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“Kiss to Freedom”  ~世界で最後の聖夜に、自由への口付けを~  作者: 夏空海美
Chapter3:Kiss to you , because Kiss to me.
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第124話:『臥竜の閉幕』と『絶佳の斜陽』

 そもそもあんな役立たずたちを貴重な戦力に考えていた時点で舞人たちに勝ち目なんてなかったのかもしれません。死んでいった馬鹿たちの笑顔。馬鹿たちは死に行く最後の一瞬まで、最高の笑顔で笑っていました。馬鹿なのでたった一秒後の未来まで予測できていなかったのでしょう。遺影でまであんな笑顔をされていたら、舞人は葬式の時に笑ってしまうことを我慢できる自信がありません。


 でもそれは本当にいきなりでした。

 

 舞人たちにとっては東方にみえていた森の中から、何がそんなに楽しいのか、何も楽しくなくてもあのテンションの高さなのか、はたまたまさかの瑞葉くんリスペクトか、相変わらずにこにこ顔の旭法神域のみんなが登場してくれたのです。


 おそらく瑞葉くんはいきなり足元に急降下してきたカラスに馬鹿にされるようにカーカーと鳴かれる中で電話越しの風歌ちゃんに頼んで、“自分に何かあった時のための保険”として旭法神域のみんなを呼んでおいてくれていたのでしょう。


 ここで舞人が牛さん(美少女)のことを守って、ラブロマンスなのです。


 舞人と同じく状況を理解した牧場のお姉さんは妙案だとばかりに手を叩き、なぜか智夏ちゃんは先ほどの羊さんのほうをみる中で、牛さん(美少女)が行動をしてしまう前に、早速舞人も突っ込もうとすると――よくよくみればみんなの大将をやっていたのは奈季くんでした。金髪で長身なので、いい意味で目立ちます。


 どうせなら奈季くんのことをコテンパンにしてやろうと、舞人は考えました。


 子供としかいえません。


 忍者のように前傾姿勢になりながら、舞人がうきうきな表情で突っ込むと――、


「「「えぇ! とりあえず逃げて舞人! もうどっち側でもいいから早くっ!」」」


「死んだなっ」


 しかし全ては時すでに遅しでした。


 舞人が奈季くんの嘲笑に怒りを感じた時には、寝起きで寝ぼけていたのか、それとも舞人を追いかけこする遊びでも始まったと思ったのか、とても楽しそうに芝生上を爆走していた羊さんに、お尻をドンッと攻撃されてしまったのです。


 柵の向かい側の少女たちはもちろん、智夏ちゃんや牧場のお姉さんまでさすがに笑ってしまう中で、誰よりも舞人の喜劇を間近でみていたはずの奈季くんは、『安心しろよ舞人。お前の悲しみなら俺が全て受け止めてやるぜ』という親友なら持って当然だろう男気なんてみせてくれずに、ボーリング玉状態の舞人を軽々と飛び避けてしまう中で、奈季くんなんかとは違って優しさだらけの旭法神域のみんなは舞人のことを受け止めてくれようとしましたが、変なところで瑞葉くんリスペクトをするみんなは、先頭の少女が倒れてしまうと、それが津波のように波紋していき、最終的にはボーリングのピンのようにみんなで仲良く倒れました。


 ストライクです。

 

 最後の最後に待っていたまさかの展開には芝生さんまでも笑ったかのようにゆらゆらと揺れ、羊さんに至ってはやってやったぜとばかりにウイニングランをする中で、サメの浮き輪を右肩に背負いながら芝生上を駆け抜けていった奈季くんはついに牛さん(美少女)の前にも現われましたが、右手に木刀を装備した智夏ちゃんの圧巻なまでの剣捌きによって、奈季くん(雑魚)も斬り倒されました。

 

 こうして智夏ちゃんに守ってもらえた牛さん(美少女)は智夏ちゃんを思慕し、おっぱいを絞らせてもらうこともできたので、めでたしめでたしとなったのです。


 黄昏時の風に吹かれる芝生や木々が夕焼け色になれば、先ほどまでは大騒ぎだった牧場の動物たちも、さすがに疲れたように各々が好きな所で休憩し始めました。

 

