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“Kiss to Freedom”  ~世界で最後の聖夜に、自由への口付けを~  作者: 夏空海美
Chapter3:Kiss to you , because Kiss to me.
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第118話:『窮追の奇跡』と『窈窕の信頼』

 それでも奈季くんは奈季くんで、シェルファちゃんの右前脚を鞭で導いてしまうので、シェルファちゃんとロザリアも戦地の中心点へと連行されてしまいました。


 でも今頃になってシェルファちゃんは、舞人と惟花さんに出会えた事に感激するように「めぇ~」と鳴いていたので、一緒に戦える嬉しさもとても強そうです。


 舞人は鎹の木と再戦する前に、奈季くんと互いの武器を触れ合わせました。


 こうすることで奈季くんからは“白き刀”を強化してもらい、そのお礼として舞人からは、奈季くんの身体能力を向上させるための白い霧を授けてあげたのです。


 そしてそんな舞人たちへと鎹の木は、1つの罠を仕掛けてきました。

 

 彼女の司令塔である鎹の幹から、100メートルほどしか離れていない所しょうか? 濃緑の海が蠢き、球体が入るような1つの穴が生み出されました。

 

 舞人たちは死に誘われるように、その空間へと落ちてしまいます。

 

 もちろんそこでは敗滅を叫ぶ4属性の攻撃が待ち受けました。

 

 シェルファちゃんが併進させる炎の壁で、なんとか四囲しいを守ってもらう中で、舞人と奈季くんが力を合わせ、霧よりも不透明な鎹の枝の中を邁進まいしんします。


「でもさ、惟花さん!! 今みたいな鎹の木のことも、本当に止められるの!?」


『たぶん急所がどこかにあるはずだよ、舞人くん。神の愛を吸収している――わたしたちの心臓さんに匹敵するような部分がね。そこを止めれば大丈夫かな?』


「それならなんとかなりそう! でもその心臓の場所はわかる?」


『……。……。……』


 舞人から振った話しなのに、惟花さんは沈黙でした。


 でもここでの惟花さんの沈黙は、逆にいいたいことが明確に伝わります。


 しかし惟花さんは何も悪くありません。悪いのは奈季くんだけでしょう。


 このような場合の舞人は、ある意味で冷徹といえるほどに一貫でした。


「……奈季。残念だけどここから先は、ぼくと惟花さんとロザリアじゃ――」


「ざけんな、お前! 俺のことだけここに見捨てて、逃げる気満々じゃねえか!」


「ふざけんなは、こっちの台詞だよ! もとはといえばお前がぼくたちを強引にここに飛ばしてきたんじゃねえか! なら最後の責任ぐらいは潔くお前が取れ!」


「!!! あらぁ! こんな時にも喧嘩先生をしちゃダメだわ、舞人と奈季!」


 馬鹿2人は鎹の枝への攻撃も捨て置き、今にも殴り合いを行おうとしました。


 でもそんな舞人と奈季くんの中に、のん気に割って入ってくれたのは――、


『もしも~し。もしも~し。――聞こえてるかな。もしも~し』


「聞こえてるよ瑞葉! もしもしは聞こえてる! 相変わらず声でけえな!」


『! よかった、舞人くん! また舞人くんたちが僕のことを無視してるのかと持って、僕は心配したよ! だって舞人くんたちはさ、すぐに僕のことを――』


『!!! 無事だったんですか、舞人くん!?』


「もちろん無事だよ、風歌。だってぼくは強いからさ」


 水色ピアスから間接的に伝わる風歌ちゃんの様子だけで、どれほど風歌ちゃんが舞人の無事に喜んでくれているかという事が、余すところなく実感できます。


 でも喜びに浸る舞人とは対称的に瑞葉くんは、風歌ちゃんにまで大好きなお話しを邪魔されてしまったせいで、記念すべき102回目の死を迎えていました。


『えぇ~。また瑞葉お兄ちゃんは凍っちゃったの~。すぐに瑞葉お兄ちゃんは凍っちゃうんだね。でも今は時間がないから、本当に無視をしちゃうよ? ――それで、舞人くん? 実は舞人くんたちに話しておきたいことがあるんですよ。先ほど舞人くんにみせてもらっていた光景から、鎹の子の弱点かも知れないところを発見できたかもしれないんです。――たぶんここだよね、惟花お姉ちゃん?』 


『あっ。そうそう風歌ちゃん。たぶんそこだよ。わたしの予想とぴったりだね?』


「うわっ! 最低だ、惟花さん! どさくさ紛れに、風歌の手柄を奪うなんて!」


『???』


「とぼけないでよ! さっきまで自分は鎹の弱点に気付いてなかったくせにさ!」


 風歌ちゃんと惟花さんの《かもしれない》は、舞人にとっての《絶対》でした。


 舞人は白き瞳へと、風歌ちゃんから通達された鎹の木の弱点を刻み付けます。


 またちょうどこの時から舞人の白き血も、鎹の少女の管理が行き届いていない“神の愛”をみつけて強奪してくるという行為を、やっと開始してくれました。


『舞人くん。桜雪たちも白き結界の補助には入れたようですけど……やっぱり少しだけ厳しいようです。出来れば30秒後には全てを終えてもらいたいって』


「……まだ30秒もあるなら、余裕だよっていいたいけど――!」


 この局面に差し迫ってなお鎹の少女の攻撃は秒刻みで進化し続けてました。


 舞人たちグループは舞人のおかげで、持久戦に持ち込めば勝機はみえますが、離れにいる桜雪ちゃんたちの生存時間までは、いくら舞人でも変えられません。


「! 桜雪ちゃんたちが大変なら、シェルファちゃんがファイアーすればいいのよ舞人! シェルファちゃんのファイアーなら、舞人と奈季が一気に進めるわ!」


「……でもそれだと、ロザリアとシェルファちゃんが――」


「ふははっ! 余とシェルファちゃんは大丈夫よ、舞人! 15秒だけは!」


 最後の一言さえなければ、舞人たちも決心を決められましたが、最後の一言が心を鈍らせます。純粋なロザリアに悪気はないのでしょうが、これは困りました。


 でも奈季くんはロザリアの友人だからこそ、彼女のことも信じてあげます。


「いくぞ舞人。もうどの道進むしかない。――助かるロザリアとシェルファ」


 奈季くんが背後に向けて合図すると、シェルファちゃんが気高く吼えました。


 シェルファちゃんは自分の視界内の全ての空気を吸わんとばかりに一拍だけ大きく息を吸うと、全身全霊の充溢じゅういつな炎を吹き出してくれます。


 舞人たちにとっては《地獄の業火》というよりも、《天国の業火》でした。


 シェルファちゃんの炎は舞人たちのことを、文字通り背中から押してくれます。


 でもシェルファちゃんの炎を持ってしても、あとわずかな距離は残りました。


 そんな中で奈季くんは、隣にいるのが舞人だからこそ、全てを託してくれます。


「飛べ、舞人と惟花。俺だってあと何十秒なら、1人でなんとかできる」


 奈季くんは舞人へと絶世の信頼が込められた瞳を渡してくれました。


 舞人の刀と奈季くんの槍が重なり、1つの美音が奏でられます。


「助かる奈季。もしもの時のぼくの形見代わりに、これを預かってていてくれ」


「はぁ。なんだよこれって――俺の靴下じゃねえか! なんでパクってんだよ!」


 大海を引き裂く勢いで奈季くんが黄金の槍を投擲すると、舞人は飛翔しました。

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