんだ。舞人がいない世界をみんな望んでいるからね』
「……じゃあこの世界を君にあげるよ。だってなんか君は可愛そうだからさ……」
悲しみに恋されてしまった世界で“愛しさに恋された白き雪”が咲きました。
それと同時に“白の宿主の青年”は色を失ってしまいます。
だって黒と白が相克した先にあるのは“たった1つの永遠”だったのですから。