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“Kiss to Freedom”  ~世界で最後の聖夜に、自由への口付けを~  作者: 夏空海美
Chapter3:Kiss to you , because Kiss to me.
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第123話:『霊妙の星屑』と『雄偉の笑劇』

 しかし神様はよほど舞人たちの馬鹿っぷりを楽しみたいらしく、舞人の親近者たちの中でも《馬鹿代表》ばかりをこの戦場に集めてしまったせいで、「お父様お父様! 無理やり咲優ちゃんのおっぱいを触ろうとするから咲優ちゃんは怒っちゃうんですよ! だからここはまずお父様から全裸になって――」と牛さん(美少女)の突進によって自分のミニスカートが揺らされようとも、とりあえず舞人のことを脱がそうとする冬音ちゃんと、「ねぇねぇ深彩ちゃん! 余はねバニラアイスが超大好きなんだけどね、今日はねチョコレートアイスとストロベリーアイスも――」とまだそのアイスのあてがないというのに、こんな土煙の中でも最高の笑顔でアイスの話しばかりしていたロザリアが、あっさりと戦死する中で――、


「! あっ! そうだよ、みんな! コスプレだよコスプレ! 僕たちはさ咲優ちゃんと同じ牛さんの恰好をしないから――こんなに攻撃されちゃうんだよ!」


 息を吸うだけでも喉が痛くなるような土煙の中でも、1人だけお化け屋敷にいる女子高生のようにきゃぴきゃぴしていて、早く死なねえかなぁと舞人から思われていた瑞葉くんが、舞人の心中へと落雷を打つような良案を思いついてくれました。


「なるほど瑞葉! 確かにそうだな! でも今はそのコスプレのあてが――」


「大丈夫だよ、舞人くん! 風歌に力を貸してもらって、僕が急いで作ってくるから! 3分だけ持ちこたえて、みんな! 3分後には絶対に戻ってくる!」


 さすがの瑞葉くんも牛さん(美少女)の突進をかわすコツを掴み始めたのか、牛さん(美少女)の頭突きを怯え腰ではなく華麗に避けたので、野次馬の少女たちからは歓声と笑いが巻き起こる中で、予想通り調子に乗った瑞葉くんが連続回避をしようとして、ぎりぎり回避を出来たというか、むしろ左のお尻を軽くど突かれ、「いたっ!」と蚊に刺された時の比ではないほどに痛そうにするので、今度は野次馬の少女たちの声が全て笑声になる中でも、戦線の離脱のために少女たちのほうへと避難する瑞葉くんが、「やってやったよ、みんな!」という感じでなぜか両手をあげながら走り寄るので、牧場のお姉さんだけでなく舞人もさすがに噴き出しました。


 またもちろんですが好きな人に恋のアタック(物理的)をしてしまう美少女牛さんをコスプレによって惚れさせて、おっぱいを触らせてもらうのは舞人と瑞葉くんの仕事ではありません。それは智夏ちゃんと牧場のお姉さんのお仕事です。


 舞人と瑞葉くんとしてはそんな2人のことを写真で収めて、千年後にまで語り継ぐのが使命なのでした。土煙を払うために用意した巨大団扇を瑞葉くんが振り回す中で、下心丸出しで芝生上に俯けになる舞人の姿なんて用意に想像できました。


 ドドドッという効果音で土煙を引き裂いてくる牛さん(美少女)を舞人が闘牛士のように美しくさばく中で、舞人と瑞葉くんの業の深さを知らない牧場のお姉さんは牛さんコスプレに乗り気でいてくれても、2人の全てを知る智夏ちゃんは――、


「ねぇねぇ舞人! そのコスプレってさ、わたしもしないといけないの!」


 やっとの思いで攻撃を避けたかと思ったら、目を疑うほどの早さでUターンしてきて、すでに背後で土煙を荒げる牛さん(美少女)のツンデレ突進も、智夏ちゃんは華麗に回避すると、冬音ちゃんとは違って乱れたスカートを直しながら、もっとも危険な立場にいるのに、もっとも楽しそうな舞人の右横に並走してくれます。


「なになにちなっちゃん。もしかして恥ずかしいの?」


「恥ずかしいから舞人が着てよ! 着ないとね全部お母さんにいっちゃうから!」


「君は鬼か! そんな脅しをしてお父さんに牛さんコスプレをさせるなんて!」


 あくまでも外野からみれば、牛さん(美少女)に追いかけられている中でもイチャイチャしている仲良し親子にみえたのかもしれませんが、舞人にとっては死活問題なので、数年ぶりの真剣な表情になってしまう中でも、下手すぎる愛情表現をする牛さん(美少女)は舞人の事情なんてお構いなしに突撃していました。


 本来このようなパターンでは舞人と智夏ちゃんがそれぞれ左右に飛べばいいのでしょうが、石鹸の香りの黒髪を風に躍らせて全力疾走の智夏ちゃんの右手側には、こんなどたばた騒ぎなんて日常茶飯事だからか、牛さん(美少女)と舞人たちとの追いかけっこにもまったく動転していずに、気持ちよさそうに芝生上でお昼寝をする羊さんが3頭ほどいたので、羊さんたちのお昼寝を邪魔できなさそうな智夏ちゃんの左手を舞人は取ってあげると、弧を描くように右腕を宙に振るいました。


