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“Kiss to Freedom”  ~世界で最後の聖夜に、自由への口付けを~  作者: 夏空海美
Chapter3:Kiss to you , because Kiss to me.
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第117話:『絶命の纏綿』と『集結の義侠』

 鎹の木の本陣に侵入してから、いったいどれほどたったのでしょう。

 

 まるでクモの巣のように枝が張り巡らされた鎹の海の中に入ってからわずかあとに、舞人は彼女の夢に溺れましたが――その間も時は進み続けていたようでした。


 すでに鎹の木は愛知県の神の愛を全て吸収してしまったも同然なので、いくら舞人と惟花さんが逸脱な力を集結させた存在でも、苦しさはみえてしまいます。


 それでも惟花さんには神の愛の優劣では語りきれない、《幸運》さがありました。


「……やっとみえた。あれがぼくたちが力を貸してもらうべき人たちなのかな?」


 100メートルほど前方でしょうか?


 鎹の木の支配に反意を抱く光りが、そこからはみえました。


 位置的にも舞人たちが助けてあげるべき、非戦派の人々でしょう。


 おそらく非戦派の人々は宿葉寺院の正当性を証明するためだけに、平和主義的な思想をしていても弾圧されるような事もなかったのでしょうが、争いの長期化から徐々に宿葉寺院が表の顔と裏の顔を同化させてしまったこともあって、《鎹の木への生贄》として捧げられようとしていたからこそ、そこに捕らわれていたのです。


 でもこのままでは、無事でいてくれてよかったとも喜べません。


 彼らを守る結界が悲鳴をあげるように、目に見える亀裂が入り始めたからです。


 ……やっぱりあの結界も、そろそろ限界なのかぁ……。


 ……運よく持ちこたえられて、あと数十秒っていうところか……。


「うわぁ! シェルファちゃん2号が大変です、お父様! 死んじゃいました!」


「いやっ! まだ死んでないでしょ! 君は日本語が時々おかしいんだよ!」


「まだまだいけるでしょ、舞人は! とりあえずあなたがなんとかしなさいよ!」


「……そんな風に言われたって、そもそもぼくだって限界ですし……!」


 こんな舞人たちの防衛に、とても大きな役割を果たしてくれている桜雪ちゃんの能力が変わってしまうのも、あとわずかです。あと10数秒で3分ですから。


「どうするんですかお兄様! お兄様はどのタイミングで特攻なさるんですか!」


「どうして君までぼくが特攻する前提なのよ!! それ絶対におかしいから!!」


 このような時に常々舞人の頼みの綱なのが、瑞葉くんと風歌ちゃんでした。


 舞人が困っている時の2人といったら、常に“救世主”的な存在だからです。

 

 でも今はそんな2人の声が、左耳のピアスから届いてくれません。

 

 瀑布の如き神の愛を鎹の少女がしぶかせているせいで、舞人たちと瑞葉くんたちを繋ぐ神の愛が遮断されてしまい、交流の断絶を強いられているようでした。

 

 すでに10秒先の未来さえも不透明な中で、後先考えて力を温存しているようでは、15秒先に生きていられる保証はないと、嫌でも舞人だって確信できます。

 

 最悪の場合でも舞人は生命活動だけは維持できるように、心臓部に秘蔵の”白き血”を装填していましたが、その鍵さえ開けて全てをぶつけようとすると――、


「「「「「「「!」」」」」」」


 流星のように、銀色の隕石が流れ落ちてきました。


 それは《鎹の枝の4属性の攻撃》を下敷きにして、大地に地響きを起こします。


 シェルファちゃんでしょう。あの銀色の竜はシェルファちゃんでしょう。


 そしてそんなシェルファちゃんの背中には、もちろん――、


「ふははっ! もう余が来たからね、何も心配いらないわよ、舞人!」


 偶然とは思えない頻度で舞人たちのピンチに登場してくれて――、


 ……どんだけ君は平和なのよ……。


 と突っ込みをしたくなってしまうような、にこにこロザリアでした。

 

 でも実は今回もロザリアは――、


「! あらぁ! だから余はいったのよ、お馬鹿シェルファちゃん! そんな低い所ばかり飛んでいると、あの炎先生で超大切なアイスが死んじゃうわよって!」


 とどこかの舞人のようにバニラアイス(各地を回って頑張って手に入れた、特売で80円)が溶けてしまったせいで、世界の終焉のように悲観しながらも――鎹の木が暴走し始めたのと同時に、激戦の渦中に来訪してくれていたようでした。

 

 ロザリア曰くですが、《超強い魔王様は、弱い人たちを見捨てない》ようです。

 

 そんな理想はなんだかロザリアらしくもありますが、やはり実情としては――、


「だってねだってね、舞人! 余がね世界征服するためには、なぜか弱い人たちしか仲間になってくれないから――余は弱い人たちを助けてあげるのよ!」


 と変なところで魔王様らしく畜生な考えを持っていますが、自分を慕ってくれている人たちに悪いことをするようなロザリアではなく、それどころか自分の出来るだけのことをしてあげる少女だったので、みんなからも大人気なのでした。


 ちなみにですがロザリアは、舞人たちに至っては――、


《超強い人なのに余に意地悪をしないから、世界征服の仲間にしちゃおう!》


 と考えてくれていたようなので、ロザリアの世界征服をおふざけの一種と勘違いしていた舞人たちは、ロザリアのごっこ遊びにも付き合ってあげていたのです。


「あっ! お父様! ロザリアが来てくれましたよ! すごく心もとないです!」


 声を聞いた舞人たちまで嬉しくなるほどに、冬音ちゃんも元気になりました。


 でももちろんロザリアは、1人で助けに来てくれたわけではありません。


 奈季くんや奏大くんたちのことまで、運んできてくれていたのです。


 舞人が頭の中で描いていた通りに、奈季くんは――、


 ……お前。そんな座り方をして、今までよく落ちなかったなぁ。シェルファちゃんの背中はソファーみたいに、余裕ぶって座るところじゃないんだからな……。


 というなんとも気品に溢れた態度で、シェルファちゃんの背中に腰掛けていたのですが、そんな奈季くんのすぐ後ろでは、紅乃ちゃんなどの密偵役の少女たちが立ったり座ったりしながら、鎹の枝の反乱をあらゆる手でしずめてくれていました。