 そんな中でも旭法神域のみんなはこんなにも広々とした原っぱの中でも好き好んで1箇所に集まって、夏バテから回復したように和気藹々としながら、牧場のお姉さんからもらったアイスの美味しさに微笑ましいほどに感激していました。

 

 そして誰よりも牛さん(美少女)のために走り回ったはずなのに、全ての努力が報われるだろう“最後の一瞬”を智夏ちゃんに奪われた舞人が、甲子園で敗れた高校球児のように号泣している中で、大気圏外からもあっさりと生還した冬音ちゃんは、「お父様お父様。羊さんに突かれたのは背中ですか、お尻ですか?」と死ぬほどにどうでもいい確認ばかりしてくるので、涙は滝のように溢れました。

 

 そんな中で奈季くんはどうしていちいちそうお洒落ぶる必要があるのか、木の下のベンチに高貴な感じで足を組んで座って無駄に上品な感じでチョコレートアイスを食べていたのですが、「そうよ、奈季! もう超最高なの! 余はねいっぱい頑張ったから、“なになに牧場に遊びに来ればいつでもアイスを食べれる券”をもらったのよ!」と、牧場のお姉さんからもらった《アイス食べ放題券!》という手作り満載の色紙を百万円でもみせびらかすようにロザリアは自慢してきたので、「すげえな。ロザリア。アイス食べ放題かよ。千円で売ってくれるか?」「!!! えぇ! 奈季! これをあげたら千円くれるの?」「いいぞ。その食べ放題券となら交換してやる」「じゃあ! 1秒で交換する!」といたいけなロザリアを屑らしくからかっているので、牧場のお姉さんからぺし~んっと金髪を叩かれていました。


 そして馬鹿三銃士の最後の1人である瑞葉くんは、両膝を芝生に乗せた智夏ちゃんが牛さん(美少女)のおっぱいを絞っている中で、智夏ちゃんの邪魔をするように、だいぶ気に入ったらしい牛さんの着ぐるみでうろうろしていたので――、


「あっ。風歌風歌。瑞葉ならここにいるわよ。あとはお願い」


 どれだけご機嫌なのか、はたまた今回の件でもともと緩んでいた頭のネジが外れてしまったのか、なんとも情熱的な鼻歌を歌いながら、智夏ちゃんの周りをうろうろしていた瑞葉くんも、これには「!」となります。《ビビリ》の鏡でした。


 しかし淡いブラックのロングスカートを夕陽に透けさせている風歌ちゃんは、どうしようもない兄上のもとへと向かう前に、舞人の高校野球ごっこに付き合ってくれるようにカメラマンごっこをしている冬音ちゃんのお尻を叩いてくれました。