 最良のタイミングで智夏ちゃんも飛んでくれて、綺麗に投げ飛んでくれます。


 このコンビプレーには柵の向かい側の少女たちから歓声が上がる中で――、


「お待たせ、みんな! でももうだいじょうぶだよ! 僕が帰ってきたから!」


 天が気まぐれに吹かした風のおかげで徐々に土煙が薄れる中で、野次馬の少女たちや森の動物たちの声援に押された瑞葉くんが、戦場へと戻ってきてくれました。


 状況的にこの場にいる全ての生物の注目を瑞葉くん1人が集める中では、さすがの牛さん(美少女)も地を揺らすことをやめて瑞葉くんに注目する中で、彼女よりも先に瑞葉くんのほうをみた舞人たちの眼前には、なぜか面白い光景でした。


 一瞬だけは瑞葉くんの姿を探してしまった舞人たちも、1秒後には全てを理解して、実は少女たちや森の動物たちは声援を送ってくれていたのではなく、お腹を抱えて笑ってしまっていたからこそ、それが声援に聞こえたんだとも気付きました。


 緑の芝生上に一匹で佇む親友が笑われてしまっても、舞人は瑞葉くんのために怒ってあげることもできなければ、だからといって瑞葉くん自身に怒りを抱くわけではありませんが、瑞葉くんのような人物を親友に持ってしまった自分に対しては確かなむなしさを覚えながらも、舞人はしっかりと突っ込みを入れてあげました。


「いやっ! ちょっと待てよ瑞葉! なんでお前はちゃっかりと牛の着ぐるみを着てるんだよ! そうやってすぐネタに走るのをいい加減にやめろ、瑞葉は!」


 冷静に考えなくても親友があんなにも馬鹿だということはとても恥ずかしいことなので、牛さん(美少女)のことをそっちのけで舞人が叱責してしまう中でも、瑞葉くんは着ぐるみという声が篭る環境でも、自慢の発声で声を届けてくれました。


「ネタなんかには走ってないよ舞人くん! エッチな顔丸出しの舞人くんよりも僕は真剣だよ! だって本当はすごく怖いんだもん! ドドドッという音で接近してくる咲優ちゃんがすごく怖いの! だから僕さっきは逃げちゃったんだ!」


「この軟弱者め! てか瑞葉! 危ない危ない! 今すぐ正面に向かって走れ!」


 牛さんの着ぐるみを着ていて4足方向で飛び跳ねる瑞葉くんは、何がそんなに楽しいのか、それとも何も楽しくなくてもあのテンションの高さなのか、相変わらずきゃぴきゃぴしていました。さすがの風歌ちゃんだって今の瑞葉くんをみたら、「もっとしっかりしてください、瑞葉くん!」と、ハリセンで頭をぺしんっでしょう。

 

 でも悲しいことにそんな瑞葉くんへとも、最後の時が迫っていたのです。

 

 牛さん(美少女)でした。牛さん(美少女)があまりにも舞人と親しげに話す瑞葉くんを恋のライバルと勘違いして、あの世へと吹き飛ばそうとしていたのです。


 牛さん(美少女)が明らかな激おこモードとなっても、「???」の瑞葉くんをみて、「あっ。終わったな、これ」と、この場にいる全員が悟ってしまいました。


 どすんっというよりはち~んという瑞葉くんの死亡音が、舞人たちの心には鳴り響く中で、牛さん(美少女)の暴れぶりに激昂したのがシェルファちゃんです。


 相変わらずのペンギン姿でもっとも勝ち馬だろう舞人の左肩に座っていて、仮にもご主人様のロザリアの死亡にも両手を叩きながら爆笑していたペンギンシェルファちゃんが瑞葉くんの死亡にはぶちきれたのです。牛さんの着ぐるみを着ていた瑞葉くんを、変身出来る自分と重ね合わせてしまったのかもしれません。


 シェルファちゃんは自分自身も正々堂々と牛さんの姿に変身すると、瑞葉くんの仇だといわんばかりに突っ込もうとしますが、さっさと突っ込めばいいのに、意味もなく前脚だけで地を蹴って威嚇していたために、ずっと舞人の肩に乗っていたことで妬かれていた牛さん(美少女)に脳天をどつかれ、大気圏外へおさらばです。


 愛すべき馬鹿たちは馬鹿らしい最後の一瞬を刻み、どんどん死亡していきます。


 さすがに舞人ももうダメかと思いました。


 そもそもあんな役立たずたちを貴重な戦力に考えていた時点で舞人たちに勝ち目なんてなかったのかもしれません。死んでいった馬鹿たちの笑顔。馬鹿たちは死に行く最後の一瞬まで、最高の笑顔で笑っていました。馬鹿なのでたった一秒後の未来まで予測できていなかったのでしょう。遺影でまであんな笑顔をされていたら、舞人は葬式の時に笑ってしまうことを我慢できる自信がありません。


 でもそれは本当にいきなりでした。

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