 でもこうなると残りは奏大くんになりますが、奏大くんは尻尾のほうです。


 シェルファちゃんの尻尾付近に立たせてもらっている奏大くんは、後方から迫り来るシェルファちゃんを撃墜せんとする枝を、絶え間なく切り伏せていました。


 ちなみにですが奏大くんは二刀流です。


 兄と姉が残してくれた刀を両手に備えていました。


 そして奏大くんは《戦闘開始から時間が立てば立つほど、刀の性能を強化できる力》と《対立する相手よりも、常に何らかの条件で優位に立てる力》という2つの特性を習得していたからこそ、鉄壁の守護力を誇っていたのかもしれません。


 みんなのことを助けてくれたロザリアには、舞人だって頭が上がりません。


 でもよく考えれみればロザリアは、魔王様と本物の屑ということでか奈季くんとも希少な友人関係になってくれていたようなので、ロザリア自身も奈季くんを助けてあげれてよかったという思いは、抱いてくれていたのかもしれませんが。


 状況が状況なので感動の再開は難しくても、せめて一声かけようとすると――、


「!」


 何を思ったのか奈季くんは挨拶代わりに、不可解な行動を取ってきました。


 舞人たちに瞳を向けたまま金の弓を、物凄まじく引き放ったのです。


 空気を壊すように直進する銀色の矢は、速度と重量の2つが異次元の域に達していて、“秋に列島に進攻してくる台風の破壊力”を、丸々1つ凝縮したようでした。


 でももちろんこれは舞人を攻撃するためではなく、守るための一撃でしょう。


「ふははっ、舞人兄! 大丈夫だった! ちょうどさっきロザリアがね――」


「!!! ダメですよ、奏大くん! 危ないから降りて来ちゃ!」


「うわぁ! 僕に攻撃しないでよ冬音姉! てか冬音姉の方が危ないじゃん!」


 冬音ちゃんや智夏ちゃんや歌い子たちにとって、奏大くんは救世主でした。

 

 舞人たちの中では中央付近に位置していた彼女たちを圧死させようとする鎹の枝を、全体重を乗せた攻撃によって真っ二つに切り裂いてくれたからです。

 

 そしてそんな冬音ちゃんよりもさらに後方にいて、舞人たちの殿しんがりを担当してくれていた桜雪ちゃんは、紅乃ちゃんによって守られていました。

 

 紅乃ちゃんの刀は美音を奏でるのです。


 振る速度や炎の量を調節することによって。


 そしてその音色は、相手の“神の歌”を阻害するのはもちろん――、


 その刀の音色で相手にイメージさせた“概念”を、能力として習得できました。


「気のせいじゃないくらいに桜雪たちは、いつも災難に見舞われてばかりね」


「一番頼りになるはずのお兄様が、疫病神属性も背負っていますからね!」


 みんなに疫病神疫病神いわれも、悲しいことに舞人は反論できません。


『でも大丈夫だよ舞人くん。舞人くんが疫病神でも、わたしはついてるから』


 奈季くんは武器の潜在能力の解放なんて事ができるので、自分が武具として扱うものを《何もなき空中》から取り出し、それを装備する事も流麗に行えます。


 すでに舞人の横に並んで鎹の海を駆ける彼は、弓ではなく槍を備えていました。


「……なんだなんだ。2人であの世にいっても、仲良く幽霊ごっこか……?」


「真顔でその反応やめろ! 失礼過ぎんだろ! まだぼくたちは死んでねえよ!」


 舞人たちを包んでいた劣勢の空気も、奈季くんたちの登場で追放できました。


 このままならなんとかいけるかもしれないと、誰もが思い始めたのです。


 それでも今の舞人たちの手元に残っている神の愛は、全盛ではありません。


《鎹の少女の撃破》と《白き結界の守護》は、同時展開が最善でしょう。


 舞人と惟花さんが、前者の任命を受けるのは確定済みだとしても――、


 じゃあ同伴してくれる人を誰にしようかなぁと、思案してしまう中で――、


「じゃあ舞人。惟花と一緒に敵の懐に飛んでくれ。俺たちはあの白い結界の補助に入るからな。任せたぞ舞人。これは舞人と惟花だから頼めるんだ。幸運を祈る」


 有無をいわさずに奈季くんは、舞人に貧乏くじを引かせようとしました。


 すでに銀の鞭を右手で握る奈季くんは、2本の鎹の枝を鞭で縛りつけて弓のようにしならせ、反動の勢いを使って舞人たちを吹き飛ばそうと画策していたのです。


 非道な奈季くんにも桜雪ちゃん辺りは完璧に同調して、鎹の枝へと舞人のことを磁石のようにくっつけるので、強制的に発射地点にセットされてしまいました。


 しかしここまで一方的にされて黙っているほど、舞人も徳を積んでいません。


「ふざけるな屑! 絶対に逃がさない! ぼくが地獄に落ちるなら、お前もだ!」


 舞人は鎹の枝から放たれてしまうのと同時に奈季くんの左腕へと白き血の縄をくくりつけ、自分たちと一緒に、鎹の樹木の上空へと連れ運んでしまいました。

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