「もうっ冬音ちゃん。そうやって冬音ちゃんもふざけてばかりいちゃダメですよ。――そもそもどうして冬音ちゃんはこんなにスカートが乱れているんですか?」


「!!! 風歌お姉ちゃん! 風歌お姉ちゃんもいつから、この“おっぱい牧場”に来ていたんですか! ――もしかして風歌お姉ちゃんも忍者ですか?」


「忍者ですよ。冬音ちゃんがお馬鹿なことばかりしているから忍者になるんです」


「じゃあ風歌お姉ちゃんはカンチョウが得意ですか?」


「どうしてですか?」


「忍者はいつもカンチョウのポーズをしているからです!」


 指一本でも入れ込むような隙があれば、すぐにエッチな話題に持っていこうとする冬音ちゃんにはさすがの舞人も酷く落胆する中で、瑞葉くんは逃亡しました。


 臆病者らしく牛さんの群れに混じってどさくさに紛れようとしますが、厄介事に巻き込まれたくない牛さんたちも逃げるので、白黒レースが突如開演します。


 一番最初に瑞葉くんの珍行動に気付いた冬音ちゃんに風歌ちゃんは瑞葉くんの追跡をお願いしたので、軍人のように威勢よく敬礼した冬音ちゃんですが――、


「さすが瑞葉お兄ちゃんです! 忍者だからどの牛さんだかわかりません!」


 どこからどうみても一匹だけ怪しくお尻を左右に振る牛さんがいるのに、1人で笑顔を振り撒く冬音ちゃんには、舞人と風歌ちゃんもため息を落としました。


 そして冬音ちゃんが本物の牛さんのことを捕まえて、“これが瑞葉お兄ちゃんですか?”と楽しげに顔を覗いている様子をみて、舞人がうな垂れてしまう中でも、風歌ちゃんは舞人の両手の汚れを、手持ちの青いハンカチで拭いてくれながら――、


「でも舞人くんもダメですよ? あんまりふざけてばかりいちゃ」


 と一点の曇りもない正論をいうので、舞人が素直に頷くと、風歌ちゃんは――、


「本当に反省しましたか?」


「本当に反省しました」


「ならよろしいです」


 女神のように慈しみのある笑みを浮かべながら、善言を与えてくれたのでした。


 対価を求めずに人を許せる風歌ちゃんは人間の鏡でしょう。


 そんな中で冬音ちゃんも3度目の正直として瑞葉くんのことをぎゅっとして御手柄をあげると、これから瑞葉くんに刻まれてしまう悲劇のこともよく理解していずに、満面の笑みで風歌ちゃんのところへと連れて帰ってきてくれました。


 瑞葉くんは牛の着ぐるみから顔を出したまま風歌ちゃんの前で正座をさせられてお説教を受けると、舞人とは違って牧場の動物たちへの奉仕も命じられます。


 まぁなんていうか瑞葉くんらしい結末でしょう。


 夕陽で背中を温める風歌ちゃんからの厳格な指令に、殊勝に敬礼した瑞葉くんが牧場内を全力疾走する中で、旭法神域のみんなも司教の奮闘に協力を申し出ますが、むしろ足手まといになって苦労を増やすので、牧場内は笑いの渦でした。


 そんな心地よい喧騒に包まれた牧場の光景を舞人は温かい瞳で眺めながらも、いったい何を考えているのか、それとも何も考えていないのか、風歌ちゃんの香りに満ちた青きハンカチを口元に巻きながら、《おっぱい》というたった4文字に引き寄せられて、牧場内を笑顔の海で満たしている旭法神域の宗徒たちの姿をみて――、


「やっぱりおっぱいってすごいなぁ。だっておっぱいはこんなに多くの人を笑顔に出来るんだもん。ぼくは生まれ変わったら女の子のおっぱいになりたい」


 という必ずや門外不出にしてもらいたい、しょうもない教訓を得ていました。


「はぁお兄様。いくら周りに人がいないからと、おっぱいを連呼しないてくださいな。どこで誰が話を聞いているかわからないんですから。本当にお兄様は反省しませんねぇ。……てかなんで風歌のハンカチを口元に巻いているんですか……」


 美麗なる夕陽に本日のさよならをいうときが近づいてくる中で奈季くんのことを馬鹿にしてはいけないほどに気取っていた舞人が、「……」になりました。


 桜雪ちゃんです。


 なぜか胸元を押さえる舞人が顔だけで振り返ると、白いミニスカートを風に揺らしながら呆れ顔をする桜雪ちゃんと、淡い水色のロングスカート夕陽に染めながら頬を風船のように拗ねさせている、ふざけた惟花さんと目があったので――、


「――逃げていい?」


 初っ端から赦免なんて放り投げた舞人が、卑怯者の汚名を被ろうとするとーー、


『もしも逃げたらね、明日は一日牛さんコスプレで過ごさせちゃうからね?』


 さすがは智夏ちゃんのマザーです。畜生らしく卑劣極まる脅しをしてきました。


 小鳥のように可愛い心臓の舞人は、狼に睨まれたように鳥肌を立てちゃいます。

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