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“Kiss to Freedom”  ~世界で最後の聖夜に、自由への口付けを~  作者: 夏空海美
Chapter3:Kiss to you , because Kiss to me.
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第127話:『鳳雛の相違』と『莞爾の関係』

 本日。つまり12月21日は火曜日でした。

 

 怜志にとっての火曜日というとあれです。

 

 舞人がこちらの部屋を訪れて、ラブストーリーの映画をみたがる曜日でした。

 

 おそらく舞人は自分自身が感動的な恋物語ではなく、半ば狂気に満ちた恋物語の主役だからこそ、一般的な男女が心を寄せ合う話しをよく好んだのでしょう。

 

 でももちろんそんな恋物語に瞳を染めるのは舞人と怜志だけではなく、惟花さんや桜雪ちゃんや風歌ちゃんや瑞葉くんたちも一緒だったので、その面子での喜劇に溢れていたやり取りを思い出せば、怜志の心も温かくなったかもしれません。

 

 でもそのような“過去”と“現在”を対比してみるとどうでしょう。


 やはりいまこの時も怜志にとっては優しい日々だといえるのでしょうか?


 いいえっ。そんなことはありません。

 

 現在は世界が光と温かさが忘却して、黒と冷たさが絶対の支配者なのですから。

 

 怜志は自分の信じる者たちに問いかけます。

 

 自分は彼らの望んでいる通りに変化し続けることができているのだろうかと。

 

 自分はみんなと違って“才能”がないという卑下があったからこそ、その才能の差を埋めるための努力が自己満足で終わっていないのかと怜志は不安なのです。


 また自分こそが静空ちゃんを今回のごたごたから守ってあげるのは間違いありませんが、そのあと自分はどうすればよいのでしょう? このままの静空ちゃんとの関係を続けるのでしょうか? それとも新しい風を取り入れるのでしょうか?


 怜志としては後者でも構わないどころか歓迎しますが、その選択に最低限必要だろう“静空ちゃんを一生幸せにする自信”が伴わないために英断ができません。


 でもそんな自分の態度こそが、静空ちゃんのことを不安にさせているのはわかっているので、“本当に最低だなぁ”という自覚は怜志としても持っていました。


 せめて何もかもきりがよい数日後の聖夜までは待ってもらいましょう。


 いろいろな意味でその日が“運命の日”となってくるのでしょうし。


 でもそんな中で――、


「……!」


 怜志にとっては東端にみえていた小さな鈴が鳴りました。


 扉が開閉されたのです。


 静空ちゃんでした。


「何か手掛かりはみつかったっぽい、静空さん?」


“血しぶきを浴びる準備中なの?”と舞人が瞳をぱちくりさせるほどに黒いセーターに身を包ませる彼女は、今の自分たちに与えられているだろう役割を果たすのに役立ちそうな何かを扉の向かい側の自室で探ってくれていたようでした。


 でも静空ちゃんの手に何か真新しいものは握られていません。


 左手にカフェオレ缶が2本あるだけでした。


「もしも何かみつかっているならもっと愉快な感じで入ってきているわよ」


「格好は愉快じゃん」


「怜志の白熊みたいな格好もね」


「でも実は“希望”が小さな胸の中にあったりしない?」


「もしあっても怜志には教えたりしないけどね」


「?」


「だって怜志は深いところで信用できない人だから」


 これには怜志も衝撃を受けました。オーマイゴッドと頭を抱えてしまいます。


「冗談に決まってるじゃない。そんな間に受けるなんて疚しい所がある証拠よ」


 右斜め前の椅子に座った静空ちゃんは1本のカフェオレを投げてくれました。


「でも本当にこんな状況でなんとかなりそうなわけ?」


 怜志としてはちょうどカフェオレが飲みたいなぁと思っていた時のカフェオレなので意気揚々とお先に頂こうとしましたが、景気よい感じでかちっとプルタブを起こした怜志へと、静空ちゃんは媚情びじょうな瞳を注いできました。


 返答の前に怜志はいただきますをして一度だけごくんっとしてから――、


「なんとかなるんじゃない。まぁ俺にいわれてもわからないけどね」


 自分も当事者の1人とは思えない、まったくもって他人事な返事を返しました。


 これに対して静空ちゃんは怜志の前だからこそみせるんだろう幼稚というよりはわがままとしかいえない物言いたげな唇をしながら、本当に物言いを行います。


「頼りないわねぇ。うそでも“なんとかなる”っていえばいいじゃない」


「なんとかなるよ。まぁ俺にはわからないど」


「そういう意味で私は言えっていったんじゃないわよ馬鹿」


 静空ちゃんは呆れの意思表示として瞳を逸らすと、”怜志も自分なりには考えをまとめようとしようとしたらしいメモ用紙”が目に入ったようですが、何か糸口になるようなことなんて一言も書かれていずに、乱雑な塗り潰しと落書きが残っているだけなので、“あなたやる気あるの?”と思い、一方で怜志は白紙のままメモ用紙を持って帰ってきた静空ちゃんに対し、“やる気あるのかよ”と思っていたのですが、2人とも暗に心の中で思っていたことが相手に伝わってしまったようで、もともと険悪になりかけていた雰囲気にさらに燃料が注がれてしまう中で――、


「仕方がないよ仕方がないよ。大福と違って舞人は馬鹿なんだから」


 となんでもかんでも舞人のせいにしてしまう、白インコが割って入りました。


 大福というのは白インコの名前です。舞人がいちご大福を食べている時に邪魔ばかりすることと、彼の身体が白いことからこの名称がつけられたのでした。


 白インコは偶然か必然か場の雰囲気を和らげてくれます。


「まぁなんとかなるでしょ。俺と静空が力を合わせればだけどね」


 静空ちゃんは馬鹿らしいとでもいいたげに肩をすくめました。


 でもやっぱり本音では静空ちゃんも満更でもなさそうでしたが。

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