第131話:『旧懐の日記』と『泰斗の思慕』
幼い頃から瑠璃奈は1人で何かを書き綴ることが好きだったために、“日記”というものを長年記してきましたが、3000ページほどにまとめられた自分の過去をぱらぱらとしていると、今までの“自分の一生”を一瞬で振り返れてしまうようでなんだか不思議な気分になってしまいながらも、ある一点を境にして徐々に変わり始めた自分の日記には、ほんの少しだけ恥じらいを覚えてしまいました。
瑠璃奈はぱらぱらとめくっていた自分の歴史をゆっくりと閉じると、そのまま空色の髪を優しく撫で上げながら、木の椅子の背もたれへと深く寄りかかります。
世界の終焉の足音はまぶたを閉じればすぐそこに迫っているようでした。
“白髪の青年”に“黒髪の青年”への勝ち目はあるのでしょうか?
どれほど贔屓目にみたとしても限りなくゼロに近いでしょう。
“頂点になれる存在”と“一度でも頂点を極めた存在”では話しが違いますから。
でも瑠璃奈にとっての舞人は自分が憧憬し続ける女性の愛息なのです。
ならもう今さら迷う必要なんてないのかもしれません。
支配者に抵抗する。それが瑠璃奈の導き出した答えなんでしょう。
……でも惟花のパパ様には怒られちゃうのかなぁ……。
瑠璃奈が静かな色の天井に瞳を注ぐ中で、とある気配の近づきを感じました。
……あの屑本当に最低。全部わたしだけに放り投げるなんて……。
という大湊氏への本音だって自然と零れてしまいます。
……でもたぶんわたしたちがあれこれ考えて、あの子にやりたい事をやらせてあげないのは酷なのよねぇ。それこそ滑稽な話しになっちゃうんだろうしさ……。
すっかりと眠りに付いていた飲食店の入り口へと、瑠璃奈の瞳は向かいました。
2回こんこんっとノックされたあとに、それは軽く軋みながら開いてきます。
やっぱり瑠璃奈の瞳には瑞葉くんでした。
自然とこちらと繋がった彼の瞳には“確かな意思”が篭っている一方で、“瑠璃奈への申し訳なさ”も同じくみられるのは、なんとも瑞葉くんらしいでしょう。
瑠璃奈の頬からは自然な笑顔が落ちてしまう中で――、
「……実はなんとなく瑠璃奈ちゃんの顔がみたくて――」
「わたしなら風歌を助け出す方法も知ってるってあいつから聞いたんでしょう?」
テーブルの上へと両肘を乗せるように瑠璃奈が身体を前に差し出すと、瑞葉くんはいきなり核心を突かれても大きく表情は変えずに、ただ小さく頷きました。
やっぱり彼らはただ自分の守りたいもののためだけに一生懸命なのです。
守りたいものは違っても、守りたい意思はみな同じなのでしょう。
でもだからこそあの3人には“ただ1つの絆”がみえるのもかもしれませんが。