第135話:『月影の彼氏』と『天女の彼女』
舞人に流れる“白き血”も覚醒時は血濡れの頂点ですが、その代償として完全なる休息を要求したので、祈梨ちゃんやレミナちゃんなどとも時間を共有し、やるべき事を終えた舞人は怜志くんと静空ちゃんに全てを任せ、寝台で横になりました。
すでに舞人としてはみんなから求められているんだろう“自分の役割”は果たしていましたし、今の舞人の心にあるのは確かな安堵感のみのはずですが――、
「……」
なぜか今の舞人にあるのは恐るべき恐怖感でした。
舞人が殺し続けている“本当の自分”です。
舞人が殺し続けている“本当の自分”が、偽りの仮面を被ってみんなの前で微笑む舞人を嘲笑うように、白に染められた扉を今にも壊そうと叩いているのです。
『舞人くん。舞人くん。舞人くんは気付いてる?』
「……何を……」
『どうしてあの時にわたしに5感が戻ったのか』
「……本当はいつもから惟花さんがぼくを騙しているだけだから……」
『……。……。……』
「……ぜんぜんわからないから教えて……」
『ダメ~。舞人くんも子供じゃないんだからちゃんと考えなくちゃダメだよ?』
舞人にとっては惟花さんこそが“本当の自分”を隠してくれている存在であるように、惟花さんを感じていないと眠ることさえできない舞人は布団の中でも手を繋いでもらっていましたが、そんな中でも惟花さんは舞人に構ってもらいたいのかそれとも子守唄の一種か、舞人が眠りに付くまで優しく話しかけてくれました。
「……どれだけ考えてもわからない……」
『それも正解かな? ちゃんと舞人くんが自分で一生懸命考えた答えならね?』
息が止まってしまいました。
やっぱり惟花さんは舞人の心なんて見通していたからです。
どこまでいってもやっぱり自分は惟花さんに勝てないという現実に舞人は少し恥ずかしさを覚えながらも、惟花さんだけはありのままの自分をみつめてくれて、ありのままの自分を愛してくれるような気がしたので、“いつか自分は再びみんなから嫌われてしまうのでは?”と不安を抱いていた舞人にとって惟花さんは天使でした。
『……ねぇ惟花さん。惟花さんはぼくのことが好き……?』
『もちろん舞人くんのことは“大好き”だよ?』
『……本当に……?』
『実はこれまでわたしはね一度も舞人くんにうそをついたことがないんだよ?』
『……絶対に嘘だ。でもぼくも惟花さんのことは大好きだよ……?』
『世界で一番?』
『……それ以外の人に大好きなんていわないでしょ……?』
たぶん舞人にとっての惟花さんはうそ偽りなき心から愛せる唯一の女性だったので、嬉しげに身を寄せてくる惟花さんのことを優しく抱き締めてしまいました。
この時の舞人には想像できていなかったのです。
いつか自分と惟花さんが離れ離れになるというそんな自然な事実さえも。
でも悲しいことに親と子はずっと一緒に居られないのが一種の運命なのでした。
その事実に気付いた時に子は大人への階段を上れるのでしょうか?




