第133話:『衷情の幻想』と『夢魔の孤独』
信じていたのです。これでやっとみんなのことを助けられると。
信じていたのです。これでやっと自分の居場所をみつけれたと。
奈季は思いました。なのにどうしてこんなことになってしまったのだろうと。
その場に崩れるように膝付いた奈季へと、漆黒の悪魔は純白の銃を向けます。
そして雪色の銃口が殺意を放つ寸前に――。
「……最悪だ……」
前触れさえなく幻覚にでも包まれるように自分が失っていた過去と対面させられた奈季は、月夜が包む廊下の壁へと背中を付けたまま力なく座り込みました。
月葉ちゃんだって子供ではありませんし、むしろこちらなんかといつも一緒にいては逆に疲れてしまうだろうと思って、彼女に気を使ってあげた奈季は先ほどから気になっていた中庭に顔を出してみようと思ったのですが、そんな中で1人で無人の廊下を歩いていると唐突に幻影が心を染め、現在の有様というわけです。
幼い頃から奈季は孤独というものを漠然と恐れ続けて、舞人や瑞葉くんとの関係に自分にとっての“ありのままの居場所”というものを見いだしていましたが、“どうして自分が孤独を恐れていたのか?”という答えを思い出してからは、自らの孤独を癒すために舞人たちのもとにいる事がとても罪深きことに思えました。
でもそんな中で偶然なのか必然なのか――、
「……」
ジーンズのポケットからヤドカリのストラップが滑り落ちてしまいます。
早く住処を変えろという皮肉で舞人は、どこかにいくと必ずのようにこちらにお土産として購入してきてくれましたが、今はお互いに笑えないジョークでしょう。
それでも舞人は自分の帰りを待ってくれているのでしょうか?
“今年も1人ぼっちで楽しそうだな奈季”
“心優しい父親のあんたのせいでいろいろ面倒だからな”
“ほら。でもそんなお前にもサンタクロースからの贈り物は届いたみたいだぞ”
“毎年毎年ありがたいね。てかこれ何が入ってるんだ。拍子抜けの軽さだけど”
“俺の2番目に大切な宝物だよ。拍子抜けの軽さでもな”
“どうして1番じゃないんだ”
“もうお前にはずっと昔から渡してあるからな。俺の一番大切な宝物は”